嘘つきのままで結構です

cyaru

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第12話  宿屋の食事

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翌朝。

行商の女性たちはもう出立したようでエメリーが起きた時にはもう部屋には誰もいなかった。
盗まれた物も何もなくて、荷物は全部揃っている。

時計を見れば午前7時。御者と朝食をする時間なので着替えて食堂に行くと御者が席を取ってくれているようで手を振っていた。

「凄いわね。朝からこんなに沢山」

「食べないと体が持ちませんからね」

「これだけ食べたらお昼は食べられそうにないわ」

王都の屋敷で食べていたような食事からすればランクが落ちるのは仕方のない事だが、質を量でカバーしたような食事の量に食べる前から胃袋が悲鳴をあげそうな朝食が目の前にあった。

「パン…1つでいいからあげるわ」

「すみません。お嬢様。私も朝からパンをこれだけ食べるのは無理です」

1人に割り当てられたパンの数は5個。成人男性の握りこぶし大のパンは1つでも食べ応え十分だ。

「このパン…ミルクを使ってないですね。水で練ってるから数日は日持ちします。カバンに入れておきましょうか」

「そうね。そうしましょう」

旅はその時に食料が現地調達できる訳ではない。荷物のほとんどは保存の効く食料である。
それでも道中で雨に降られて道沿いで雨宿りをする事になれば食料を予定通りに食べると足らなくなることもある。

固くなったパンでもご馳走には違いがなく、エメリーと御者は食べきれないパンは部屋に持ち帰ってカバンに入れる事にした。

食事を終えて宿に併設されている日用品などの売り場で必要な物を選んでいると後ろから肩を叩かれた。


「おはようございます。早いですね」

「あなたは…昨日の?えぇーっと‥」

「クレインです。覚え方は…隣国で鶴って言うんです。鶴、知ってますか?白と黒でヒナの時はグレーなんで醜いアヒルの子ってお伽噺なんかもあるんです」

「え、えぇ…存じておりますわ。それで…何か御用ですの?」

「はい。実はですね、お嬢――」

「お嬢様!!」

クレインの言葉に御者が言葉をかぶせて来て遮った。
エメリーは御者に手を引かれてクレインから距離が出来た。

「あんたね。いい加減にしないと宿に苦情を入れるよ?昨日と言い、今日と言い。護衛は要らないと言っただろう」

「いや、俺は――」

「悪いんだが、他を当たってくれ。いいな?最終通告だ!」

「あのっ!」

「諄い!」

御者に一喝されてクレインは怯んだ。
エメリーは御者に「悪い人には見えないけど」と声を掛けようとしたが言えなかった。



そして夕方になると小ぶりな馬車が宿屋の馬車止まりに停車した。
乗っていたのは身なりの良い商人でエメリーが乗ってきた馬車で王都に向かうようだった。

簡単な清掃がされた後、御者がエメリーの荷物を先に屋根に乗せ紐で縛っていく。
この先は森を抜けねばならず夜に出発をするのは危険なので早朝に出発をする予定だったが、御者が最後の荷物を屋根の上に載せている時、エメリーは周囲を見回した。

「あれ?」

馬車に荷物を載せる様子を少し離れた場所で見ているのはクレインで、エメリーは昨日、今日のクレインの様子に何か言いたい事があるんじゃないかと考えた。

が、声を掛けるのは躊躇われる。
今、エメリーがここにいる事を知っているのはロッカス伯爵家の者だけ。

魔鳩で教会に書類を飛ばしたのだから、王家も公爵家もエメリーが魔法を使える事にはもう気が付いているはずで見つかれば今までのように制約がありながらも街に出掛けられるような生活は送れない。

ふと、クレインと目が合ったような気がしたが馬車の屋根から降りてきた御者に「部屋に戻りましょう」と声を掛けられ、部屋に戻るしかなかった。

「今日の夕食は部屋で取りましょう。馬車に荷物を載せた様子を何人も見ていますのでまた護衛をするだのと付き纏われては困りますから」

「解りました。では明日は何時に?」

「夜明けが6時半頃だそうですので6時前には出立したいですね」

「では5時半に馬車止まりに行きますわ」

「承知いたしました。では明朝」

御者は会話を聞かれていないか周囲を伺い、エメリーを部屋に送る。
2日目も行商人と思われる女性と同室になったが、女性は背負っていた荷物を下ろすとエメリーをちらりと見ただけで入浴に行き、戻って来ても話しかけることなく寝てしまった。

――話しかけられなくて良かった――

そう思ったが、エメリーは寝られなかった。
女性の鼾は窓ガラスが震えるほどの大きなもので、この状態で寝られるほどエメリーの神経は図太くなかったからである。
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