嘘つきのままで結構です

cyaru

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第04話  エメリーの力

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ガタガタと馬車に揺られながらエメリーは呟いた。

「こんな力なんか要らなかったのに」

カイルとの婚約の原因となったのはエメリーの持つ稀有な力が原因だった。
婚約をしている間、幼い頃は「ほら、出せ!」と強要してくる大人が怖くて出せなかった。

成長するに従い、人知れず短い時間だけ毎日鍛錬を続けたおかげで現在は、全力解放をすれば広い王都でも2、3区画から病人、ケガ人がいなくなるくらいの魔力を発揮できるまでになっていた。


「これもお兄様が毎日コツコツ15分作戦のおかげね」


エメリーが身に付けたのは「放出」する事だけではなく教会の判定でも感知出来ないくらいに「隠蔽」する術も加わる。どちらかと言えば「どうやって出せばいいんだろう」と自身の魔力を外向きに出す事が出来なかった期間が長かったので宝物を隠すように奥へ奥へとしまい込むほうが簡単だった。

「さてぇ。ど・こ・に・行・こ・う・かな~」

馬車に揺られて取り敢えずは領地に向かう。
領地に到着する頃には、エメリーをロッカス伯爵家とは無縁の者と除籍する手続きも終わっているはずなので身分としては平民となる。

両親が用意してくれたのは2つの国。ジギリス王国とハイデン王国だ。
街中ではなく、街から少し外れたところにこじんまりとした家を買ってくれた。

2軒も家を買うとなればさぞかし大金持ちと思われそうだが、そうでもない。
ベッドタウンでもなく寂れてしまった街の外れとなれば家を売りに出しても買い手はいない。
築年数もあって叩き売りの価格で買った家だ。



貴族が住んでいるとは到底思えない家。
エメリーはまだ家の外観を描いた絵しか見たことはないけれど、領地まで片道2か月の旅だ。
ゆっくり考える事にしようと狭い庫内で体を横にした。



★~★

エメリーは5歳を過ぎても魔法は使えなかった。

エメリーは魔力無しと教会で判定をされて心無い者からは「出来損ない」と呼ばれていたが、ロッカス伯爵夫妻とエメリーの兄もそんなに大きな魔力がある訳でもない。

家族で一番大きな魔力が使えるのはエメリーの兄だったけれど、竈に火打石ほどの火花を飛ばすのが精一杯で自身も熱を出して1か月は寝込んでしまう。

だから教会でエメリーが魔力無しと判定されても家族の関係は何も変わらなかった。

昔は魔力のない貴族は爪弾きされたものだが、今では魔力がある方が珍しく魔力があると解ると教会か王家に囲い込まれてしまう。

エメリーの兄は「ないとは言えない」程度だが珍しい事でもなく囲い込まれるには明らかに魔力不足。それでいいんだとロッカス伯爵夫妻は兄妹を大事に育ててきた。

兄が爵位を継いで、妹が他家に嫁いでも兄妹であることは変わらない。
兄妹が協力し合って生きて行けるように分け隔てなく、領地に行く時も2人を連れて行ったし、男女の性差も関係なくマナーや所作、剣術など年齢に応じた家庭教師も付けてきた。

エメリーも5歳になれば長旅ももう大丈夫だろうと一家は領地に向かったその帰り道で立ち寄った宿場町での出来事が発端となった。

ロッカス伯爵一家が到着をした時、宿場町は大騒ぎになっていた。

カニバリーベアーと呼ばれる人を食らう魔獣の大熊が群れで宿場町を襲い、死傷者が多く出ていたのである。


カニバリーベアーの一群が去った後、右往左往する住民に対し買い付けられる医療品などを近場の宿場町から調達しようとしていた時だった。

両親が気忙しく物資の調達を指示していた時、暇を持て余したエメリーは「ここにいなさい」と言われた場所から離れてしまった。


エメリーが足を向けた先は生き残った者たちが、せめてもの弔いと命を落とした者達を清拭していた場だった。
綺麗に拭かれた顔だけが見えて、顔以外は布で覆われた少年兵士の亡骸があった。

父方も母方も祖父母は物心つく前に亡くなっていて葬儀も経験をした事がなかったエメリーは死人を見たことがなかった。

四肢を失い、腹に風穴が開いて既に息を引き取った少年兵は、血の気が失せて真っ白な顔。

年の頃は兄と左程に違わないからだろうか。成人した男性であればエメリーも怖いと恐怖が先に立ったかも知れないがあまりにも無防備に、まるで風邪を引いて寝込んだ時の兄のようにエメリーの目には少年兵が映った。

周囲からは「もうちょっとだから頑張って」「大丈夫よ」傷ついた者を懸命に励ます声が聞こえてくる。エメリーは息を引き取った兵士の頬に手を当てて、具合が悪い時に母がしてくれるように真似てみた。

「大丈夫。直ぐに治るわ。いいこね。いいこ。愛しい子」

大人の真似事ではあったけれど、エメリーの気持ちは決して遊び心ではなく本気だったからか。一瞬にして周囲は眩しい光に覆われた。

光が消えた時、その場にいた者は自身の身に起きた事が信じられなかった。

既に息絶えたはず、四肢を失ったはず、傷だらけだったはずなのに何事も無かったかのように体には傷もない。それだけではなかった。

加齢で腰の曲がった者は若かった頃のように真っすぐ立ち上がる事が出来たし、古傷のしくしくした痛みに悩まされていた者からも痛みが消え、救助活動で疲弊しているはずなのに疲れすら感じなくなっていた。

「奇跡だ…聖女様の奇跡だ」

誰が最初に言い始めたのか。

エメリー自身も頬に小さな手を当てた兵士に「ありがとう」と抱きしめられていた。

「お兄ちゃん。ねんね、もういいの?」

「うんっ…ありがとっ…ありがっ…」

「お兄ちゃん、苦しいよ」

「うん。うん」

神に召されたはずの少年兵は傷一つない体で生き返り、エメリーを抱きしめて泣いていた。



その話は瞬く間に王都にも知らされ、領地から戻った時、正門の前は人で溢れていた。死人ですら蘇らせる稀有な力を持つエメリーを一目見ようと屋敷には大勢の人が押しかけて来た。

ロッカス伯爵が領地から戻ったと知った貴族たちも我先にと押し寄せて来る。
遠い縁戚からエメリーの年齢に合う子息をわざわざ養子に迎え、嫁いで来てほしいと釣書を持ってやって来るのだ。


しかし、エメリーはその力をもう一度披露することは出来なかった。

幼いエメリーは知らない大人に囲まれてしまう事に戸惑って両親の脚の後ろに身を隠し、感じるのは恐怖だけ。

「あの力を見せて」と言われても、呪文を唱えた訳でも無いし、治ればイイナとは思ったけれど少年兵が死人だとも思ってもいなくて。

何よりあの時どうして光に包まれたのか。エメリー自身が全く解っていなかったのである。
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