一なつの恋

環流 虹向

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俺は帰りの準備を始める夏の席の前に座り、話しかける。

もし、俺が思っている“夏”ではないのなら姐さんに近づいてほしくない。

一「姐さんとはどんな感じ?」

夏「えっ…。」

すごい戸惑っている顔をする夏。

その顔は今日俺と姐さんとあった事を教えてもらったからなのか?

夏は俺から目を逸らして頭の中で何か言い訳を考えるような時間を取ってくる。

夏「たまに連絡取るくらいだよ。」

一「そうなんだ。夏は姐さんのどういう所いいなって思ったの?」

俺が間髪入れずに質問すると夏の動きが止まり、気持ちが悪い沈黙が流れる。

しかも夏の顔がだんだんと暗くなっていって嫌悪感ダダ漏れな表情をしてきた。

なんなんだ?
俺、そんなに嫌なこと聞いてるか?

夏「一くんはお姉さんのなんなの?」

一「は?」

少しイラついた声で俺に質問を返してきた夏。

それに俺は腹が立ち、夏を睨み返す。

けれど、俺は何にもなれてない。
それを分かっててお前は聞いてんのか?

一「俺が聞いたこと答えてないじゃん。」

俺は夏への質問は答えたくなくて、自分の質問を流されないように引き戻した。

夏「…素直で優しくて寂しがり屋だけど、他人のことを大切に思える素敵な人だと思ってるよ。」

なんだよ。その答え。
俺が1年近く一緒にいても分からない寂しがり屋なんてこともお前は知ってるのかよ。

夏は俺を睨むのを止めて、姐さんのことを思っているのか優しい目をする。
その目を見て俺は夏の感情に確信を持った。

一「そう。好きなんだ。」

夏「いや…、そうじゃ…」

一「は?お前こそなんなの?姐さんで遊ぼうと思ってるならやめてほしい。」

夏「俺は遊びでお姉さんと連絡取ってるんじゃないよ。…ちゃんとした説明は出来ないけど、傷つけたりはしないよ。」

なんだよそれ。
連絡取るってのは思いを交わすための行為なんだ。

夏は多数いる女の処理をしてるだけなんだろうけど、俺は姐さんただ1人しかちゃんと好きになったことがないんだ。

だから姐さんが悲しくなるようなことは俺が止める。

一「そんな保証ないだろ。」

夏「俺と話すんじゃなくてお姉さんと話すべきだよ。一くんが支えてあげ…」

俺は夏の机を殴り、立ち上がる。

たくさん話しても一目惚れした夏には勝てなかったんだ。
これ以上どうしろって言うんだよ。

一「マジでお前、姐さんとどういう関係なの?腹立つ。」

夏「…お姉さんが好きなら好きって伝えてあげればいいじゃん。俺は関係ないよ。」

一「逃げる言葉ばっかり使うなよ。姐さんはお前のことがいいと思ってんだよ。」

夏「それは…、好きとかじゃ…」

なんで好きな気持ちをはぐらかすんだよ。
なんで好き同士なのに伝え合わないんだよ。

俺はずっと片想いだから何度伝えたってはぐらかされる。

姐さん自身が俺に知らない部分を夏に見せたってことはそういう事なんだ。

一「何度伝えても俺の思いは姐さんに届かないのに、お前が渡した1つのメモでそんなに仲が深められるなら気が合うってことなんだ。
…けど、俺はきっぱり断られるまで諦めない。」

俺は声を振り絞り姐さんの恋の応援をした。
けれど、自分の気持ちも優先したかった。

俺はその場から逃げるように自分の席に戻り、机に突っ伏す。

明「どうしたの?なんで喧嘩になった?」

俺の様子を見てたのか明が慌てた声で話しかけてくる。

一「…俺のせい。」

明「そっか。後で謝ろう。」

一「…やだ。」

明が小さい手で俺の背中を撫でる。

謝ったら俺の気持ちは無いものにされてしまいそうだったから。
どうしても、ちゃんと好きになった姐さんと付き合って一緒に過ごしたいんだ。

優しく俺の背中を撫でる手が姐さんだったら俺はすぐに機嫌が治るんだろう。
けど、この心のもやつきは姐さんが俺の気持ちに答えてくれるまで晴れない。

夏に当たっても意味がないことも分かってるんだ。

けど、俺じゃない恋人を作るならちゃんとした人にしてほしいんだ。
遊び人のような奴じゃなくて、ずっと姐さんのことだけを見てしっかり幸せを届けてくれる人。

俺には見せない笑顔を引き出せる人。

それが好きな姐さんに俺が出来ることだから、余計な男は追い払うよ。



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