追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru

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第12話  お気楽者にも悩みがある

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ウェルシェスがいなくなっても王城の中の空気は何も変わらない。

「も、申し訳ございませんっ」

「ホントに使えない子っ。もういいわ。出て行って」

「はい…申し訳ございませんでした」


頬を殴られたメイドは今日、初めてライラと会った。
ランドリーメイドとして雇われて、それまで各大臣の部屋を清掃する業務だったが、気が利くと評判でこれなら国王カーティスの執務室の掃除も任せられると配置換えをされた初日だった。

カーティスの執務室に執務の書類は一切なく、書類の代わりに執務机に腰を下ろしていたのはライラだった。

カーティスに色目を使ったわけではない。
何故ならカーティスは財務大臣からの報告を受けるべく他の部屋にいたからである。

ただ清掃をするために箒のほかに清掃道具をワゴンに入れて執務室に来ただけだったが、ライラに咎められ、ランドリーメイドは「解雇よ!」とクビを告げられてしまった。

ランドリーメイドがコネクティングルームへの扉から消えていくと、入れ替わるように廊下からの扉が開きカーティスが戻ってきた。


「大きな声が聞こえたが何かあったのか?」

「何かあったじゃないわ。カーティスを狙った女狐が忍び込んでいたから追い払っただけ。こーんなに綺麗な部屋なのに掃除の必要なんかないわ。そうでしょう?」

「また妬きもちか。全く。私の愛は全てライラのものだというのに。彼女たちから掃除の仕事を奪ったら可哀想だろう?それで食い繋いでいる憐れな子羊なんだからさ」

「もう。そんな事言って。メイドに手当を弾む気だったんじゃないの?」

「まさか、私にはライラ。君がいるというのに?まだ私の愛を疑っているのか?」


ちゅっちゅとリップ音をさせる2人。部屋に常駐の従者たちは「ここで盛るんじゃないだろうな?」と見たくもない痴態の進化が起きない事を願うばかり。


以前から女性への風当たりはキツかったライラだが、昨年年齢が30歳になると20代、特に10代の女性使用人へのあたりはキツくなった。

と、言うのもカーティスはライラの事を愛していると言いながらも年若い使用人の事を目で追う。特に若ければ若いほどじっとりと舐めるようにその動きに視線は固定されるのだ。

――私以外の女なんか見なくていいのよ――

3人の側妃のうち、2人はカーティスとも年齢が近く年下が好き、いや若い女が好きなカーティスは2人には見向きもしなかった。

しかしウェルシェスは別だった。

ある日、カーティスが傍に居た従者に言ったのだ。

「寝台に縫い付けて純潔を奪った時に、どんな声で啼くんだろう」と。

その声を聞き逃すライラではなく、その日からウェルシェスはライラの敵だった。
ライラにとってウェルシェスは「他人の男を寝取る事が好きな女」の位置づけであり、側妃の立場を利用しカーティスに近寄る害虫だった。

ウェルシェスにそんな気はなくても、若い女が好きなカーティスが視線で追う事も腹立たしい。

そのウェルシェスをやっと追い出す事が出来たのに、侍女頭の策略なのか若いランドリーメイドが来たことにライラの機嫌は最高に最悪だった。


「キスだけでご機嫌を取ったつもり?」

「このままライラを悦ばせてあげたいが、もうすぐ外務大臣が来るんだよ」

「もぉ~。アタシより大事なのね。酷いっ」

「そうじゃない。早めに終わらせるよ。寝室で待っててくれるかい?」

「早く来てね。そうじゃないともうずっと怒ったままになっちゃいそうよ」


剥れたままのライラが消えてくと、カーティスは胸ポケットからハンカチを取り出し唇を拭った。

――そろそろ飽きたな――

ライラの事は可愛いのだが、拾って来た時の「垢」がすっかり落ちてしまったライラには以前ほどの興味ももう持てなくなっていた。


カーティスが好きなのは「贅沢を知らない女」であり、贅沢を知ってしまった女には興味が失せてしまう。

最も好きなのは「自分の知らない事を知っている女」をねじ伏せることだった。

出会った頃のライラは刺激的だった。
教本でしか知らない男女の閨房けいぼうもだが、平民のライラは価値観がまるで違う。

ガラス玉を目を丸くして喜び、手づかみで食事をする。
貴族令嬢ではありえないその仕草の全てに惹かれた。

が、贅沢を覚え、口から出る言葉の薄っぺらさに気が付き、マナーの悪さに辟易、何よりカーティスの権力が自分にもあると勘違いをし始めた頃から面倒くさい女に成り下がっていた。

切ろう、切ろうとするも切ることが出来ないのは寝所でのライラはその都度、カーティスの要望に応えてくれる。場合によっては言葉にするのも憚られる事もライラは快く受け入れてくれる。その点だけで留め置いていた。

鯔の詰まりとどのつまりカーティスは無垢な女を育て上げる、自分の色に染める過程が好きなだけの男。国王と言う絶対的な位置にあり、なんでも思う通りになる。それを人間を使って具現化する性癖の持ち主だった。


先日、ウェルシェスを王都追放としたがあの時はカーティスの機嫌も悪かった。
あの日はウェルシェスにも言われてしまったが、先代国王の時からご意見番でもあった引退した公爵にライラをあの場に連れて来るとはと小言を言われたからである。

ご意見番の長老には国王と言えど面と向かって歯向かう事は出来ず、ウェルシェスを王都追放とすることで憂さ晴らしをした。

ウェルシェスが素直に側妃の座を辞し、王都から出て行ったことでカーティスの気分は晴れた。面倒な年寄りだけはどうにもならないが、自分の思いのままに王都から追放することも出来ると自身の権力に改めて惚れ直した。

のだが…。

ライラを寝所に追いやり、次にやってきた外務大臣にカーティスは思いもよらない事を告げられてしまった。
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