では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)

冷酷な女。インシュア・ランス

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。

この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。

中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。

架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。




◇~◇~◇
※これは序章の3話。インシュアが覚醒するに至った経緯です。

◇~◇~◇

インシュアは冷たい女である。そして育った環境が貧乏な故にケチである。
貰えるものはしっかり頂く。捨てたものには未練もない。そういう女なのだ。

かの日、インシュアに愛を囁き、家族ぐるみでインシュアを妻(嫁)に迎えた貴族がいた。




1人離れに追いやられ、インシュアはなんとか外に出る事が出来る方法を考えた。
そのためには、相手の言動を最大限に利用する事が出来ないか2、3か月本を読みながら考えた。

幸いなことに、追いやられた離れには過去、かなりの勉強家だった先祖がいると見えて本だけは沢山あった。動物の生態を進化の観点から考察したものや、宇宙論に関するもの、シャボーン国がある大陸ではなくこの惑星の組成など本当に様々で【スケール広すぎるでしょ】と、これはこれで面白いけれど【今はコレジャナイ】と別の書架に手を伸ばした。

だが、こんなご先祖様がいるのに彼らはどうしてあんなに残念なのか。
おそらくは働きアリの法則なのだろう。アリではなく人間にも当てはまると言うではないか。


そこにあったのは【ご近所さん】というそれまでの本に書かれていたものよりグッと身近な事をまとめた物だった。よくよく見れば、本だけではなく実際にフィールドワークをしていたと見えて聞き取りなどをした当時の紙の束も無造作に積まれていたのだ。

部分的に記された年代から見るに150年ほど前かと思われたが、当時からご近所さんとの関係は現在と大きくは変わっていないのだなとインシュアはその紙の束を時に朝まで読んで思った事だった。
そして最後に書いてあったのだ【彼らの悩みを解決する糸口はないのだろうか】と。

今、解決しても何にもならない事は判っているが、インシュアは紙の束をばらばらにして似たような項目ごとにまとめて、その悩みを解決する方法が書かれている本があるのではないかと探した。
その中に当時発売された、いやシステムそのものが始まった頃の保険のチラシが挟まっていたのだが、その時は特に気にも留めず元の位置に戻した。


・子供がけがをして医者に行きたいが初診料は払えてもその後が払えない
・読み書きが出来ないので学院に行かせて勉強をさせてやりたいが学費が払えない
・この子鳴かないんですよと言ったから買ったのに子犬が鳴く
・家族の顔も判らない父親が大量の品物をローンを組まされて物を買っていた
・隣の家の柿がウチの庭に落ちていたので食べたら近所に泥棒と触れ回られた

「今も昔もあまり変わらないのね」とインシュアは呟き、1人お悩み解決隊となった。
離れの屋根裏にまで積まれた本などから世の中には【刑事事件】【民事事件】【自業自得】がある事を知った。それまでは【事件です!】か【自業自得】の2つだったのが3つになったのだ。
インシュアは身近な問題だったからこそ、更に没頭した。暇だったという事もあるが。



1人お悩み解決隊の活動でライアル伯爵家の行いは犯罪だと知った。
だが、貴族法で守られている貴族は【財産没収】【爵位剥奪】が関の山である。

自分の現在の婚姻状態の解決策は離縁か白紙だけだった。

現状で離縁をするのは簡単だった。ベンジャーと一緒に行く夜会で叫べばいいだけだ。
問題はその後である。ライアル伯爵家はシャボーン国でも指折りの資産家。
「こいつら平民との間に子を作ってて、イケナイ事してるんですよー」と叫んだところで貴族法に守られているので【財産没収】【爵位剥奪】のどちらかまたは両方が罰なのだ。

これをされれば確かに痛いが、幾つかの貴族はそのために財産を別途管理している。
所謂【隠し財産】というものだ。それを使って父や弟に何かをされる可能性は捨てきれない。金さえ払えば犯罪を請け負う者だっているのだから。

「どれだけあるのかしら‥‥おおよそで判ればいいんだけど」

ごそごそと探していると【隔年間★貴族情報】という本が見つかった。半年に一度発行されるシャボーン国貴族の経済状況などが大まかに書かれ、纏められているものだ。

思わずランス男爵家の欄を見た‥‥今と変わらず貧乏だったようだ

ついでに幼馴染のリンデバーグの家であるスザコーザ公爵家を見た。(※1)とあるのは何だ?家名の右下に書かれたマークを見ると、第一王女殿下との婚姻と欄外に書かれていた。

「え…ってことはリンデバーグは王族とも言えるってこと?」

冷や汗が吹き出す。幼い頃とは言え騎士ごっこをしたり、蜂の巣を石を投げて落とすなんて事もやって蜂に刺された事もある。臭気草の花を後出しじゃんけんで臭わせて鼻をイカレさせた事もあった。

ダラダラと流れる冷や汗。ちょっとだけ止まったのは【隔年間★貴族情報】が116年前のものだった事だ。インシュアは「もう血は薄い」と結論付けて忘れる事にしたのだ。




そしてライアル伯爵家だ。当時から家はあったようだが収支的には鳴かず飛ばすの浮かず沈まず。パッとしない収支で今の屋敷や装い、あの日見た調度品などはとても年に1つ2つでも買えるようなものではない。
何処かで変わる何かがあったはずだと【隔年間★貴族情報】を探した。


一番新しいもので10年前のものが見つかった。それよりも刊行が新しいものは見つからなかった。当時インシュアは14歳、弟のマルクスは8歳。流行病で母を亡くした時だ。ベンジャーは16歳だった。
ライアル伯爵家は既に大金持ちになっていた。記載されている資産額は1兆にもうすぐ手が届くほどの金額である。納税額も飛びぬけていてスザコーザ公爵家の3倍を納税したと記載がある。


ド貧乏とまでは言わないが、鳴かず飛ばすの浮かず沈まずの切り替えポイントを探すとさらに11年前だった。マルクスは生まれていないがインシュアは3歳、ベンジャーは5歳当時だ。


流行病はずっと蔓延していたのではなく、最初の患者が出た時から1年足らずで多くの罹患者が死亡した事から国王は外出禁止令を出し、井戸の水も必ず煮沸して飲む事、野菜などは流水で充分に洗い流し料理して生では食べない事などを国民に徹底周知した。しかし経済が滞ってしまうため、患者数が減少傾向になると下がり切る前に解禁。するとまた爆発的に患者数が増えたのだ。山と谷のような患者数の推移を繰り返し第11波と呼ばれる山でインシュアの母は亡くなったのだ。


11年前は年度の途中だったのか。だがそれまでに比べれば収支は30倍ほどになっていた。その翌年からはけた違いの収支となり、多少売り上げが減った年もあるが不思議と売り上げの波は流行病の罹患者数とリンクしていた。
だがある事に気が付いた。売り上げが伸びると同時にほとんど山しかない伯爵領を切り売りしているのだ。

インシュアが嫁いだ時点で所有する不動産(土地)はこの伯爵家及び離れのある土地と、離れた場所にある商会の事務所がある土地だけ。双方とも自己所有なのは後日知る。


離れに押しやられて半年。インシュアは決めたのだ。

何もしなければ何も起こらない。ライアル伯爵家は予定通りあの幼子が成人した時にインシュアを切り捨てるだろう。離れから出る事の出来る夜会の時、ベンジャーやライアル伯爵家は触れ回っているのだ。

【ただ、愛されている妻(嫁)】。つまり年数が経てば胡坐をかいて穀潰しだと言われるのがオチだ。散々堕落した生活を送ってきて慰謝料?っと払うつもりもないだろうし慰謝料など元々考えてもいないはずだ。

それまでに出席する夜会の数は17年間で軽く100回を超えてくる。
ヨハンは平民との子だと声高らかに言う機会は幾らでもあっただろうに、別れるのが嫌でなんとでもして縋ろうとする女の扱いをされるだろう。

17年など待つつもりは毛頭ない。だが外に出なければこれ以上新しい情報は手に入らない。世の中は動いているのだしこの大量の本の知識を使って何かが出来るはずだ。

10年。10年だ。

インシュアは決めた。
10年働けば、マルクスを幾らか助けてやれる程度にはなるだろう。
10年間、夜会に出て他の貴族の繋がりをマルクスに持たせよう。

力を付ければライアル伯爵家はそう簡単に手出しは出来なくなるはずだ。
嫁入り道具で持ってきた父がなけなしの金で用意してくれた夜会用の3着のドレスも次のリメイクでは同じものを着まわしているとバレるだろう。

それに持ってきた茶葉も残り少ない。

パタン

本を閉じるとインシュアはルーナを呼び、ライアル伯爵とベンジャーを呼び出した。
予想外だったのは、この二人が想像していたよりも【間抜け】だった事だ。
話をすればするほど、用意していた隠し玉を引っ込めることになっていくくらい【抜けている】のである。こう切り替えさえたらこうしようと用意していたのに出さずに終わるのだ。

これはもしや‥‥。そう思った直感は当たっていた。

外に出る事が出来たインシュアはどこで働こうかとジョブ斡旋所まで歩いていた時だ。


「どうぞ~」

手渡されたのはティッシュだった。ユズリッハ保険商会の新規販売員を募集しているチラシが挟まったティッシュである。頭に過ったのは【1人お悩み解決隊】だった。
そうそう上手くはいかないだろうが、全く役に立たないという事もないだろう。

新人研修と言っても2週間ほど延々と誰かの話を聞くだけ。
全く為にはならない事もないが、要はご契約者様の為に今ではなく未来を見て保険を売ればいいのだ。
最低限の講習が終わると退職すると言う2人の先輩に付いて何件かの家を回る。

「出て行きやがれ」「二度と来るな」「顔も見たくない」先輩の盾となって茶を何杯被っただろう。先輩の【後で払うから】の言葉にご契約者様に差し上げる粗品を何十個用意しただろう。
そこで学習したのだ。立て替えた所でほぼ戻ってこない事を。
たまに戻ってくると更に無茶ぶりをされるのだから返金がない方がありがたいくらいだ。

そんな中、ふと目にした【隔年間★貴族情報】の最新号。

ぱらりと捲ってライアル伯爵家の欄を見る。驚く事に資産は激減していた。
離れにあったのが古すぎたのもあるかと、バックナンバーを取り寄せた。
先輩が昼前に「今日は直帰だからあとよろしく~」となれば王宮に直行した。

ニヤリ。

インシュアの口角が上がった。
追いやられた離れのある土地の重要性に気が付いた。
慰謝料として頂く事を決めたのだ。払う気がないのならこちらから頂くまでだ。
そして、ライアル伯爵夫妻、ベンジャーには丸裸になってもらう事も決めた。

貴族法で【財産没収】【爵位剥奪】がせいぜいでも問題ない。むしろこの2つをセットで受け取って貰わないとその後が面白くないほどだ。

メイサにも腹は立つがメイサに知恵があればただ喚くだけでなく自衛策は取れるだろう。物は言いよう。馬鹿と鋏は使いようなのだ。メイサが知っているかどうかはインシュアが気にする事ではないので手を貸すつもりも助言するつもりもない。インシュアは冷たい女なのだ。

この時は、ヨハンはきっとベンジャーとメイサの中身にそっくりになるだろうな~。可哀想だな~くらいにしか考えていないのでヨハンについては特に思うところもなかったインシュアだった。
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