王子殿下はブリュレが好きらしい

cyaru

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VOL:2 喧嘩、そして謝罪

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頼りになるのは夫のセルジオなのだが、王宮の庶務課に勤めるためか繁忙期のようで帰宅をするのは午前様。決して酔っ払っている訳ではなく、シラフで帰宅をする。

セルジオ曰く、「夜食が出るから」「深夜になる時は湯殿も貸して貰える」と家計からの出費を少なくし、残業代で稼いでいる面もあるんだとリシェルに告げる。




いつものように深夜1時になろうかと言う頃、セルジオが帰宅した。
今日も深夜残業だったからと部署にある湯殿で湯は浴びているし、食事も済ませたと言う。そのまま寝室に入り、寝間着に着替えようとするセルジオにリシェルは声を掛けた。

「ねぇ。お父様とお母様は何時までここにいるの?」
「さぁなぁ。兄上が怒りを忘れた頃に帰るんじゃないか?」
「暢気な事を言わないで。まだ判らないって事なら…せめて食費は入れてくれるように話をしてくれないかしら。あと、ツケで色々と買ってるらしくて私に請求が来るのよ」


姑アメリーの買い物好きはセルジオも知る所なのか「ツケ」の言葉に動きを止めた。
が、直ぐにまた上着を脱ぎ始めた。


「ツケ?その程度の物なら立て替えておけばいいだろう?」
「その程度って!昨日は1万、今日も3万って…家賃が払えなくなるわ」


金の事で、しかも自分たち夫婦の出費でもない金、そんな事で言い合いはしたくないが、アメリーの「つけ払い」は度を越している面があった。

リシェルは、自分もセルジオもアメリーのツケを払うために働いているのでも、貯蓄をしているのでもない。セルジオにも意識を共有して欲しかった。

しかし、セルジオの反応はリシェルの思うものとは違った。


「あのな?俺、残業で疲れてるんだぜ?昨日もおとといも。帰って来る度に親の悪口言われる俺の身にもなってくれよ」
「悪口って…言われているのは私の方よ?お義母様になんて言われてい――」
「あぁ、もう判った判った。金だろ?昨日と今日で4万だっけ?面倒だから…はい。これでチャラな」


セルジオが財布から無造作に掴んだ金は10万。
リシェルを黙らせるためなのか。その金を床に投げつけた。


「セルジオ…酷いわ」
「なんだよ、くそっ!金を出しても出さなくても酷いってなんなんだよ!結局文句が言いたいだけなんだろう?拾えよ…ほらっ!拾え!」


リシェルはそのまま散らばった金は拾わずに寝室を出た。
食卓にある2脚の椅子の片方、アメリーが使っている椅子に腰を下ろし内職の繕い物を始めた。

リシェルはミケネ侯爵家で侍女をしている。結婚した当初は夜勤もシフトに入っていたのだが、セルジオの両親が転がり込んできてからは「朝食がない」という理由で夜勤のシフトを断らざるを得なくなった。

朝食の問題はそこで片付いたのだが、別で問題が出た。リシェルの給金の額である。
夜勤のシフトを外れるとどうしても手取りは少なくなってしまう。

将来の事を考えての経済的な計画が同居で狂ってしまった。

この所、こうやってセルジオと義両親の事で言い合いになってしまう事が増えた。
毎晩残業をしているのに、セルジオが家に入れてくれる金の額は変わらない。

糸を付けた針を布に刺すたびに「どうして私だけ」とそんな考えが頭をよぎる。

――セルジオの両親の為に夜勤の分をこうやって賄っているのに――


リシェルの心の中に【離縁】と言う文字も浮かんでは消える。
セルジオの事は愛しているし、生涯を共にしたいと教会でも誓い合った。

セルジオとリシェルの「結婚」は結婚であって結婚ではない。なので「離縁」も本来は発生しない。

シュトーレン王国の貴族は特殊なのである。

セルジオは子爵家子息、リシェルは男爵家の令嬢。共に貴族だが家督を継ぐわけではない。
家督を継がないものは籍は実家にあるままで扱いは平民と同じなので結婚をしてもそれは【事実婚】とみなされる。

違うのはそんな2人でも子供が出来れば、その子供は将来家督を継ぐ権利が回って来る可能性があるため、子供が生まれれば、その子供が貴族院に双方の家に関係をする者だとして夫婦の届けを出す。

シュトーレン王国は子供が10歳になるまでの生存率はほぼ50%。
家督を継いだ者に子供が出来ても10歳まで育つ確率は50%。家名を存続させるために万が一の時は兄弟姉妹の子供がその後を継ぐ。兄(姉)から弟(妹)で家督の譲り渡しをしないのは過去に血で血を洗う争いが絶えなかったため。

一旦兄弟姉妹の誰かが家を継げば、次に家督を継ぐ権利を持つのはそれぞれの子供になる。

セルジオとリシェルは子供が生まれるまでは「事実婚」であり法的な制約は何もない。だが子供が生まれれば「親」として「夫婦」である事を貴族院が認める。


そんな理由もあり、別れた所で今の状況では慰謝料も発生しない。
ある日突然いなくなっても子供がいなければ「夫婦」としては中途半端な関係。

この家を借りる時、2人は決め事をした。
「もう一緒に居られない」と決めた時は家の鍵を置いて出ていく。「そんな日は来ない」と笑い合ったのだがリシェルは鍵を入れているカバンに視線を移した。

――もう別れようかな――

何度同じ事を考えただろうか。リシェルは溜息を吐いて糸を玉止めした。
見計らうようにリシェルの元にセルジオが神妙な顔をしてやってきた。


「ごめん。疲れてて…そんなのは言い訳にもならないな。酷いことを言ってしまった。俺が悪かった。リシェ…許してくれる?」

仔犬のようにしょぼくれ、泣きそうな顔でセルジオは椅子に腰かけるリシェルの前に跪いて詫びた。


「これで…足りるか?」

さっき床に投げた金を2つ折りにしてセルジオがテーブルの上に置いた。

「お小遣い、無くなっちゃったんじゃないの?」
「大丈夫だ。どうせ残業ばかりで使わないんだ」
「そう。なんとかこれで払ってくるわ。でもちゃんと言ってくれないと‥私じゃ角が立つでしょう?」
「そうだな。俺の親なんだし俺がビシッと言うのが筋ってものだよな。苦労ばかり掛けて本当にごめんな」


強い言葉で詰ってもセルジオは時間を置いていつもリシェルに謝罪をしてくる。
その度に、リシェルは別れることを考えながらも許してしまう。

また、同じ事の繰り返しになるんだろうなと心の大半で思いながら、ほんの少しだけ「これからは変わるかも知れない」という期待を抱いてしまうのだった。
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