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第13話 退位勧告
従者が二言三言、何かを会話した後でカーティスの部屋に入ってきたのは外務大臣だけではなかった。
小言を言うご意見番こそいなかったが現役の大臣が他に3人。
議会の議長と副議長も一緒だった。
何事かと思えば開口一番でカーティスにとんでもない事を言い出した。
「コーリー侯爵家とは話が付いています。即座に退位をされることを進言致します」
「は?いきなり何を言うんだ!」
「聞こえなかったようなのでもう一度言いましょう。退位をされるべきです」
コーリー侯爵家は3代前に王女が臣籍降嫁をした家。
直系ではないとされてはいるが、王家の血筋であることは間違いない。王女は側妃腹で血が薄くなったのか侯爵家に嫁ぎ6人の子供を産んだ。その6人も少ない者で3人、多いものは5人の子供に恵まれている。その先は言わずもがな。
カーティスは自分こそ唯一の直系と言いたいところだが、自身の母親もコーリー侯爵家のように血が薄くなったと言われる家から召し上げられていて、父である先代国王のように実の兄妹が両親という訳ではなかった。
なので「私は唯一の直系」を盾にすることは出来ず、カーティスが盾に出来るのは先代国王の血を引く唯一の子供という点のみ。
「馬鹿なことを。コーリー家?帝王学も学んでいないのに玉座を欲するとはなんとも欲深い事だ」
「馬鹿に玉座を温めて頂く必要はないからです」
「なっ!貴様、今、私に向かって何と言った!」
「馬鹿。と、申し上げましたが?腰を振るのだけはお得意のようですのでご希望とあれば男性専門の娼館をご紹介いたしますが?」
「貴様ぁ!誰に向かって!」
つい、拳を振り上げてしまったが魑魅魍魎が巣くうと言われる王城、そして決して綺麗ごとだけでは務まらない大臣職を長くしているからか、誰一人怯む者がいない。
先に手を出した方が負け。それは国王とて同じで貴族や議会を敵に回して玉座を守る事など出来はしない。
外務大臣は書類を差し出しながら言葉を続けた。
「貴方です。ここで私の向かいにいらっしゃるのはカーティス国王。貴方しかおりません。その拳、これから先にどうされるのかはこの書面を見てご判断願いたい」
カーティスはひったくるように書類を手にすると、書かれている文字を見て息を飲んだ。
執務や政務を側妃に丸投げにして遊び惚ける事5年。
ブランクがあっても、非常に不味い事態になった事は理解が出来た。
「レブレス王国はマルスグレット王国との交易を取りやめると通達をしてきました。とんでもない事をしてくれたものです。あの場に酒場の床を這う虫を連れ込まなければ…今更言ってもどうにもなりませんがね」
酒場の床を這う虫とはライラの事だ。
外務大臣はライラをゴキブリと同列でカーティスに告げている。
夕食会の日から今日で40日目。ウェルシェスを王都追放にして39日目。
日数から考えて夕食会に来ていた使者はまだ帰国の途にあるはず。それよりも早くレブレス王国には通達をされ、レブレス王国は即座に対応を決めたのである。
情報を伝える手段は早馬しかないが、早馬だとしてもあり得ない速さ。レブレス王国は何らかの通信手段を持っているという事にもなる。
それもカーティスを焦らせている原因の1つだった。
「国防の予算もかなり削られて愉しまれておりましたが、この5年でマルスグレット王国を囲む国は新技術を既に活用しているという事です。出遅れも甚だしいが今から追い付け追い越せになれば予算は如何ほどでしょう?国防だけで数年の国家予算に匹敵します。しかし‥‥その予算も今までの交易ありきの予算。レブレス王国に国境を封鎖され、交易を断られた今、何年いや何十年分の予算に換算すればよいでしょうかね。しかも国防だけに予算を割けば他が立ち行かなくなります。責任問題にしては退位をされただけで足りるかどうか」
「ま、待ってくれ。何か方法があるのではないのか」
「そうですね。レブレス王国は貴方が追放したウェルシェス・プリンガ―氏なら対話をしないでもない、そう言っていますが、無理でしょう」
「何故無理なんだ?まさか追放されるくらいならと自死したとでもいうのか?」
「自死?まさか。何故無理なのかと言えば貴方が王都から追放したからです」
「ならば連れて来ればいいんだな?解った。王都追放は撤回する。それで連れてくることが出来るだろう」
「それが出来れば苦労はしません。念のためプリンガ―伯爵家には問い合わせをしました。ウェルシェス・プリンガ―氏はあの日、王城を出て屋敷には戻っておらず、その後は所在確認が出来ていないと言えば解りますか?」
「まさか…行方不明だというのか?プリンガー家にいるのではないか?」
「そう思い、私たちも立ち入り調査をしましたよ。屋根裏だけでなく明らかに人が入れない天井裏や床下。隠し部屋がないかも調査をしました。元々あの屋敷は別の伯爵家が建設をしたものなので、間取り図も手に入れてくまなく探しましたが見つける事は出来ませんでした。何より伯爵家の馬車は届け出の台数と合致しているのですよ」
「なら城の馬車を使ったのだろう」
「そんな目立つ馬車で?冗談は休み休み言ってください。城の馬車も持ち出されてはいません。探そうにも東西南北どちらに向かったかも判らずでレブレス王国の通達している期日までにどうやって探せと?」
「なら国境を警備している部署に連絡しろ。国外に出たのなら国境を越えている。そこで身分確認をされるはずだ」
カーティスは必死だったが外務大臣の答えは冷静で冷たかった。
「そんなもの。とっくに問い合わせをしています。国境は超えていません。国内にいると思われる。それしか解らない状況ですよ?全て貴方の蒔いた種ですがね」
国内と言えど、手がかりもない状態で1人の令嬢を探すには無理があり過ぎた。
カーティスは力なくソファに倒れ込んだ。
小言を言うご意見番こそいなかったが現役の大臣が他に3人。
議会の議長と副議長も一緒だった。
何事かと思えば開口一番でカーティスにとんでもない事を言い出した。
「コーリー侯爵家とは話が付いています。即座に退位をされることを進言致します」
「は?いきなり何を言うんだ!」
「聞こえなかったようなのでもう一度言いましょう。退位をされるべきです」
コーリー侯爵家は3代前に王女が臣籍降嫁をした家。
直系ではないとされてはいるが、王家の血筋であることは間違いない。王女は側妃腹で血が薄くなったのか侯爵家に嫁ぎ6人の子供を産んだ。その6人も少ない者で3人、多いものは5人の子供に恵まれている。その先は言わずもがな。
カーティスは自分こそ唯一の直系と言いたいところだが、自身の母親もコーリー侯爵家のように血が薄くなったと言われる家から召し上げられていて、父である先代国王のように実の兄妹が両親という訳ではなかった。
なので「私は唯一の直系」を盾にすることは出来ず、カーティスが盾に出来るのは先代国王の血を引く唯一の子供という点のみ。
「馬鹿なことを。コーリー家?帝王学も学んでいないのに玉座を欲するとはなんとも欲深い事だ」
「馬鹿に玉座を温めて頂く必要はないからです」
「なっ!貴様、今、私に向かって何と言った!」
「馬鹿。と、申し上げましたが?腰を振るのだけはお得意のようですのでご希望とあれば男性専門の娼館をご紹介いたしますが?」
「貴様ぁ!誰に向かって!」
つい、拳を振り上げてしまったが魑魅魍魎が巣くうと言われる王城、そして決して綺麗ごとだけでは務まらない大臣職を長くしているからか、誰一人怯む者がいない。
先に手を出した方が負け。それは国王とて同じで貴族や議会を敵に回して玉座を守る事など出来はしない。
外務大臣は書類を差し出しながら言葉を続けた。
「貴方です。ここで私の向かいにいらっしゃるのはカーティス国王。貴方しかおりません。その拳、これから先にどうされるのかはこの書面を見てご判断願いたい」
カーティスはひったくるように書類を手にすると、書かれている文字を見て息を飲んだ。
執務や政務を側妃に丸投げにして遊び惚ける事5年。
ブランクがあっても、非常に不味い事態になった事は理解が出来た。
「レブレス王国はマルスグレット王国との交易を取りやめると通達をしてきました。とんでもない事をしてくれたものです。あの場に酒場の床を這う虫を連れ込まなければ…今更言ってもどうにもなりませんがね」
酒場の床を這う虫とはライラの事だ。
外務大臣はライラをゴキブリと同列でカーティスに告げている。
夕食会の日から今日で40日目。ウェルシェスを王都追放にして39日目。
日数から考えて夕食会に来ていた使者はまだ帰国の途にあるはず。それよりも早くレブレス王国には通達をされ、レブレス王国は即座に対応を決めたのである。
情報を伝える手段は早馬しかないが、早馬だとしてもあり得ない速さ。レブレス王国は何らかの通信手段を持っているという事にもなる。
それもカーティスを焦らせている原因の1つだった。
「国防の予算もかなり削られて愉しまれておりましたが、この5年でマルスグレット王国を囲む国は新技術を既に活用しているという事です。出遅れも甚だしいが今から追い付け追い越せになれば予算は如何ほどでしょう?国防だけで数年の国家予算に匹敵します。しかし‥‥その予算も今までの交易ありきの予算。レブレス王国に国境を封鎖され、交易を断られた今、何年いや何十年分の予算に換算すればよいでしょうかね。しかも国防だけに予算を割けば他が立ち行かなくなります。責任問題にしては退位をされただけで足りるかどうか」
「ま、待ってくれ。何か方法があるのではないのか」
「そうですね。レブレス王国は貴方が追放したウェルシェス・プリンガ―氏なら対話をしないでもない、そう言っていますが、無理でしょう」
「何故無理なんだ?まさか追放されるくらいならと自死したとでもいうのか?」
「自死?まさか。何故無理なのかと言えば貴方が王都から追放したからです」
「ならば連れて来ればいいんだな?解った。王都追放は撤回する。それで連れてくることが出来るだろう」
「それが出来れば苦労はしません。念のためプリンガ―伯爵家には問い合わせをしました。ウェルシェス・プリンガ―氏はあの日、王城を出て屋敷には戻っておらず、その後は所在確認が出来ていないと言えば解りますか?」
「まさか…行方不明だというのか?プリンガー家にいるのではないか?」
「そう思い、私たちも立ち入り調査をしましたよ。屋根裏だけでなく明らかに人が入れない天井裏や床下。隠し部屋がないかも調査をしました。元々あの屋敷は別の伯爵家が建設をしたものなので、間取り図も手に入れてくまなく探しましたが見つける事は出来ませんでした。何より伯爵家の馬車は届け出の台数と合致しているのですよ」
「なら城の馬車を使ったのだろう」
「そんな目立つ馬車で?冗談は休み休み言ってください。城の馬車も持ち出されてはいません。探そうにも東西南北どちらに向かったかも判らずでレブレス王国の通達している期日までにどうやって探せと?」
「なら国境を警備している部署に連絡しろ。国外に出たのなら国境を越えている。そこで身分確認をされるはずだ」
カーティスは必死だったが外務大臣の答えは冷静で冷たかった。
「そんなもの。とっくに問い合わせをしています。国境は超えていません。国内にいると思われる。それしか解らない状況ですよ?全て貴方の蒔いた種ですがね」
国内と言えど、手がかりもない状態で1人の令嬢を探すには無理があり過ぎた。
カーティスは力なくソファに倒れ込んだ。
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