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第07-2話 夫と夫の恋人、そして義両親②-②
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使用人も困惑する一方。
レティツィアの機嫌を損ねてクラン侯爵家からの融資が止まってしまえば自分たちの給金の支払いも危うい。だからレティツィアに次期公爵夫人として接しようとすれば、次期公爵のバークレイから叱責を受ける。
バークレイには「妻にするならフローラ」と強い思いがあり、恋愛小説の如く初夜ではないものの初日の顔を合わせた日にハッキリと告げられた。
「僕の愛は全てフローラのものだ。溢れ出た愛の一欠片も貴様如きが拾っていいものじゃない」
――まるでお母様を見ているようだわ――
父の愛を独占出来ると思い込み、自分こそ唯一とレティツィアにあたり散らした母親にバークレイは「本当の親子なんじゃ?」と思うくらい思考回路がそっくりだった。
――貴族の政略結婚に愛だの恋があるなら教えて欲しいわ――
申し訳ないと思いつつもレティツィアにはバークレイが憐れにしか見えなかった。
肉親ですら人を人とは思わないのに頭から信じられるその能天気さ。この先の公爵家の事を考えればさぞかし頭の痛くなる問題だろうと公爵夫妻を脳裏に思い浮かべた。
執務も家の采配も一切をさせてもらえない、部屋に監禁状態のレティツィアは使用人に頼んで書庫から本を持って来てもらい読み耽る。それが唯一の暇つぶしであり娯楽だった。
公爵家にどんな蔵書があるかなど書庫への出入りもさせてもらえないので、ランダムに使用人が選んで来たものを黙って読むだけ。
王国史もあれば、農業の専門書、航海図の読み方というハウツー本に戦記。多岐に渡るジャンルだが暇をつぶすにはもってこいだった。
気に入らない、嫌いなのなら放っておいてくれればいいのにバークレイとフローラはレティツィアが気になるのか、事あるごとにちょっかいを掛けてくる。
扉が解錠される音がしたと思えば使用人がドレスやらを運び込んできた。
「どうしたのです?こんなに沢山」
余りの量にクローゼットがいっぱいで置き場所がなく、この部屋に仮置きするんだろうかと考えたくらいの量が持ち込まれたのだ。
「若旦那様が若奥様にと」
「わたくしに?だけど・・・」
貰ったものに文句をつけるのは良くないと解っているが、着用したら布より肌の露出が高そうなドレスは端切れにしか見えない。これなら首もハイネックなお仕着せの方がまだ利用できそう。
貰って困る贈り物ほど迷惑なものはない。
しかし、これは間違いなくバークレイの指示により運び込まれたものだった。
★~★
バークレイとフローラが遅い昼食を終えた席で、従者がバークレイに忠告をした。
「若旦那様がどう思っていようと、奥様の状況を侯爵家が知ればただでは済まない」だから「仕立て屋を呼び一式揃える必要がある」と。
そこでバークレイが出した結論は・・・。
「後から来て割り込んできた女だ。図々しい」
「しかし・・・クラン侯爵家から苦情が来たりすれば困るのは公爵家です」
「言わせなければいいんだろう?フローラ、確かもう要らないと言った宝石やらドレスがあるだろう。恵んでやってくれないか」
クラン侯爵家から金を恵んでもらわねば、愛人との楽しい生活も送れないのに。使用人は喉元まで言葉が出たがそれ以上は言えなかった。
フローラは気前よく不用品をレティツィアに出すと言った。
「その代わり、クローゼットに空きが出来ちゃうから新しいの買っていいわよね?」
バークレイが「いいよ」と即答するのは必然だった。
フローラが「もう要らないから捨てて」と言ったドレスや小物、宝飾品は安く買いたたかれても庶民には生涯働いても手が出ない一軒家が買える金額になる。
使用人達は「若旦那様からです」と自分たちでクスミを拭き取り、自分たちで洗濯したフローラの不用品をレティツィアに渡すしかなかった。
★~★
屋敷内でもレティツィアは腫れものに触れるような扱いで何カ月経っても特別なお客様だった。
唯一「客ではない」と思わせてくれるのはバークレイとフローラ。
使用人が「若旦那様がお呼びです」と言うので出向いてみれば・・・。
「いやだ。臭いと思ったらこんな所に他人の物を盗んで喜んでいる泥棒猫がいるわ」
「あぁ、鼻が曲がりそうだ。また何かを物色に来たのか?」
「いいえ。呼んでいるとの事でしたので」
「やっだぁ。男に呼ばれたら直ぐに来るなんて。育ちが知れるわ」
「言ってやるな。男を寝取ってナンボの母親の血が濃く受け継がれているんだ」
「あら?レイはもう食べられちゃったの?」
「まさか。僕は汚いものは目に入れるのも嫌だとフロルが一番よく知っているじゃないか」
フローラはテーブルにあったグラスを手に取ると中身を口に含み、レティツィアの前に来ると「ブゥゥー!」っと勢いよく吐きかけた。
真正面から飛沫を被ったレティツィアは拭う事も許されなかった。
「泥棒猫には勿体ないけどこのワイン、それなりのお値段なの。顔についた分は後で舐めればいいけど…ここ。床にも落ちてるわよ?舐めないの?」
「不要です」
「え?何?伯爵令嬢からの施しは受けられないって?偉いわよねぇ…庶子でも侯爵令嬢、横からヒトのオトコを掻っ攫って公爵夫人になるという事が違うわぁ。感心しちゃう」
「もう宜しいでしょうか?後で掃除をしておきま‥‥うっ!」
フローラはレティツィアの髪を鷲掴みにすると「舐めろと言ってるの。聞こえない?」髪を引っ張り、レティツィアの頭を下げようとする。
それを見たバークレイも椅子から立ち上がるとフローラに加勢し、レティツィアの頭を押し付けて足払いをし、転ばせた。
「泥棒猫は地べたに這いつくばるのがお似合いよ?物欲しそうに零れたワインを見るその目がとっても素敵」
――お母様と同じね――
気分次第で強弱はあるものの、他人よりも自分の方が上なのだとこんな形でしか自分を強く見せる事が出来ない憐れな者達。レティツィアはそう思って時間が過ぎるのを待つしかなかった。
バークレイとフローラの所業を知っているのに見て見ぬ振りをする公爵夫妻、そして使用人達。
ハーベル公爵家にもレティツィアの居場所は何処にもなかった。
レティツィアの機嫌を損ねてクラン侯爵家からの融資が止まってしまえば自分たちの給金の支払いも危うい。だからレティツィアに次期公爵夫人として接しようとすれば、次期公爵のバークレイから叱責を受ける。
バークレイには「妻にするならフローラ」と強い思いがあり、恋愛小説の如く初夜ではないものの初日の顔を合わせた日にハッキリと告げられた。
「僕の愛は全てフローラのものだ。溢れ出た愛の一欠片も貴様如きが拾っていいものじゃない」
――まるでお母様を見ているようだわ――
父の愛を独占出来ると思い込み、自分こそ唯一とレティツィアにあたり散らした母親にバークレイは「本当の親子なんじゃ?」と思うくらい思考回路がそっくりだった。
――貴族の政略結婚に愛だの恋があるなら教えて欲しいわ――
申し訳ないと思いつつもレティツィアにはバークレイが憐れにしか見えなかった。
肉親ですら人を人とは思わないのに頭から信じられるその能天気さ。この先の公爵家の事を考えればさぞかし頭の痛くなる問題だろうと公爵夫妻を脳裏に思い浮かべた。
執務も家の采配も一切をさせてもらえない、部屋に監禁状態のレティツィアは使用人に頼んで書庫から本を持って来てもらい読み耽る。それが唯一の暇つぶしであり娯楽だった。
公爵家にどんな蔵書があるかなど書庫への出入りもさせてもらえないので、ランダムに使用人が選んで来たものを黙って読むだけ。
王国史もあれば、農業の専門書、航海図の読み方というハウツー本に戦記。多岐に渡るジャンルだが暇をつぶすにはもってこいだった。
気に入らない、嫌いなのなら放っておいてくれればいいのにバークレイとフローラはレティツィアが気になるのか、事あるごとにちょっかいを掛けてくる。
扉が解錠される音がしたと思えば使用人がドレスやらを運び込んできた。
「どうしたのです?こんなに沢山」
余りの量にクローゼットがいっぱいで置き場所がなく、この部屋に仮置きするんだろうかと考えたくらいの量が持ち込まれたのだ。
「若旦那様が若奥様にと」
「わたくしに?だけど・・・」
貰ったものに文句をつけるのは良くないと解っているが、着用したら布より肌の露出が高そうなドレスは端切れにしか見えない。これなら首もハイネックなお仕着せの方がまだ利用できそう。
貰って困る贈り物ほど迷惑なものはない。
しかし、これは間違いなくバークレイの指示により運び込まれたものだった。
★~★
バークレイとフローラが遅い昼食を終えた席で、従者がバークレイに忠告をした。
「若旦那様がどう思っていようと、奥様の状況を侯爵家が知ればただでは済まない」だから「仕立て屋を呼び一式揃える必要がある」と。
そこでバークレイが出した結論は・・・。
「後から来て割り込んできた女だ。図々しい」
「しかし・・・クラン侯爵家から苦情が来たりすれば困るのは公爵家です」
「言わせなければいいんだろう?フローラ、確かもう要らないと言った宝石やらドレスがあるだろう。恵んでやってくれないか」
クラン侯爵家から金を恵んでもらわねば、愛人との楽しい生活も送れないのに。使用人は喉元まで言葉が出たがそれ以上は言えなかった。
フローラは気前よく不用品をレティツィアに出すと言った。
「その代わり、クローゼットに空きが出来ちゃうから新しいの買っていいわよね?」
バークレイが「いいよ」と即答するのは必然だった。
フローラが「もう要らないから捨てて」と言ったドレスや小物、宝飾品は安く買いたたかれても庶民には生涯働いても手が出ない一軒家が買える金額になる。
使用人達は「若旦那様からです」と自分たちでクスミを拭き取り、自分たちで洗濯したフローラの不用品をレティツィアに渡すしかなかった。
★~★
屋敷内でもレティツィアは腫れものに触れるような扱いで何カ月経っても特別なお客様だった。
唯一「客ではない」と思わせてくれるのはバークレイとフローラ。
使用人が「若旦那様がお呼びです」と言うので出向いてみれば・・・。
「いやだ。臭いと思ったらこんな所に他人の物を盗んで喜んでいる泥棒猫がいるわ」
「あぁ、鼻が曲がりそうだ。また何かを物色に来たのか?」
「いいえ。呼んでいるとの事でしたので」
「やっだぁ。男に呼ばれたら直ぐに来るなんて。育ちが知れるわ」
「言ってやるな。男を寝取ってナンボの母親の血が濃く受け継がれているんだ」
「あら?レイはもう食べられちゃったの?」
「まさか。僕は汚いものは目に入れるのも嫌だとフロルが一番よく知っているじゃないか」
フローラはテーブルにあったグラスを手に取ると中身を口に含み、レティツィアの前に来ると「ブゥゥー!」っと勢いよく吐きかけた。
真正面から飛沫を被ったレティツィアは拭う事も許されなかった。
「泥棒猫には勿体ないけどこのワイン、それなりのお値段なの。顔についた分は後で舐めればいいけど…ここ。床にも落ちてるわよ?舐めないの?」
「不要です」
「え?何?伯爵令嬢からの施しは受けられないって?偉いわよねぇ…庶子でも侯爵令嬢、横からヒトのオトコを掻っ攫って公爵夫人になるという事が違うわぁ。感心しちゃう」
「もう宜しいでしょうか?後で掃除をしておきま‥‥うっ!」
フローラはレティツィアの髪を鷲掴みにすると「舐めろと言ってるの。聞こえない?」髪を引っ張り、レティツィアの頭を下げようとする。
それを見たバークレイも椅子から立ち上がるとフローラに加勢し、レティツィアの頭を押し付けて足払いをし、転ばせた。
「泥棒猫は地べたに這いつくばるのがお似合いよ?物欲しそうに零れたワインを見るその目がとっても素敵」
――お母様と同じね――
気分次第で強弱はあるものの、他人よりも自分の方が上なのだとこんな形でしか自分を強く見せる事が出来ない憐れな者達。レティツィアはそう思って時間が過ぎるのを待つしかなかった。
バークレイとフローラの所業を知っているのに見て見ぬ振りをする公爵夫妻、そして使用人達。
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