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第10話  嫉妬に身を焦がす

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やっと父親に部屋から出る事を許して貰ったチャールズはげっそりと瘦せ細っていた。

部屋に入れられて68日目の事だった。
暴れる事もなかったので毎日3食の食事は提供されていたのだが、全く手付かずの時も多くハンストかと思われたがそうではなかった。

チャールズは考える時間だけがたっぷりある中で、シェイナへの謝罪と復縁。そしてシェイナとの未来を想像する事で昼も夜も時に寝る事も忘れて時間を過ごしていた。

「湯を浴びて、髭を剃れ。スレム家に行くぞ」
「嫌だ…」

蚊の鳴くような小さな声で答えたチャールズは「は?」と問い直す父に向かって今度は叫んだ。

「嫌だと言ったんだ。誰がビヴァリーなんかと!」

懸命な訴えも鼻で笑われて一蹴される。

「お前にこれが良い、あれが良いという選択肢があるとでも思っているのか?お前にあるのは私に対して服従する義務だけだ。この無駄飯食らいがッ!」

言葉を吐きながら近づいて来た最後には拳もチャールズの頬に飛んで来た。
今までなら踏ん張る事も出来ただろうが、体力も失っているチャールズは壁に向かって吹き飛んだ。

折れた歯を「プッ」と口から吹き出してチャールズはもう一度叫んだ。

「行かねぇつったら行かねぇし!ビヴァリーなんか誰が妻にするかッ!」

倒れ込んだままのチャールズは今度は胸ぐらを掴まれて頭部を激しく揺さぶられた。

「馬鹿か?あぁ馬鹿だからこんな面倒事を起こすんだったな。バカなお前に教えてやろう。妻に迎えずともいいんだ。嫁にすれば良いだけだ!」

「勝手にしろ!俺はシェイナ以外は認めない。離せよ!」

何処にそんな力があったのか。
チャールズは胸ぐらをつかむ父の手首をギリギリと締め上げた。

「俺に指図すんな。アンタがビヴァリーを嫁にすりゃいいだろ!」
「なんだとぅ!親に向かってその言い草はなんだ!!」
「うるせぇんだよ!アンタはアンタで好きにしたらいいだろう!」


チャールズはもう19歳。今は体力も落ちてはいるがそれでも父親の腕力などとっくに上回っている。締め上げた手首を捩じるようにして放り投げると、起き上がり自分の部屋に戻って行った。


行くところがない訳ではない。
ここ暫く顔は見せていないが高齢の未亡人の話し相手や慰め役をしている時に、アパートメントの1室は買ってもらったのでねぐらはある。

ビヴァリーにその部屋を教えなかったのはわざわざ教えるほどではないと思ったし、シェイナと結婚をした後で両親と同居になるのは目に見えていたので、シェイナを夜に啼かせる時にその声も誰にも聞かれたくはなかった。

問題は鍵は持っているのだが、その未亡人とももう3年ほど会っていない。未亡人が財テクの一環、気まぐれで購入したものなので売りに出されたりしていれば他人が住んでいる可能性もある。
鍵など付け替えれば済むのだから。

だとしても他に行くあてもないのも事実。
手早く当面の荷物をカバンに纏めたチャールズは家を飛び出して行った。


★~★

「お、開いたぞ。ラッキー」

持っていた鍵で玄関は開いた。中はといえば時が止まったように最後に出て行った時のまま。それが解ったのは掃除すら誰もしていないので、3年前に部屋を出る前食べた肉串に干からびて元の正体すら想像つかない肉や、包み紙がテーブルの上にそのままあった事だった。

「ネズミすら来なかったのかよ」

閉じ込められていた部屋ほどではないが黴臭いとチャールズは窓をあけて空気を入れ替えた。

その時、3階建ての3階の角部屋になるこの部屋の開け放たれた窓から見えた光景にチャールズは胸が躍った。

眼下に見えるのは教会の敷地。そこではシェイナが子供たちに囲まれて髪にリボンを付けてやっている姿があった。

「シェイナ…あぁ…シェイナだ…」

じわっと目には温かい涙が溢れてしまう。
恋焦がれるとはこういう事なのだろうか。

口元が何か言っているのか動くたびに、何を言ってるのかも聞こえてはこないがチャールズも合わせて口を動かす。

そして自分の唇に手を当てるとシェイナを真似て動く自分の唇に興奮してしまった。



しかし、その興奮で局部が怒張を始めた時、怒りがチャールズを包んだ。

「誰なんだ!その男は!」

シェイナの隣で汗を拭い、シェイナが差し出した水筒から水を飲む男に嫉妬と怒りがこみ上げる。

「クソッ!!」

シェイナがその男に向かって微笑む顔を見た瞬間、チャールズは窓を閉め、「ウガァァーッ」頭を掻き毟りながら床で七転八倒。転げ回った。
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