エンディングノート

環流 虹向

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SUPERMARKET

おはかつ朝活

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「…おはよ。」

私は若干寝ぼけ眼で織華と待ち合わせした駅前に行き、挨拶を交わす。

今日のメイクは普段のパッキリメイクではなく、色付きリップと癖が着くまつげ美容液、まぶたにはシャドウとハイライトを軽く入れたシンプルメイク。

髪は巻くのがめんどくさかったからシニヨンにして、もう最高のズボラメイキングで服はモノクロにしてシンプルを推してる女子に見せかける。

織華「今日は手抜きなんだね。」

明人「起きたの15分前でこれでも頑張った方。」

織華「15分でこのクオリティならすごいかも。」

と、私のスピーディな身支度に関心してくれる織華は小学校の時に私をいじめから守り抜いてくれた親友。

そんな織華には大学1年からずっと付き合ってる彼氏がいて、そろそろ結婚も視野に入れてるとのこと。

そういう織華が羨ましいなとは思いつつも、そうやって一途に思ってくれる男性とは今まで出会ったことがないためまだ当分結婚は出来なさそう。

明人「ここから10分だっけ?」

織華「そうそう。えっと…、せいらん商店街って知ってる?」

明人「あー、分かる。あんな廃れた商店街にカフェ出す人いるんだ。」

織華「廃れてるんだ…。買い物とか出来るかなって思ったんだけど。」

明人「するなら2つ駅向こうの桜陽はるひ神社商店街かな。そっちと間違えてない?」

織華「あれ?そうなのかな?」

織華が自分の携帯で『MGR』というシンプルな名前のカフェをマップ検索してみると、それは確かに廃れたせいらん商店街にあった。

明人「そこでごはん食べてから向こう行こっか。ゆっくり歩いても20分ぐらいで桜陽神社商店街に着くからカフェ巡りにはちょうどいいね。」

織華「確かに。とりあえずMGRここ行こっか。」

明人「うん。」

私たちはマップアプリを頼りにそのカフェへ向かってみると、名前はとてもシンプルなのに外装はパステルカラーでいろんな色の馬のひづめが真っ白な壁にスタンプされてあって、なんだか可愛いらしいミニ遊園地のようだった。

その可愛さに目を輝かせる私たちはメルヘンなカフェに入り、こんなカフェによくいそうなふわふわの女性店員さんに角席に案内された。

そこはちょうどお店全体が見える場所で外を映すガラス窓から遠く離れていて、あまり人目が気にならない席で初めて来たお店だけどとても落ち着く。

織華「ここのオーナーさん、馬が好きなのかな?いろんなとこに可愛い馬のおもちゃが飾ってある。」

明人「そうだね。このコースターにはメリーゴーランド描かれてるし。」

私は紙のコースターに描かれたメリーゴーランドのイラストが可愛くて置かれたままそれを眺めていると、トレイを持ってやってきた店員さんがテーブルにそっとおしぼり2つと私が見ていたコースター横に水を置き、店の内装を見ていた織華のコースターには容赦なく水を置いた。

私はその不思議な行動をする人の顔を見て、自分だけ時間が止まる。

「おはようございます。MGRメリーゴーランドにようこそ。ご注文がお決まりになったらお呼びください。」

織華「ありがとうございまーす。」

私は目の前にいる店員さんに驚いたまま、その店員さんと会釈をし合って織華が開いていたメニュー表に目を落とす。

織華「3種類もモーニングセットあるみたい。何にする?」

明人「え、えっと…。Mセットのベーコンレタスにしよっかな。」

織華「…ん?どうした?」

と、私の動揺にさすが親友の織華は気づいた。

明人「さっきの店員さん、私の家の近くにあるスーパーで警備員さんしてる人だったからびっくりして…。」

織華「ここら辺で仕事掛け持ちしてるのかもね。にしても背高かったね。明人より高い?」

明人「うん。ヒール履いても届いてない。」

織華「へー!じゃあ180以上か!恵まれてるなぁ。」

そんなことより私はこんなズボラでオアシスさんに会いたくなかった。

仕事終わりで少し崩れてるパッキリメイクの方がまだマシだよ…。

しかも今日の服、織華と遊ぶだけだったから適当に取った胸元ざっくりブラウスで今確認したらブラひも見えちゃってたよ…。

きつ…。
こんなので違う女の部分出したくなかった…。

織華「店員さん呼んで大丈夫…?」

と、私が今日のズボラコーデに落ち込んでいると織華が心配そうに声をかけてきた。

明人「大丈夫。早く頼まないと終わっちゃう。すみませーん、オーダーお願いします。」

私は声が通りにくい織華の代わりに店員のオアシスさんを呼んで、注文を通し終える。

その中でオアシスさんが付けてる名札をちゃっかり見ると、『環酉 信之』と書かれてあった。

そういえば、おじいちゃん警備員にノブユキと呼ばれていたなと思い出し、オアシスさんの名前をちゃんと知れた日になったので今日はお腹いっぱい胸いっぱい。

織華「なんか優しげな人だね。顔見知りって感じ?」

と、織華はすぐにやってきた私たちのホットティーを蒸らしているガラスポットを保温してくれている毛糸で編んだポットカバーを軽くずらし、茶葉が踊ってる様子を見ながら聞いてきた。

明人「そう…、なるのかな?ちょっと挨拶するくらい。」

織華「挨拶?」

明人「うん。仕事帰りに私がそのスーパーに寄って買い物を終えた後にたまたま会うと『お仕事お疲れ様です。おやすみなさい。』って言ってくれる。」

織華「知らない人にそれ言われるとびっくりするけど、嬉しいかも。」

明人「うん。疲れた私の前にたまに現れてくれるから勝手にオアシスさんって呼んでる。」

織華「…き?」

明人「そこまでじゃない。」

織華は私が惚れにくい性格になったと思っているから男の話題が出ると、とりあえずそう聞いてくるのが癖になっていた。

けど、そんなすぐに好きになれたら今私は成くんと付き合ってんだろうなぁと、ぼんやり考えているとそれも織華に見抜かれゲロる事になってしまった。


…………
オアシスさんのエプロン姿、可愛かわよい。
織華の観察眼、私にもください(。ᵕᴗᵕ。)
…………


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