では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)

反抗期と残業

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。

この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。

中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。

架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。




◇~◇~◇

「どうしてわかってくれないんだよっ!」

「ヨハン、落ち着きなさい。ほら剣が欲しいと言ってただろう?買ってやるぞ?お城の前まででいいから」

「僕は行きたくないっ!僕は…僕は…前のクラスメイトと会いたくないから行きたくないっ」

「ヨハン…でもね。10歳になった貴族の子はみんな出席するんだ。一生に一度の事なんだし、誰でも行って良いと言う訳でもないんだ、王様に呼ばれた子だけの特権なんだ」

「僕は…王様に呼ばれたの」

「あ、いや…うん。王宮の前までおいでって言ってくれたよ」

「お城の前?そんな所で馬車を降りて何をするの?」

「馬車は降りなくていいんだ。人がいっぱいいるから危険だからね」

「どうしてそれで僕が来たって王様がわかるの」

「それは…」

言葉に詰まるライアル伯爵の顔を真正面から見つめるヨハン。
子供心にも気が付くものである。祖父が嘘を吐いている事を。

――王様に呼ばれてなんかいない――

行きたかった訳ではない。どちらかと言えば元クラスメイトに会うのが嫌で行きたくない。
葛藤する中で、ヨハンは感じ取ったのだ。
祖父のライアル伯爵が、今の同級生の少し前と同じだという事に。
自分の気分が悪くなる事がないように品物を買い与えていた時の同級生と同じなのだ。

バタンと扉が開くと、ムンと香る香水の匂い。振り返らなくても判る。母が来たのだとヨハンは思った。母のいた部屋は同じ香りがするのだ。
メイドたちが窓を開けてもいた事が判るほどの香水の匂いである。
まるでシャワーを浴びているのかと思うくらいに香水を振りかけるのだ。
霧吹きのような物で首筋やドレスにも鼻が曲がりそうになるくらいに匂いを纏うのだ。

「五月蠅いわねぇ。折角気分良かったのに台無し。ワインを頂戴」

「かしこまりました」

ライアル伯爵がソファに座り、その横に立っていたヨハン。ライアル伯爵の向かい側に気怠く倒れ込むかのようにソファに腰を下ろした母メイサ。ヨハンは悲しくなってしまった。

「で、?何?行きたくないって言ってんだからいいでしょ?その分こっちに金、回しなさいよ。この頃けち臭いわよ。今日のチーズなんて二流品じゃない。私はね、この子の母親なのよ?その辺り判ってんの?ヨハァン♡こっちおいで」

いつもなら母の膝の上に乗り、頭を撫でてもらっていた。
そして、母と一緒に祖父から小遣いをもらったり何かを買ってもらう約束を取り付けていたのだ。

昼間に見た女性と母をつい比べてしまう。それが良いのか悪いのかもヨハンには判らない。
けばけばしい衣装はまるで鳥の羽を纏っているかのようで座ると服に羽毛が付きそうだ。
目の周りも父と自分の髪色のムラサキで縁取り、いつか見た本の大熊猫のようだし、口はベリージュースを溢したのかと思うようなこれまた紫の口紅。そして香水の匂いをさせながら煙草をふかし始める。

ヨハンはこの煙草の匂いが大嫌いだった。香水と混じって更に酷い匂いに顔を顰めた。
煙草を持っていない手を伸ばしヨハンの名を呼ぶ母。

「母様、僕、デヴュタント行きたくない」

「いいじゃない。そんなもの行ったって何の役にも立たないし、第一…招待状来てないでしょ?このボンクラ爺さんの不手際よ。腹が立つわねぇ~。可愛いヨハンに恥をかかせたいのよ?未だにお母様は伯爵夫人とは呼ばれないのもこの爺さんのせいよ。私達をこうやって虐めて楽しんでるのよ。あぁ~心が痛いわぁ。この痛みはどうやったら癒せるかしら。ねぇヨハァン♡」

媚びるような目でヨハンを見るメイサにヨハンはグッと手を握った。

「お爺様、母様も行かなくていいって言ってる。僕、行かない。馬車から降りなくていいならお爺様が代わりに行ってきてよ。僕、絶対に行かないっ!」

「ヨハン‥‥」

ライアル伯爵が手を伸ばそうとしたが、ヨハンはそのまま部屋を飛び出していった。
自室に戻り、内鍵を閉めると花瓶を手に取って振り上げた。
しかし、花と水がボトボトと床に落ちるだけで花瓶は手から離れなかった。





◇~◇~◇

ベンジャーは珍しく残業をしていた。
インシュアに今日のデヴュタントの事は伝えていない。何度か離れに出向いたがいつも留守でメイドのルーナが編み物をしているのが日当たりのよい窓から見えるだけだった。

事前に約束をしていない限りインシュアには会えないのだ。



この数か月に渡って・・・・。
離れに行った時に、贈った品物が山積みになっていた。ルーナに聞くと「好きにしていい」と言われたと聞いてゾクゾクしてしまった。
しかしそれも何度目かに幾つか減っていた。「使ったのか」と聞けばルーナはメイサが持って行ったという。

以前のような高い金を払えば来てくれる劇団ではなく、小さな役者志望の若者たちがやっているような劇を観ていたメイサの指や髪にはインシュアに贈ったはずの指輪と髪飾りがあった。

夜、どういう事だと聞けばメイサはとぼけた。
それよりもと寝台に押し倒されるが、あんなに恋焦がれていたメイサなのに全く反応しなかった。
それだけではなく、その化粧が亡霊のように見えて思わず撥ねつけてしまった。

「どうしたの?もう4年くらいレスなのよ?ヨハンも手がかからないしもう1人作りましょうよ」

「いや、やめておく」

「どうして?あっ!そうだ。イイもの買っちゃった。これ見て」

そう言ってメイサがクローゼットから出してきたのは卑猥な下着だった。
ドレスを脱いで着てみるから背中のフックを外してくれというメイサを置いて部屋を出たベンジャーはメイサを捨てる事に決めたのだった。



そして、今である。今日はヨハンのデヴュタントである。
結局、朝、仕事に出る時にも招待状は来なかったし屋敷からの連絡もない。

屋敷に戻ればあれほどデヴュタントに拘っていた父がいる。非常に面倒である。
ヨハンもまた暴れているだろうし、メイサも閨をしてくれと迫ってくる。
母はあまり調子が良くないようで心配ではあるが、デヴュタントの件で泣かれるとどうしろと言うんだと苛立ってしまう。


「ライアル君、そろそろ帰ってくれないか」

上司が声をかけに来た。時計を見ればまだ20時過ぎである。
上司が苛ついているのは上司も孫が今日デヴュタントでパーティをするからである。

「お疲れさまでした」

上司とは反対方向に歩き始めたベンジャー。
足の向いている方向は繁華街のある方向である。

そこでベンジャーは結果として朝帰りならぬ昼帰りをしてしまい、それが後悔してもしきれない事態に陥る事などその時は知る由もなかった。
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