エンディングノート

環流 虹向

文字の大きさ
上 下
85 / 97
Re:FRAIL

ぞろぞろ祭市

しおりを挟む
すごいな…。

あんなにいつも廃れてて、人通りがあまりないのにこのお祭りの日は車道を歩行者天国にするほど賑わっている。

私はお駄賃代わりのピカイチサンドを食べて戦いに備えていると、雨瑞くんと交代で休憩しに来た信之が私の隣に座った。

明人「すごいね。私、雨の日にしか来たことなかったからこんなに人多いの知らなかった。」

信之「明人はMGRができる前からいるんだもんね。その時は何か食べたりした?」

と、信之はフリマがメインなお祭りで、なぜか食優先の質問をしてきた。

そんな信之も好きで後で綺咲さんにオススメされた中身ぎっちりのシャーピン屋さんに連れて行くことに決めた。

明人「あの時は…」

私はふと気まぐれでついてきた元彼の莉音と一緒に水あめを食べたことを思い出し、少し顔が歪む。

信之「だいぶ前だった?」

明人「うん。だから何したか忘れちゃった。」

信之「そっか。じゃあ今日は思い出に残るといいね。」

明人「信之と一緒にいる日はずっと残ってるよ。」

私は仕事をしながらでも信之と一緒にいられることが嬉しくて、信之とのんびり喋っていると浦田さんにお菓子の梱包の続きをしろと怒られた。

仕方なくピカイチサンドと信之が美味しそうに食べる横顔を糧に遅れていた梱包を気合いで間に合わせると、浦田さんは満足そうにして外の露店に持っていき、雨瑞くんと綺咲さんと一緒に売り始めた。

信之「明人って細かい作業好き?」

と、信之は私の気合を物好きだと思ったのかそう聞いてきた。

明人「ううん。ピカイチサンドご馳走してもらってるからやることはやらないと。」

私がそう言うと信之は私の腰に手を置き、そっと抱き寄せた。

信之「無理しすぎずにね。明人は頑張り屋さんで自分の出来る範囲を超えちゃうから心配。」

明人「…ごめん。」

私は仕事を辞める前のことを思い出し、あの時癖になってしまった片手で胃を押さえる仕草をしてしまうと信之が心配そうな顔をしてしまう。

信之「自分のことは自分で大切にしないとね。…俺が言えたことじゃないけど。」

明人「ううん。信之は今、自分のこと大切にしてるじゃん。だから私もちゃんと考えて仕事選ぶね。」

信之「うん。明人に合う場所でいい人と過ごして。」

そう言って信之は私にキスをしてキッチンで焼いている焼き菓子の具合を見に行った。

信之はまだ私の仕事への向き合い方を心配してくれていたらしく、その思いに感謝しながら私は与えられた仕事を無理なくこなしてお祭りが終わる2時間前に綺咲さんに信之と一緒に上がらせてもらった。

明人「人いっぱい来てたね。」

信之「ここの焼き菓子と少し向こうにあるお肉屋さんのコロッケがノミ市祭りの名物なってるんだって。」

だからいつも以上に忙しかったのかと納得していると信之は家に帰る方向に足を進めてしまう。

明人「…あ、あっちに信之と一緒に食べたいのある。」

信之「そうなの?俺、明人と一緒にコロッケ食べようと思ってたけど。」

明人「じゃあコロッケ行ってから行こ。人気なんでしょ?」

私は一直線で帰ろうとしていたのかと思っていた焦りを地面に捨てて、信之と一緒に大人気コロッケがあるお肉屋さんに向かう。

信之「食べたいのあったら言って。今日は家に帰ったら何もせずにゆっくりしよ。」

明人「分かった。帰りにちょっと外れたとこにあるベビーカステラ買って家で食べよ?」

信之「うん。明日は午後からだから映画観よっか。」

私は今日ちょっと乗り気な信之にまたきを感じ、手を繋ぎながらもう片方の手で信之の腕にしがみつく。

こんなに窮屈なお祭りはあんまり好きじゃないけど、信之とこんなにくっついててもいいなら終わるまでいたいなって思っちゃう。

そんな自分勝手な欲をちょっと出しつつ、信之と初めての冬のお祭りを楽しみ家に帰った。


…………
みんな1日お疲れさま。
裏方でしか働けない私だったけど、少しでも手伝わせてくれてありがとう。
…………


環流 虹向/エンディングノート
しおりを挟む

処理中です...