あなたの愛はいつだって真実

cyaru

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第15話  空を見ろ!星を見ろ!川を見ろ!

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「うわぁ。すっかり夜になっちゃいましたっスね~」
「お前があれもこれと欲張って料理を食うからだ」
「解ってないッスね~。料理は食べてません。僕が食べたのはデザートでっス」


第1王子アルマンドがこの度立太子の儀を行うという事で、国土の端ロッシ辺境領からの辺境伯ヴィルフレードの名代が王都を訪れていた。

名代を任されたのはヴィルフレードの率いる辺境部隊の1番隊の隊長テオドロ(38)と2番隊の副隊長チッチョ(19)。チッチョは辺境部隊始まって以来の20歳未満での副隊長ではあるが隊長職となっている。

「しかし、王都はやっぱり都会だなぁ。夜でも明るいなんて信じられねぇな」
「テオドロ隊長、解ってないっスね~。星の灯りがあればそれ以外は要らないっス」

辺境部隊には7番隊までありそれぞれが任された区画を鉄壁の守りで侵攻する敵国を蹴散らしている。それぞれの部隊には50人ほどが所属をしているが、彼らを纏めるのが辺境伯ヴィルフレード・ロッソ(41)。

ヴィルフレードは8歳で辺境伯のロッソ家に養子として迎えられたが、現国王の末弟、アルマンドの叔父でもある。
獰猛果敢と呼ばれ、恐れられている辺境伯である。

果敢ではなく、その荒ぶれぶりから果敢である。

愛馬に跨り2人は王太子の儀でヴィルフレードからの祝辞とアルマンドの治世となっても今と変わらぬ国防の役目を担う事を宣言するためにやって来た。

本来はヴィルフレードが来るべきなのだが、王都に向けて出発しようとした時にヴィルフレードの愛馬がご懐妊した。馬とは言え妊婦さんに無理はさせられず名代を送ったのだ。

辺境部隊にこれと言った戦法はなく、夜襲も奇襲も行うため2人は夜目も利く。

早く辺境に帰ろうとパッカパッカと夜でも騎乗し暗い夜道を進んでいた。空を見れば月も星も出ているけれど雲の流れが速いし、白っぽい雲ではないので一雨ひとあめ来そうだ。

雨が降り出す前に雨宿り出来そうな所まで進まねばならなかった。


なのに…。

「あ、テオドロ隊長!ちょっと…用足していいっスか?」
「またか!何度目だ!果実水の飲みすぎだろう。全く・・・ここで待っててやるから早く行ってこい!」

チッチョは葦を掻き分け、踏みつけて水がそこまで来ている川縁かわべりに降りたチッチョは自前の奇妙な歌を歌う。

「ウメ酒はぬるめのぉ~燗がイイぃ~♪ツマミは砂肝‥‥ん??」

用を足そうとしたまさにその時だった。

「なんだぁ??まさか…おばけぇ?」

満月ではないにしても月明りが川面で揺れる。そこに月明りで白くなっているのではない部分があった。

ガサガサ・・・チッチョは葦を掻き分けて「なんだろ?」と思った物体に近寄った。

「フォッ!!ガールじゃん!王都の女の子って夜に川で泳ぐ・・・いやいやこんな流れも複雑な川は遊泳禁止ッ!」


チッチョは生きているとか死んでいる関係なく命綱代わりに葦を数本掴むと川にヒラヒラと揺れるドレスの端を掴んで引き寄せた。

口元と鼻に手のひらをあてて「うーん…」首を傾げる。
次に首の横、耳の下に指をあてる。「うーん…」またもや首を傾げた。

「救護班じゃないからわかんねぇな。取り敢えずは運ぶか。よしっ!」

ずぶ濡れの人間を担げば当然チッチョも濡れてしまうが、生きているのなら早くしないと体温がドンドン下がって危険な状態になってしまう。儚くなっているのなら埋葬してやればいいだけ。

辺境では戦地で儚くなった仲間は連れ帰ることは出来ないので、どんな状態であったとしても陣地まで連れ帰るのが鉄則である。

「ヨイショ…よいしょっと」
「は?お前・・・何を拾って来た?」

チッチョが用を足している間にタバコでも一服と、タバコを咥え火をつけようとしていたテオドロは大きな荷物を抱えて戻って来たチッチョを見て咥えていたタバコがぽとりと落ちた。

「うわ!!3秒!3秒ルール適用だ!!」

テオドロはタバコを拾う。

「いや、多分3秒以上経ってると思います。ザっとみて・・・1時間?」
「それより!生きてるのか?・・・うわぁ‥斬られてるな。暴漢に襲われたのかな?」
「テオドロ隊長、水あります?」
「ん?あ、あぁ。水だな。あるぞ。で?生きてるのか?」
「多分、さっき担いだ時にケホって水吐いたんで」

何をするかと思いきや、ぱっと見の初見で二の腕と背中には切り傷が見える。
川の水はそのまま飲むのは危険。故に消毒するにも煮沸をしなければならないが火を起こすよりも先に水筒の水で傷口を洗い、常備薬として携帯している薬草を塗ろうと思ったのだ。

「可哀想になぁ・・・」
「それよりテオドロ隊長、雨が降ってきましたよ。どうします?」
「どうするって…」

キョロキョロ見回しても雨宿り出来そうなのは木の下しかない。
チッチョが意識のないレティツィアを担ぎ、テオドロは馬を2頭引いて木の下に潜り込んだ。

レティツィアを一先ず寝かせると馬の鞍に括りつけたカバンから折りたたんだシートを2枚取り出し、2人は帯剣した剣を半分ほど鞘から抜くと留め具を鞘と剣の重なる部分に動かす。

シートは四方にロープがあり1本を木の枝に、2本を土にグザっと刺した剣に括りつける。鞘から半分抜いたのは高さを出すためである。
もう1枚のシートを敷き、再度レティツィアを抱え上げて寝かせた。

立てば天井の低い簡易テントだがそこそこの雨は先ず木で避けられる。2人は中央にレティツィアを寝かせ両脇を挟むように胡坐を組んだ。

「馬車にしたら良かったですね~」
「馬車?何日かかると思ってんだ」

2人は話をしながらレティツィアの傷口に水筒の水をかけると薬草を塗り込んだ。

「刃に毒は無かったみたいだな。爛れてない」
「不幸中の幸いっスかね。でも女の子だったら斬られた事が不幸かな」

テオドロとチッチョは上着を脱ぐとレティツィアの体を芋虫のように包んだのだった。
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