文字の大きさ
大
中
小
14 / 31
第14話 好みのど真ん中
タビュレン子爵領では、ベールジアンの呼びかけで来ることが可能な領民が集まっていた。
「わぁ。ジアンさん。お嫁さん貰ったんですか?いつの間に?」
「違う!!そういう事を言うな!」
「だって、一緒に住んでいるんですよね?」
「そ、そうだが…違うんだ!客人に失礼な事を言うな!」
「へぇ~焦っちゃって。何かある~もしかして道ならぬ恋とか人の道に外れた愛とか?」
「うっさい!もう黙れ!」
ウェルシェスとは清い関係ではあるものの、1つ屋根の下で一緒に生活をしている事は領民の間ではあっという間に噂になり、「ついに領主さまにも春が来た」ともうすぐ冬なのに今年の冬は真夏の暑さかも?とまで言われている。
ベールジアンがタビュレン子爵領を継いだのは3年前。19歳になったばかりの頃だった。
その年は未曽有の大雨が何日も降り続き、領主でもあったベールジアンの父だけでなく家族総出で対応にあたっていた。
事故があったのは雨がやっと上がった翌日で、母親と妹が担当で対応にあたっていた地域で大規模な崩落があった。領民から知らせを受けた父親と弟が駆けつけたが、運が悪くそこで再度の崩落。
最初の崩落に巻き込まれた領主の夫人や娘、領民を救出しようとした領民も巻き込んだ二次災害。
ベールジアンはその事故で家族を失った。
今も崩落現場は資金難から手つかず。山が1つほぼ崩壊したことからその土の量はとても運べるものではなくそこは領民も含め、先代夫妻、そして弟妹の墓地となった。
その日からベールジアンは領主となって子爵家を継ぎ、今に至る。
毎日朝から星が瞬く夜まで領内を駆け回り、領民を助け、助けられて生きて来た。
領民たちとの距離が近いのもそんな事情がある。自分の事は二の次、三の次で領民のために奔走するベールジアン。領民たちは早くベールジアンが「家族」を持てればいいなと考えていた。
「皆。紹介しよう。ウェルシェス・プリンガ―さんだ。この領地のためにいろいろと考えてくれたんだ。今回は間もなく雪が降り始める。春になるまでただ待つよりも今出来る事をするために集まって貰ったんだ」
「え?オイラ。赤ちゃんの名付けは初めてだなぁ」
「そんな事は頼まない!ちゃんと話を聞け!」
「でも、この家で良いのかい?竈も古いし奥さん困るんじゃないのかい?」
「料理は俺がしてるから!何にも困ってねぇから!」
「わぁ。聞いた?アレ、かの有名なスパダリ発言よ?あぁ言うのがモラ夫になりやすいのよねぇ」
「ならねぇから!そんな仲じゃねぇから!先ず話を聞けって!」
領民たちは話を聞く気はあるのだが、ウェルシェスが気になって仕方がない。何と言っても我らが愛すべきベールジアンにやっと春がきたのだ。これを気にせずに何を気にしろと言うのか。
「ねぇねぇ。ジアンさんって優しい?」
「はい。とても優しいですよ。毎日楽しく過ごさせて頂いております」
「やっぱり!で?どう?」
「どう…とは?」
「アッチは上手?」
――アッチ…何のことかしら。あ!料理ね。ゥアッチって言ってたわ――
「はい。とても上手ですよ」
<< ほぉ~♡ >>
田舎のオバちゃんたちに遠慮はない。
遠慮をするのは井戸端をお宅に替えた時に持ち寄った菓子が残り1個になった時くらいだ。
ベールジアンは間違いなく領民たちとウェルシェスが明後日の方向に理解をしてしまった事を感じていた。ここで言い訳めいた事を言ってしまうと更に誤解を生みそうで言葉が出ない。
確かに貧相な料理で、お世辞にも美味しいとは言えないのにウェルシェスは「美味しい。美味しい」と食べてはくれる。それは有難いのだが…。
「とぉにかく!話だ!ウェリー頼む」
「はい。ではルジーは補足をお願いしますね」
ピクリと全員の耳が動く。ベールジアンは嫌~な気がして領民の方を見た。
「聞いた?」
「聞いた、聞いた。ルジーって!!ウェリーって!」
「意外とジアンさんって手ぇ早かったんだぁ」
「そりゃそうよ。若いし、何より好みのど真ん中じゃないのよぅ」
――やめてくれ。暴露するのはやめてくれ――
確かに領民たちが言うようにウェルシェスはベールジアンの好みそのままである。
背丈はこれくらい。ぴったりだ。
目鼻立ちはこんな感じ。ぴったりだ。
話す口調は穏やかに。まさにその通り。
なにより笑顔が可愛い。射抜かれてしまった。
だが、勝手に関係を進化させるのはやめて欲しい。
これでウェルシェスにドン引きされて今夜から「夕食は1人で食べます」と部屋に持って行かれたから軽く死ねる。
期間限定のささやかな楽しみでもある食事のチャンスを奪う事にもなり兼ねない。
更にウェルシェスが好みであるのはその内面もである。
「皆さん。1週間で出来ます。先ず各ご家庭の竈の灰。それを畑に撒いてください。そして不要になった麻袋などがあれば風で飛ばないように覆いを。種が到着次第蒔いて頂きます。他には調理の際に出る廃棄食材。それらはこれから場所を選定しますがそちらにお願いします。落ち葉と一緒にして腐葉土にしますので川などに廃棄しないように」
実はベールジアン。
「こうします!」と断言をされて「はい、頑張って」と尻を叩かれるのが好きなのである。
まるで羊を追う牧羊犬のように飼い主の信頼を得るためにはとても忠実にそして言われた事には素直に従う性格。
ウェルシェスは幸か不幸か側妃生活も5年で気ぜわしく活動をしていたので、つい意気込んでしまうと口調が命令形に近くなってしまう。さらにそれがベールジアンの琴線をびっしびしに触れ捲っている。
「あ~こりゃ、完全に尻に敷かれるね」
領民の目が痛い。当たっているだけに言い返せない。
ベールジアンは「どうか聞こえていませんように」とそっとウェルシェスを見てまたデレた。
「わぁ。ジアンさん。お嫁さん貰ったんですか?いつの間に?」
「違う!!そういう事を言うな!」
「だって、一緒に住んでいるんですよね?」
「そ、そうだが…違うんだ!客人に失礼な事を言うな!」
「へぇ~焦っちゃって。何かある~もしかして道ならぬ恋とか人の道に外れた愛とか?」
「うっさい!もう黙れ!」
ウェルシェスとは清い関係ではあるものの、1つ屋根の下で一緒に生活をしている事は領民の間ではあっという間に噂になり、「ついに領主さまにも春が来た」ともうすぐ冬なのに今年の冬は真夏の暑さかも?とまで言われている。
ベールジアンがタビュレン子爵領を継いだのは3年前。19歳になったばかりの頃だった。
その年は未曽有の大雨が何日も降り続き、領主でもあったベールジアンの父だけでなく家族総出で対応にあたっていた。
事故があったのは雨がやっと上がった翌日で、母親と妹が担当で対応にあたっていた地域で大規模な崩落があった。領民から知らせを受けた父親と弟が駆けつけたが、運が悪くそこで再度の崩落。
最初の崩落に巻き込まれた領主の夫人や娘、領民を救出しようとした領民も巻き込んだ二次災害。
ベールジアンはその事故で家族を失った。
今も崩落現場は資金難から手つかず。山が1つほぼ崩壊したことからその土の量はとても運べるものではなくそこは領民も含め、先代夫妻、そして弟妹の墓地となった。
その日からベールジアンは領主となって子爵家を継ぎ、今に至る。
毎日朝から星が瞬く夜まで領内を駆け回り、領民を助け、助けられて生きて来た。
領民たちとの距離が近いのもそんな事情がある。自分の事は二の次、三の次で領民のために奔走するベールジアン。領民たちは早くベールジアンが「家族」を持てればいいなと考えていた。
「皆。紹介しよう。ウェルシェス・プリンガ―さんだ。この領地のためにいろいろと考えてくれたんだ。今回は間もなく雪が降り始める。春になるまでただ待つよりも今出来る事をするために集まって貰ったんだ」
「え?オイラ。赤ちゃんの名付けは初めてだなぁ」
「そんな事は頼まない!ちゃんと話を聞け!」
「でも、この家で良いのかい?竈も古いし奥さん困るんじゃないのかい?」
「料理は俺がしてるから!何にも困ってねぇから!」
「わぁ。聞いた?アレ、かの有名なスパダリ発言よ?あぁ言うのがモラ夫になりやすいのよねぇ」
「ならねぇから!そんな仲じゃねぇから!先ず話を聞けって!」
領民たちは話を聞く気はあるのだが、ウェルシェスが気になって仕方がない。何と言っても我らが愛すべきベールジアンにやっと春がきたのだ。これを気にせずに何を気にしろと言うのか。
「ねぇねぇ。ジアンさんって優しい?」
「はい。とても優しいですよ。毎日楽しく過ごさせて頂いております」
「やっぱり!で?どう?」
「どう…とは?」
「アッチは上手?」
――アッチ…何のことかしら。あ!料理ね。ゥアッチって言ってたわ――
「はい。とても上手ですよ」
<< ほぉ~♡ >>
田舎のオバちゃんたちに遠慮はない。
遠慮をするのは井戸端をお宅に替えた時に持ち寄った菓子が残り1個になった時くらいだ。
ベールジアンは間違いなく領民たちとウェルシェスが明後日の方向に理解をしてしまった事を感じていた。ここで言い訳めいた事を言ってしまうと更に誤解を生みそうで言葉が出ない。
確かに貧相な料理で、お世辞にも美味しいとは言えないのにウェルシェスは「美味しい。美味しい」と食べてはくれる。それは有難いのだが…。
「とぉにかく!話だ!ウェリー頼む」
「はい。ではルジーは補足をお願いしますね」
ピクリと全員の耳が動く。ベールジアンは嫌~な気がして領民の方を見た。
「聞いた?」
「聞いた、聞いた。ルジーって!!ウェリーって!」
「意外とジアンさんって手ぇ早かったんだぁ」
「そりゃそうよ。若いし、何より好みのど真ん中じゃないのよぅ」
――やめてくれ。暴露するのはやめてくれ――
確かに領民たちが言うようにウェルシェスはベールジアンの好みそのままである。
背丈はこれくらい。ぴったりだ。
目鼻立ちはこんな感じ。ぴったりだ。
話す口調は穏やかに。まさにその通り。
なにより笑顔が可愛い。射抜かれてしまった。
だが、勝手に関係を進化させるのはやめて欲しい。
これでウェルシェスにドン引きされて今夜から「夕食は1人で食べます」と部屋に持って行かれたから軽く死ねる。
期間限定のささやかな楽しみでもある食事のチャンスを奪う事にもなり兼ねない。
更にウェルシェスが好みであるのはその内面もである。
「皆さん。1週間で出来ます。先ず各ご家庭の竈の灰。それを畑に撒いてください。そして不要になった麻袋などがあれば風で飛ばないように覆いを。種が到着次第蒔いて頂きます。他には調理の際に出る廃棄食材。それらはこれから場所を選定しますがそちらにお願いします。落ち葉と一緒にして腐葉土にしますので川などに廃棄しないように」
実はベールジアン。
「こうします!」と断言をされて「はい、頑張って」と尻を叩かれるのが好きなのである。
まるで羊を追う牧羊犬のように飼い主の信頼を得るためにはとても忠実にそして言われた事には素直に従う性格。
ウェルシェスは幸か不幸か側妃生活も5年で気ぜわしく活動をしていたので、つい意気込んでしまうと口調が命令形に近くなってしまう。さらにそれがベールジアンの琴線をびっしびしに触れ捲っている。
「あ~こりゃ、完全に尻に敷かれるね」
領民の目が痛い。当たっているだけに言い返せない。
ベールジアンは「どうか聞こえていませんように」とそっとウェルシェスを見てまたデレた。
感想 17
あなたにおすすめの小説
義父が私の推しでした!? ~推し活がバレたら、英雄なお義父様の愛娘になっていました~
由香英雄として国中から尊敬されるアルベルト公爵は、侯爵令嬢リリアの十年来の推し。
ところが政略結婚で嫁いだ先で出会った義父は、まさかのその推し本人だった!
推しを前に毎日大混乱のリリアと、そんな義娘を可愛がる義父、父に張り合う夫。
勘違いと溺愛が止まらない、笑って癒やされるファミリーラブコメ!
後妻の条件を出したら……
しゃーりん妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。
格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。
だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。
しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。
「君を愛することはない」とお決まりのセリフを言ったのは、最愛の推しでした。
下菊みこと前世の記憶があり、その記憶によると現代日本で限界社畜OLやっていたオタクだった主人公。
魔法も魔術も秘匿されていない世界で公爵家の娘として生まれる。
現代社会の知識がある主人公は、昔から神童と称えられ、18歳の誕生日を迎えた今も才女と評される。
しかしこの世界の「美しい女性」の定義の真逆の見た目から婚約者がいない。
これでは行き遅れると心配した両親が持ってきた縁談は、新興伯爵家(どうも商売で成功して、その経済効果から叙爵されたらしい)との縁談。
これは裏があるなと思いつつも、「結婚は勢いよ!」と背を押されそのまま結婚式。
結婚式に現れた新郎は…なんと二人!?しかも前世最推しだった兄弟キャラ!?
一応、この世界の主人公が暮らすこの国では男女ともに「重婚」が認められている(昔国を揺るがすような大恋愛があったせいらしい)ので法律上は無理はないのだが…。
そして初夜。
ベッドの上でネグリジェを着て待っていた主人公の元に、二人は…来た!?
しかしお決まりの「君を愛することはない」「これは公爵家の庇護に入るための政略結婚」と言われる。
主人公は果たして推したちと良好な関係を築いていけるのか…!?
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
婚約破棄された令嬢ですが、実は王家より格上でした
MMMMO「リリアーナ・アルヴェルト! 私は今日、この場でお前との婚約を破棄する!」
王宮の大広間に、第一王子レオンの高らかな声が響き渡る。
貴族たちが一斉に息をのみ、音楽が止まった。
今日は王家主催の舞踏会。
王子と婚約者である私が並んで踊るはずの日だった。
「理由は明白だ! お前は冷酷で傲慢。慈悲の心がない!」
「……そうですか。」
「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」
みっちぇる。侯爵令嬢のラリアは20歳。立派な嫁きおくれである。
というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。
なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。
そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。
何か裏がある――
相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするが、非力なラリアには何も手段がない。
しかし、そんな彼女にも救いの手が……?
なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた
たぬきち25番男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。
女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。
そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。
夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。
だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……?
※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません……
※他サイト様にも掲載始めました!