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第21話 変化のあった場所
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「ダリウス。そちらにお座りになって下さいませ」
「ここか」
ダリウスが指さしたのはアリアの作業用椅子。
ヒクっとこめかみが震えるが、アリアは「怒っちゃダメ。怒っちゃダメ」と自分に言い聞かせ、昨夜の夕食で出されていた食材を思い浮かべつつ、工房にしている部屋の隣に部屋にダリウスを案内した。
世の中には毒キノコと呼ばれるキノコがあって、毒々しい見た目だったりすると食用にはしないが紛らわしい色や形をしているものもある。
嘔吐や腹痛、頭痛に痺れなどの症状が現れるものもあるが、中には幻想を見せたりしてカマキリに寄生するハリガネムシのように宿主の思考を完全に掌握するような作用を持つ毒キノコもある。
毒キノコだけとは限らない。洗浄が不十分で寄生虫を体内に取り込んでしまっていたら大変だが、そんな事でもない限りダリウスの奇妙な変貌は説明がつかない。
ソファに向かい合わせに腰かけるとダリウスは「こっちへ」と隣の座面をポンポンと叩く。
――やっぱりおかしいわ――
表情の変化は見られない。
向かい合わせよりも隣で確認をした方がよさそうな気がしてアリアはダリウスの隣に移動をして、ダリウスの頬を両手で包むようにして真正面に向けさせてまじまじとダリウスの顔を見た。
「て、照れるじゃないか…」
――全く赤くもなってないけどね?…ん?――
指先に感じるのはダリウスの耳の熱。視線も向けてみると表情は全く変わっていないし、紅潮もしていないのに耳はガシガシとかなり擦ったように赤く、そして熱くなっていた。
「耳が熱いですよ?」
「あぁ。昔から耳だけは制御が出来なかった。動かす事はできるんだが」
「動かす?耳を?えっ?えっ?もしかして今の位置から猫耳みたいに上に?」
「ハハハ。そうじゃない。耳たぶをぱたんと閉じる事が出来るんだ」
――それって十分に制御出来てるって言うんじゃないの?――
普通は出来ない。ピクピクと動かす事が出来る人はいるけれど、耳たぶを閉じるように手も使わずに動かせるなんて何万人に1人のレベルな芸当だ。
「やってみせようか」
「今できるとか?」
「あぁ。アリたんの頼みとあればいつでも?」
「あ~。そのアリたんは止めて頂けます?なんだか…気持ち悪いと言いますか‥」
「では何と呼べば?」
「アリアで結構です」
「みんなと同じになるじゃないか」
――それの何処が嫌なの?今まで呼んでたじゃないの!――
「では…アリーと呼ぶことにする」
「語尾を伸ばすならアリアで良いじゃないですか」
「私だけという特別感が欲しいんだ」
呼び名だけなら食物毒か寄生虫に犯されている間だけなので、変に意固地になるよりOKを出した方が早い。病気で体が弱っていると周囲が少々の我儘を聞き入れてくれると思ってしまうのは仕方のない事だ。
一過性の物なので、来年の今頃には笑い話になっているだろうとアリアは考えた。
「解りました。ではアリーで」
「ありがとう。私の事も侯爵呼びになっているが名前で良い。出来ればアリーに愛称をつけて欲しいくらいだが」
「心に余裕が出来たら考えておきます。今は修復の工程で頭がいっぱいなので」
「無理をしなくていい。期日は設けていないんだから」
――それじゃ給料泥棒って呼ばれる日が来ちゃうわよ――
まだ父親が存命の頃、食費を稼ぐのに商会でアルバイトをした事があるが、業務時間内はダラダラとして残業がつく時間になるとのんびり仕事をし始める従業員がいた。彼は給料泥棒と呼ばれていたのだ。
父が亡くなり、従業員を雇う事も考えたことが無かった訳ではないけれど、雇ってしまうと職務怠慢でもやめてもらう事が出来ないので面倒事を抱え込むくらいならと1人奮闘してきた。
さて、とダリウスに向かい合ったアリアは変貌の理由を問うため再度ダリウスと会話をする事にした。
「ここか」
ダリウスが指さしたのはアリアの作業用椅子。
ヒクっとこめかみが震えるが、アリアは「怒っちゃダメ。怒っちゃダメ」と自分に言い聞かせ、昨夜の夕食で出されていた食材を思い浮かべつつ、工房にしている部屋の隣に部屋にダリウスを案内した。
世の中には毒キノコと呼ばれるキノコがあって、毒々しい見た目だったりすると食用にはしないが紛らわしい色や形をしているものもある。
嘔吐や腹痛、頭痛に痺れなどの症状が現れるものもあるが、中には幻想を見せたりしてカマキリに寄生するハリガネムシのように宿主の思考を完全に掌握するような作用を持つ毒キノコもある。
毒キノコだけとは限らない。洗浄が不十分で寄生虫を体内に取り込んでしまっていたら大変だが、そんな事でもない限りダリウスの奇妙な変貌は説明がつかない。
ソファに向かい合わせに腰かけるとダリウスは「こっちへ」と隣の座面をポンポンと叩く。
――やっぱりおかしいわ――
表情の変化は見られない。
向かい合わせよりも隣で確認をした方がよさそうな気がしてアリアはダリウスの隣に移動をして、ダリウスの頬を両手で包むようにして真正面に向けさせてまじまじとダリウスの顔を見た。
「て、照れるじゃないか…」
――全く赤くもなってないけどね?…ん?――
指先に感じるのはダリウスの耳の熱。視線も向けてみると表情は全く変わっていないし、紅潮もしていないのに耳はガシガシとかなり擦ったように赤く、そして熱くなっていた。
「耳が熱いですよ?」
「あぁ。昔から耳だけは制御が出来なかった。動かす事はできるんだが」
「動かす?耳を?えっ?えっ?もしかして今の位置から猫耳みたいに上に?」
「ハハハ。そうじゃない。耳たぶをぱたんと閉じる事が出来るんだ」
――それって十分に制御出来てるって言うんじゃないの?――
普通は出来ない。ピクピクと動かす事が出来る人はいるけれど、耳たぶを閉じるように手も使わずに動かせるなんて何万人に1人のレベルな芸当だ。
「やってみせようか」
「今できるとか?」
「あぁ。アリたんの頼みとあればいつでも?」
「あ~。そのアリたんは止めて頂けます?なんだか…気持ち悪いと言いますか‥」
「では何と呼べば?」
「アリアで結構です」
「みんなと同じになるじゃないか」
――それの何処が嫌なの?今まで呼んでたじゃないの!――
「では…アリーと呼ぶことにする」
「語尾を伸ばすならアリアで良いじゃないですか」
「私だけという特別感が欲しいんだ」
呼び名だけなら食物毒か寄生虫に犯されている間だけなので、変に意固地になるよりOKを出した方が早い。病気で体が弱っていると周囲が少々の我儘を聞き入れてくれると思ってしまうのは仕方のない事だ。
一過性の物なので、来年の今頃には笑い話になっているだろうとアリアは考えた。
「解りました。ではアリーで」
「ありがとう。私の事も侯爵呼びになっているが名前で良い。出来ればアリーに愛称をつけて欲しいくらいだが」
「心に余裕が出来たら考えておきます。今は修復の工程で頭がいっぱいなので」
「無理をしなくていい。期日は設けていないんだから」
――それじゃ給料泥棒って呼ばれる日が来ちゃうわよ――
まだ父親が存命の頃、食費を稼ぐのに商会でアルバイトをした事があるが、業務時間内はダラダラとして残業がつく時間になるとのんびり仕事をし始める従業員がいた。彼は給料泥棒と呼ばれていたのだ。
父が亡くなり、従業員を雇う事も考えたことが無かった訳ではないけれど、雇ってしまうと職務怠慢でもやめてもらう事が出来ないので面倒事を抱え込むくらいならと1人奮闘してきた。
さて、とダリウスに向かい合ったアリアは変貌の理由を問うため再度ダリウスと会話をする事にした。
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