27 / 29
第27話 一世一代の大見栄
しおりを挟む
魔導師とは国に仕える者。
エメリーを迎えに来た魔導師によってエメリーの王都帰還を知らされた国王は執務も放り投げてロッカス伯爵家にやってきた。
未だに民衆に対しては何の対応策も打ち出さず、自身の身が大事と使用人たちも帰宅を差し止めて絶対安全圏に身を置く国王にエメリーは心底がっかりした。
しかも言うに事欠いて…。
「城の回りだけでいい。結界を張れないか?昔大聖女が国を覆った結界ようなものだ。そこまで大きくなくていい。城を中心に堀まででいいんだ」
「お断り致します」
「何故だ?国王である私がここまで頭を下げているんだぞ」
――実際は頭下げてないよね、ワードだけだもの――
国王もエメリーには強く出る事が出来ない。臍を曲げて「やりません」と突っぱねられてしまったら出来るのはエメリーしかいないのだから機嫌を取るしかない。
代わりが幾らでもいて、単にその中でエメリーの魔力が大きくて強いのであれば両親や兄を人質にして従わせることも出来るが、唯一となればその手も使えなかった。
そんなアドバンテージもあるからか。
今までなら言ったこともないような言葉が言える気がした。
――うん。大丈夫。みんなで大芝居打ったんだもの。大見栄だって切れるわ――
この期に及んで自己保身しかしない国王に威厳も何も感じない。
エメリーはキっと国王を睨んで前を向いた。
「頼む、褒美に欲しいものは何でもくれてやる。やってくれぬか」
「では先に褒美を頂けますか?」
「おぉ。おぉ。やってくれるか、何が欲しい?ドレスか?宝石か?」
心底どうでもいいと思ったエメリーは思うままに欲しいものを述べた。
「最初にお願いします。退位して蟄居してください」
「は?」
「聞こえませんでしたか?退位して蟄居してくださいと言ったんです。それを確認したら結界でも何でも張りますよ」
何でもと言いながら退位なんてきっと出来ないだろう。
ならこちらも結界なんて張れないけれど出来ない事を言うまでだ。
国王は顔が怒りでカっと赤くなり、つい手を振り上げてしまったが、同時に首筋に冷たい感触を感じた。
「あ‥ぅぅ…」
「貴様、その手はなんだ?そこからどうするつもりだ」
赤い瞳になったクレインが国王の首筋に剣の刃をあてていた。本気で殺る気なのでそのまま引いても押しても首にはさっくりと切れ目が入るだろう。
「さ、最近…逆五十肩で腕がと、と、突然振りあがって…しまうんだ」
「逆五十肩?聞いたことがないな」
ある訳がない。国王が咄嗟に考えた言い訳だ。
「どうするんだ?国王辞めるのか?人生辞めるのか?」
――クレインさん!それどっちもやめるになってる――
国王を護衛していた騎士たちも動けない。1歩動けばクレインは容赦なく剣を引くか押すか。
クレインが纏うオーラは赤で燃えるような温度に見えるのにクレインが発しているのは噴火して流れ出る溶岩ですら凍り付くような殺気だった。
「陛下、今、守らねばならないのは国ですか?民ですか?」
「・・・・」
自分と答えようとしたが、首筋の剣がそれを発してはならないと言っている気がして国王は言葉を飲み込んだ。
「答えられないなんて話になりません」
呆れたエメリーが「ふぅ」小さく溜息を吐くと遅れてロッカス伯爵家に飛び込んできた男がいた。
「待ってくれ…待って…民だ!父上は退位させる。この病を事前に知っていて何の手も打たなかった責任を取らせる。毒杯で楽に逝かせたりはしない。約束する」
「まぁ、王太子殿下ではありませんか」
「緊急だ。挨拶など省略しよう。頼む。民を救ってくれ。その為なら…」
「欲しいものは何でもやる、なんて陛下と同じことを言わないでください。いい加減20年間この国の民であったことを悔いているんですから」
王太子はきょとんとしているがエメリーはもう出国して隣国に住んでいる。
仮住まいと言われればそれまでだが、ロッカス伯爵家からは籍も抜かれているので身分は平民。
平民には貴族のような戸籍はないので比較的自由に諸国を行き来できるし住まう事も出来る。ただ、金があれば。の話だが。
金がなければ移動する事も出来ないし、住まいを構える事も出来ない。仕事をしようにも宿無しなど誰も雇ってはくれないのだ。
旅人の護衛をしていた頃のクレインのように根無し草で動くしかない。
「教会に連絡をしてください。王都の各所にある教会の塔から魔力をだします。私の力はそんなに大きくはないんです。その場所、その場所を覆う力しかありませんし、陛下が仰っていたような結界ではありません。力を使う事で全快はするでしょうが、新たに病原菌が入ってくれば感染します。そうならないような施策を講じてください」
何度も呼ばれるのは勘弁してほしいからと付け加えそうになったがそこはエメリーも言葉を控えた。
「約束する。今すぐに実行をする」
「解りました。では私もすぐに取り掛かります」
手打ちになったのを確認してクレインは国王を解放し、背中をおして王太子の方に突き飛ばした。
不敬だと言われても構わない。
クレインの大事はエメリーだけで後の事は鼻をかんだ後の紙よりも価値がない。
「誰か、こいつを牢に。城の王妃の間にいる女も縛り上げて放り込んでおいてくれ」
王太子が兵士に命じると膝がガクガクになった国王を兵士が連行していった。
――肩じゃなくて膝にきてたのかしら――
国王がいなくなり王太子は肩で息をした。
そしてエメリーに「では頼む」と言いかけた時、また乱入者が飛び込んできた。
「エメリー!!」
エメリーの目が細くなる。ついでに王太子の目も細くなる。クレインだけがより強い殺気を放った。
飛び込んできたのはカイルだった。
エメリーを迎えに来た魔導師によってエメリーの王都帰還を知らされた国王は執務も放り投げてロッカス伯爵家にやってきた。
未だに民衆に対しては何の対応策も打ち出さず、自身の身が大事と使用人たちも帰宅を差し止めて絶対安全圏に身を置く国王にエメリーは心底がっかりした。
しかも言うに事欠いて…。
「城の回りだけでいい。結界を張れないか?昔大聖女が国を覆った結界ようなものだ。そこまで大きくなくていい。城を中心に堀まででいいんだ」
「お断り致します」
「何故だ?国王である私がここまで頭を下げているんだぞ」
――実際は頭下げてないよね、ワードだけだもの――
国王もエメリーには強く出る事が出来ない。臍を曲げて「やりません」と突っぱねられてしまったら出来るのはエメリーしかいないのだから機嫌を取るしかない。
代わりが幾らでもいて、単にその中でエメリーの魔力が大きくて強いのであれば両親や兄を人質にして従わせることも出来るが、唯一となればその手も使えなかった。
そんなアドバンテージもあるからか。
今までなら言ったこともないような言葉が言える気がした。
――うん。大丈夫。みんなで大芝居打ったんだもの。大見栄だって切れるわ――
この期に及んで自己保身しかしない国王に威厳も何も感じない。
エメリーはキっと国王を睨んで前を向いた。
「頼む、褒美に欲しいものは何でもくれてやる。やってくれぬか」
「では先に褒美を頂けますか?」
「おぉ。おぉ。やってくれるか、何が欲しい?ドレスか?宝石か?」
心底どうでもいいと思ったエメリーは思うままに欲しいものを述べた。
「最初にお願いします。退位して蟄居してください」
「は?」
「聞こえませんでしたか?退位して蟄居してくださいと言ったんです。それを確認したら結界でも何でも張りますよ」
何でもと言いながら退位なんてきっと出来ないだろう。
ならこちらも結界なんて張れないけれど出来ない事を言うまでだ。
国王は顔が怒りでカっと赤くなり、つい手を振り上げてしまったが、同時に首筋に冷たい感触を感じた。
「あ‥ぅぅ…」
「貴様、その手はなんだ?そこからどうするつもりだ」
赤い瞳になったクレインが国王の首筋に剣の刃をあてていた。本気で殺る気なのでそのまま引いても押しても首にはさっくりと切れ目が入るだろう。
「さ、最近…逆五十肩で腕がと、と、突然振りあがって…しまうんだ」
「逆五十肩?聞いたことがないな」
ある訳がない。国王が咄嗟に考えた言い訳だ。
「どうするんだ?国王辞めるのか?人生辞めるのか?」
――クレインさん!それどっちもやめるになってる――
国王を護衛していた騎士たちも動けない。1歩動けばクレインは容赦なく剣を引くか押すか。
クレインが纏うオーラは赤で燃えるような温度に見えるのにクレインが発しているのは噴火して流れ出る溶岩ですら凍り付くような殺気だった。
「陛下、今、守らねばならないのは国ですか?民ですか?」
「・・・・」
自分と答えようとしたが、首筋の剣がそれを発してはならないと言っている気がして国王は言葉を飲み込んだ。
「答えられないなんて話になりません」
呆れたエメリーが「ふぅ」小さく溜息を吐くと遅れてロッカス伯爵家に飛び込んできた男がいた。
「待ってくれ…待って…民だ!父上は退位させる。この病を事前に知っていて何の手も打たなかった責任を取らせる。毒杯で楽に逝かせたりはしない。約束する」
「まぁ、王太子殿下ではありませんか」
「緊急だ。挨拶など省略しよう。頼む。民を救ってくれ。その為なら…」
「欲しいものは何でもやる、なんて陛下と同じことを言わないでください。いい加減20年間この国の民であったことを悔いているんですから」
王太子はきょとんとしているがエメリーはもう出国して隣国に住んでいる。
仮住まいと言われればそれまでだが、ロッカス伯爵家からは籍も抜かれているので身分は平民。
平民には貴族のような戸籍はないので比較的自由に諸国を行き来できるし住まう事も出来る。ただ、金があれば。の話だが。
金がなければ移動する事も出来ないし、住まいを構える事も出来ない。仕事をしようにも宿無しなど誰も雇ってはくれないのだ。
旅人の護衛をしていた頃のクレインのように根無し草で動くしかない。
「教会に連絡をしてください。王都の各所にある教会の塔から魔力をだします。私の力はそんなに大きくはないんです。その場所、その場所を覆う力しかありませんし、陛下が仰っていたような結界ではありません。力を使う事で全快はするでしょうが、新たに病原菌が入ってくれば感染します。そうならないような施策を講じてください」
何度も呼ばれるのは勘弁してほしいからと付け加えそうになったがそこはエメリーも言葉を控えた。
「約束する。今すぐに実行をする」
「解りました。では私もすぐに取り掛かります」
手打ちになったのを確認してクレインは国王を解放し、背中をおして王太子の方に突き飛ばした。
不敬だと言われても構わない。
クレインの大事はエメリーだけで後の事は鼻をかんだ後の紙よりも価値がない。
「誰か、こいつを牢に。城の王妃の間にいる女も縛り上げて放り込んでおいてくれ」
王太子が兵士に命じると膝がガクガクになった国王を兵士が連行していった。
――肩じゃなくて膝にきてたのかしら――
国王がいなくなり王太子は肩で息をした。
そしてエメリーに「では頼む」と言いかけた時、また乱入者が飛び込んできた。
「エメリー!!」
エメリーの目が細くなる。ついでに王太子の目も細くなる。クレインだけがより強い殺気を放った。
飛び込んできたのはカイルだった。
1,773
あなたにおすすめの小説
もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?
柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」
「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」
新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。
わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。
こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。
イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。
ですが――。
やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。
「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」
わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。
…………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。
なにか、裏がありますね。
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ
柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」
「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」
濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。
やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる