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第32話 王太子は知った
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ブーレ伯爵は王弟の屋敷を後にすると一旦ブーレ伯爵家に戻ってきた。
王太子夫妻と面会をする予定は午後からになっている。時間はまだ朝の10時前なので今から登城をしても約束の時間まで控室にも通してくれないので馬車乗り場で待たねばならない。
「エレーナ。エレーナはいるか?」
「はい。朝食を終えてお部屋でお寛ぎ中で御座います」
「呼んできてくれ」
「畏まりました」
従者がエレーナを呼ぶためにエレーナの部屋に向かうとブーレ伯爵は王太子夫妻から問われるであろう事項をエレーナに聞くため、箇条書きに書き留めた。
書き留めるペンが止まった。
「おかしいぞ。4カ月前なら…フッタの愚息と結婚だなんだと言っていた頃じゃないか?」
浮かんだ小さな疑問。顔をあげて従者を見ると従者は首を傾げながらブーレ伯爵に言った。
「旦那様。妊娠の月数と暦の月数は違います。妊娠は28日周期などで考えるので少しずれますよ?それに確実に妊娠をしていなと思われる月のものが終わった日からの数えになるので」
「そうなのか。ふむ…なら3カ月…まぁいいか」
しかし待てど暮らせどエレーナはやってこない。
呼びに向かった従者だけがブーレ伯爵の元に戻ってきた。
「エレーナはどうした?」
「それがお嬢様は今朝から具合が悪いと。横になっていないと激しい腹痛がするそうです」
「なんだと?それはいかん!子が流れたら侯爵家との縁も流れてしまう。解った。安静にしているように伝えてくれ」
「畏まりました」
妊娠初期を大事にせねばならないのはブーレ伯爵も自分が父親になる時に産婆にきつく言われた。無理をさせてはならないと結局エレーナに出会いであったり、何処で会っていたのか、贈り物の有無などは聞けず終いとなった。
ブーレ伯爵の馬車が屋敷を出たのは昼食も終わってからだった。
城に到着をすると案内はされたが先客がいると言われ、控室で2時間も待たされる羽目になってしまった。
☆~☆
ブーレ伯爵が城の門を潜る少し前、エストス侯爵家の使者がダリウスから「ブーレ伯爵の書簡について」と急ぎ認めた手紙を持参して門を潜っていた。
手紙を受け取った王太子は目をぱちくりとさせたが、事情が解ると大笑いし従者に「ブーレを待たせておけ」と言い残して厩舎に向かい、エストス侯爵家まで馬に跨ってやって来た。
「ダリウス。驚かせてくれるな」
「驚いているのは私です。言っておきますが私はまだ――」
「その先は言うな。男としての矜持もあるだろう」
「いえ。身の潔白を証明する為であれば童貞であることを公言しても構いません」
「言うなって!言ってくれるなって!こっちが居た堪れなくなる」
王太子は確認する術もないがダリウスが身綺麗であることは間違いないと確信していた。
先々代のエストス侯爵は厳しい人なんて言葉では生ぬるい人で、歩く戒律と言われた男。そんな祖父に育てられて妻以外の女性と関係を持つなんて考えられなかった。
表情を失うほどの教育を受けている上にエストス侯爵家の血筋はもうダリウスとダリウスの祖母しかいない。簡単に女性に流されるような男であれば家督は継いでいないだろうし、不本意な美人局であったり薬で惑わされていても関係を持った女性がいればたとえ相手が娼婦でもダリウスは責任を取って妻に迎え入れるはず。
妻を迎え入れていない事がダリウスがまだ汚されていない事の証明でもある。
「だが相手は妊娠していると言っている。産ませて托卵で釣り上げるか?」
「いえ。腹に子がいるのであれば子供には罪はありませんので孤児院の手配をします。しかし…産むまで生かしますが――」
「あぁ判った。判った。ブーレは潰せって事だな」
「面倒をお掛けしますが手続きだけお願いします」
「任せておけ。だが…言っただろう?何時までも独り身でいるから目を付けられるんだ。お前のような男は惚れた女が出来れば間違いなく変わるタイプだ」
「変わるとは?どのように?」
「そうだなぁ…その女の前だけ甘えん坊になったり…愛称呼びをして欲しくて先走ったり…姿が見えないと気が狂ったように探したりしそうな気がするぞ」
ダリウスの後ろに控えているデリックの肩は王太子の言葉の度に跳ねる。
しかしダリウスの返事は…。
「そんな事はないと思いますが」
デリックは心で叫んだ。
――旦那様!自覚無し!――
王太子はデリックの動きを見逃さない。
ダリウスと短い会話を交わし、城に戻る前デリックの肩を優しく叩いた。
「お前も大変だな」
「い、いえ…」
「で?相手は誰だ?」
デリックはダリウスの手前、指差しして教える事は出来ないので工房にしている部屋の中で何やら作業をするアリアを目で示した。
「へぇ…あの子かぁ。尻に敷かれそうだな?」
「はぃ…もぅ敷かれてまして」
「ふはっ!!そうか?そうだったのか?!今夜はワインが美味い気がするよ」
「殿下、何を仰ってるんです?」
突然噴き出した王太子。ダリウスはデリックをギロっと睨んだ。
王太子夫妻と面会をする予定は午後からになっている。時間はまだ朝の10時前なので今から登城をしても約束の時間まで控室にも通してくれないので馬車乗り場で待たねばならない。
「エレーナ。エレーナはいるか?」
「はい。朝食を終えてお部屋でお寛ぎ中で御座います」
「呼んできてくれ」
「畏まりました」
従者がエレーナを呼ぶためにエレーナの部屋に向かうとブーレ伯爵は王太子夫妻から問われるであろう事項をエレーナに聞くため、箇条書きに書き留めた。
書き留めるペンが止まった。
「おかしいぞ。4カ月前なら…フッタの愚息と結婚だなんだと言っていた頃じゃないか?」
浮かんだ小さな疑問。顔をあげて従者を見ると従者は首を傾げながらブーレ伯爵に言った。
「旦那様。妊娠の月数と暦の月数は違います。妊娠は28日周期などで考えるので少しずれますよ?それに確実に妊娠をしていなと思われる月のものが終わった日からの数えになるので」
「そうなのか。ふむ…なら3カ月…まぁいいか」
しかし待てど暮らせどエレーナはやってこない。
呼びに向かった従者だけがブーレ伯爵の元に戻ってきた。
「エレーナはどうした?」
「それがお嬢様は今朝から具合が悪いと。横になっていないと激しい腹痛がするそうです」
「なんだと?それはいかん!子が流れたら侯爵家との縁も流れてしまう。解った。安静にしているように伝えてくれ」
「畏まりました」
妊娠初期を大事にせねばならないのはブーレ伯爵も自分が父親になる時に産婆にきつく言われた。無理をさせてはならないと結局エレーナに出会いであったり、何処で会っていたのか、贈り物の有無などは聞けず終いとなった。
ブーレ伯爵の馬車が屋敷を出たのは昼食も終わってからだった。
城に到着をすると案内はされたが先客がいると言われ、控室で2時間も待たされる羽目になってしまった。
☆~☆
ブーレ伯爵が城の門を潜る少し前、エストス侯爵家の使者がダリウスから「ブーレ伯爵の書簡について」と急ぎ認めた手紙を持参して門を潜っていた。
手紙を受け取った王太子は目をぱちくりとさせたが、事情が解ると大笑いし従者に「ブーレを待たせておけ」と言い残して厩舎に向かい、エストス侯爵家まで馬に跨ってやって来た。
「ダリウス。驚かせてくれるな」
「驚いているのは私です。言っておきますが私はまだ――」
「その先は言うな。男としての矜持もあるだろう」
「いえ。身の潔白を証明する為であれば童貞であることを公言しても構いません」
「言うなって!言ってくれるなって!こっちが居た堪れなくなる」
王太子は確認する術もないがダリウスが身綺麗であることは間違いないと確信していた。
先々代のエストス侯爵は厳しい人なんて言葉では生ぬるい人で、歩く戒律と言われた男。そんな祖父に育てられて妻以外の女性と関係を持つなんて考えられなかった。
表情を失うほどの教育を受けている上にエストス侯爵家の血筋はもうダリウスとダリウスの祖母しかいない。簡単に女性に流されるような男であれば家督は継いでいないだろうし、不本意な美人局であったり薬で惑わされていても関係を持った女性がいればたとえ相手が娼婦でもダリウスは責任を取って妻に迎え入れるはず。
妻を迎え入れていない事がダリウスがまだ汚されていない事の証明でもある。
「だが相手は妊娠していると言っている。産ませて托卵で釣り上げるか?」
「いえ。腹に子がいるのであれば子供には罪はありませんので孤児院の手配をします。しかし…産むまで生かしますが――」
「あぁ判った。判った。ブーレは潰せって事だな」
「面倒をお掛けしますが手続きだけお願いします」
「任せておけ。だが…言っただろう?何時までも独り身でいるから目を付けられるんだ。お前のような男は惚れた女が出来れば間違いなく変わるタイプだ」
「変わるとは?どのように?」
「そうだなぁ…その女の前だけ甘えん坊になったり…愛称呼びをして欲しくて先走ったり…姿が見えないと気が狂ったように探したりしそうな気がするぞ」
ダリウスの後ろに控えているデリックの肩は王太子の言葉の度に跳ねる。
しかしダリウスの返事は…。
「そんな事はないと思いますが」
デリックは心で叫んだ。
――旦那様!自覚無し!――
王太子はデリックの動きを見逃さない。
ダリウスと短い会話を交わし、城に戻る前デリックの肩を優しく叩いた。
「お前も大変だな」
「い、いえ…」
「で?相手は誰だ?」
デリックはダリウスの手前、指差しして教える事は出来ないので工房にしている部屋の中で何やら作業をするアリアを目で示した。
「へぇ…あの子かぁ。尻に敷かれそうだな?」
「はぃ…もぅ敷かれてまして」
「ふはっ!!そうか?そうだったのか?!今夜はワインが美味い気がするよ」
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