では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)

動き出すインシュア★呼び出し

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。

この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。

中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。

架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。




◇~◇~◇
時間的にはベンジャーが大金を持って帰ってきた日の夜です。
(デヴュタントの翌日なのでインシュアは出勤しています)
◇~◇~◇

「ルーナ、いるかしら。ルーナ」

久しぶりに自分の名前を呼ばれたルーナは飛び上がるほど嬉しかった。
ここ数年、時折ベンジャーが来てインシュアは?贈り物は?と聞くだけでルーナは名前を呼ばれた事はない。
する事が編み物や刺繍だけという毎日を過ごしていると、7年の間にルーナは老け込んでしまった。インシュアが離れに来た時のような若さは一切ない。

ただ、毎日インシュアが居なくても1人で受け答えの練習はしている。
自分の声でもしていないと気が狂いそうになるからである。


「お呼びでしょうか」

「悪いんだけど、ライアル伯爵と夫に明日の午前中話がしたいと伝えて頂戴」

「場所はこちらでよろしいでしょうか」

「どちらでもいいわ。但し午前中でも11時を過ぎるようなら後日と伝えて」

「承知致しました」

ゆっくりと頭を下げて部屋を出て行くルーナだが、インシュアは珍しい事もあるものだと窓の外を見た。星が見えるので雨ではないようである。

ルーナは話をして欲しい、構って欲しいという気持ちからそうするのであって、改心したかと言えばそれは判らない。インシュアのメイドはルーナだけだが帰宅が遅いのもあるがインシュアは食事は外食か買ってくるし、掃除も自分でする。洗濯は3日に1回コインランドゥリ利用者になっている。

無視をしているわけではない。ルーナは元々インシュアを監視するために配置された者であり世話をする為のものではない事は理解をせねばならない。
ルーナも言っていた。「私は忙しい」と。監視なのであれば報告に行くだろうからついでの便を頼んだだけだ。使用人だからとむやみやたらに使っていいものではない。インシュアはそう考えているだけである。


ルーナが離れを出て走っていく様子を確認すると、インシュアは自分で茶を淹れて椅子に座って本を開いた。本宅では夕食が終わってそろそろ湯殿にでも行こうかという時間である。
伯爵本人やベンジャーがいなくても執事に伝えるだろう。




◇~◇~◇

ランス男爵家の心配をする必要がなくなったインシュアは早めに動く事にしたのである。
元々の計画は10年目で行う予定だったので3年早まったが問題はない。何事も遅れると大問題だか早めに終わる事は喜ばしい事である。


計画の前倒しをしようと思ったのは、明日は午前休みだという事もあるが、明日の夕食は先代スザコーザ公爵夫人に誘われているのである。誘われている店が予約もなかなか取れない要予約の店だという事もあるが、今日の時点で変更の連絡はなかった。支店にはインシュア宛に連絡があったのはリーボンさんのみ。それも書類をわざわざ持ってきてくれただけだった。

先代スザコーザ公爵夫人は約束は守る人である。

「1人増えるかも知れないけれど、ケルベロス達が食事をしましょうって」

ケルベロスと言うのはリンデバーグの兄、つまり現スザコーザ公爵である。夫人連れだという事だ。
それはつまり弟が安全圏に入ったという事だ。必然的に父も安全圏に入った。
1人増えるのはリンデバーグだろう。弟ならば父だけ誘わないというのはあり得ない。




スザコーザ公爵家との共同事業だったが、ランス男爵家には金がなかった。
インシュアが金を出したのは共同事業で天然黒鉛が発見されてからである。発掘をする前に金が必要だった。全てをスザコーザ公爵家が負担をするというのは目に見えていたが共同なのだから片方だけ金を負担するのはおかしな話だ。貴族社会である以上何を言われるか判らない。噂ほど信憑性がないのに信じる者は多いのだから。インシュアとて手を打ってある。

保険販売員をしていると色々な情報が手に入るのだ。
細かな情報だが【実際に使用する者】【実際に行う者】の声を保険を売りながら拾い集める。
平民は貴族と違って【動く】のである。王宮などに勤める者はそうでもないが一般の平民は出稼ぎのような季節労働者もかなり多いのだ。そうすると時期をみてご機嫌伺いをすると帰国している御主人さんに会える確率が高くなる。

シャボーン国だけではなく隣国の生の情報も手に入る。
単に保険を売ってるだけではない。情報収集も兼ねているのである。
それを該当する当主との会話に盛り込むのだ。

例えば、製紙業を生業としている貴族にはサトウキビから砂糖を作った後に残る成分のパガスを使って製紙する方法を教える。同時にサトウキビを栽培している領地を持つ貴族と顔合わせをさせて提携をさせるのである。
サトウキビを栽培し収入としている貴族は砂糖を取った後のクズが処分費を払って処分しなくて良くなるだけでなく金を産むのだ。製紙業をしている貴族も安価で原材料が手に入る。

休耕地になっている場所に桑の木を植えて桑の葉を餌とする蚕を飼育する事で絹の生産をしてみないかと持ち掛けた事もある。絹そのものは布地として使用するが、精練する際の灰汁を稲、小麦などを収入源としている貴族とマッチングして米や小麦、大麦などの必要部分を取り除いた藁などの処分で業務提携をさせる。
灰汁は上澄みなので、沈殿したものは腐葉土などと混ぜて葉物野菜を主に収入源としている貴族に売る。

そうやって今まで処分に困っていた物を【商品】として新たな【収入源】とする事で名前を売って来たのだ。


インシュアにとって好都合だったのは【ヨハンとの遠戚関係】はインシュアが頼まなくてもライアル伯爵夫妻やベンジャーが広く宣伝をしてくれる。自分たちが如何に妻、嫁を大事にしているのかと広める事でインシュアの発言に信憑性を持たせる。


「次期伯爵は遠戚の子まで面倒見てくれるなんて愛されてるのね」

何度も言われたが、インシュアが肯定した事は一度もない。笑って流すだけである。


愛されている妻を演じて7年。
そうやって色んな貴族に保険の代わりに【恩を売る】のである。

恩は面倒である。律儀な者は【恩返しがしたい】とライアル伯爵家と取引をしてもいい、業務提携してもいいと言ってくれるのだ。インシュアは心の中で恩と言う名の給付金の受け取りはマルクスにしている。

社交は遊びだとしか考えていないベンジャーは「つまらない会話」「そんな話」「そんな事より」と発するようにインシュアは誘導するだけだ。ワードが飛び出せばすぐさま【ライアル伯爵家は必要ないようだ】と伝え【ですが、ランス男爵家に声かけして頂ければ】と全てをベンジャーがウチよりランス男爵家を優先させてくれと言っていると誘導をしてきたのだ。

単にインシュアが動いただけでは上手く行かなかったかも知れないが【愛妻】というライアル伯爵家が勝手に触れ込んでくれるのは非常~にありがたかった。
決して伯爵家の名前を陥れたのではない。宣言した通り利用してきただけだ。
ベンジャーの言葉によってライアル伯爵家に実際の利益がなかっただけの事である。


「さて‥‥書類はこれで足りるかしら?ちゃんとしてくれるといいんだけど」

署名をもらう前はインシュアも緊張するのだ。
明日に備えて寝るか!そう思って寝台のある部屋に行こうとした時、玄関の方が騒がしくなった。
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