王子殿下はブリュレが好きらしい

VOL：３ 義兄から知らされる事実

同じ事の繰り返しで時だけが過ぎていく。

結婚した時、２年目には子供を本気で考えようと決めていた２人だが、義両親とは壁一枚を隔てた小さな部屋。とても子作りに励める状況ではなかった。

相変わらず家賃も食費も入れてはくれず、セルジオに「ツケ払い」を注意されたであろうに一向に改めようとしないアメリー。ついには少額であるものの競馬に通いだしたゴメスまでがリシェルに小遣いを要求するようになった。

断った日、アメリーとゴメスは部屋にあったものを勝手に質入れし金に換えた。
セルジオと結婚した祝いにと同僚たちが金を出し合い、足らない分をミケネ侯爵夫妻が足して買ってくれた特注の宝石箱は置いていた場所に日焼けを残すのみとなって姿を消した。

苦情を言えば『親を贅沢させるのは子の役目』と取り付く島もない。
義両親には部屋にある物は自分たちのものと言う考えしかなかった。


本来、家督を継ぐ者が両親の面倒をみる。それが慣習のようなもの。
リシェルは同居も２年という期間になった事もあるし、リシェルもセルジオも年齢は２５歳。

シュトーレン王国で２５歳と言えばもう子供が２，３人いる家庭がほとんどで医療もまだ「祈祷」に頼る者が多いため３０歳前後の出産は危険だとも言われていた。

出産のタイムリミットも迫る中、リシェルはセルジオに「私物の勝手な持ち出しを止めるよう」「両親をヨハネスの元に返すように」と話をする事も多くなった。

セルジオは「判った」と言いながらも一向に同居を解消しようとはしてくれない。
相変わらず残業で深夜の帰宅も続き、リシェルは１人追い詰められている心境だった。


そして、２カ月前には「このままなら耐えられないから」と別れも匂わせてセルジオに同居についての話をした。流石に「別れ」をリシェルが口にした事でセルジオは驚き、「兄上に強く言ってみる」と返事を返した。


が…一向に進展がない。


そんなある日のこと、ミケネ侯爵家でセルジオの兄、ヨハネスに話しかける機会が訪れた。

ヨハネスは家督はまだ譲られていないもののボスク子爵家の実質的経営は全てを行っていて、そのうちの１つがミケネ侯爵家と関係をしており、訪れていたのだ。


リシェル自身、流石に２か月も返事を待たせるのはどうかとヨハネスを軽蔑すらしていた。
話しかけたは良いもののヨハネスはリシェルの問いに大いに驚いた顔をした。


『父さんと母さんを僕が？そんな話は聞いていない。そもそもで父さんと母さんはセルジオが面倒をみるからと毎月生活費も渡しているんだよ？』

『生活費？それって…セルジオに？』

『あぁ、毎月月初めにセルジオが直接屋敷に取りに来るから渡しているよ。今月も３０万ちゃんと渡したよ』

『さ、３０万？！そんなお金…』


セルジオの諸々差し引かれる前の支給額ですら２１万。リシェルの侯爵家で侍女としての給金でも２５万。それ以上の金額をセルジオが毎月受け取っていた事に今度はリシェルが驚いた。

セルジオは「小遣いの５万は抜いておいた」と手取り１８万から小遣いを引いた残り１３万をリシェルに渡してくれてはいたが、ヨハネスから受け取っている金については聞いた事も無かった。

何より「親の面倒をみるから」と兄弟だけで話が出来ていた事も知らなかった。

更にヨハネスはリシェルを諫めるような言葉を掛けた。


『両親がいる手前仕方がないとは思うけれど、度々時間宿で夫婦の時間を持つのもどうかと思うよ？１回の利用で１万はするだろう？何時までも両親が生きている訳じゃないし、僕だって事業が躓けば渡す金も減額する事もあるかも知れない。勿論話し合いはするけれどそれでも今のような金の使い方は夫婦で改めた方が良い』


ヨハネスの言葉はリシェルに全く身に覚えのない事で、同時にセルジオの不貞を示唆するもの。ヨハネスの言葉には嘘が無かった。ヨハネスは知る限りの「事実」をリシェルに告げた。

如何わしい時間宿をセルジオが使っているのは間違いない。
ただ相手は誰かとなれば不貞行為は王宮職員でもあるセルジオには禁忌。見つかれば一発で懲戒解雇となってしまうため、ヨハネスは相手をリシェルだと思い込んでいるだけ。


リシェルは不貞行為もだが、義両親の生活費をセルジオが受け取っていた事にもショックを受けた。