一なつの恋

環流 虹向

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この仕事を辞めたくなってきてこの間より早めの時間で上がろうと思っていたけど、最後の最後で指名が入ってしまった。

スタッフルームの片付けをしていた俺は先輩に呼ばれ、牛乳屋のブースに戻るとツツミさんの彼女が待っていた。

一「…こんばんは。」

「牛乳4本。全オプション付きで。」

俺はその二言に恐怖を感じながら精算を終えて半個室の部屋に通す。

今日は月曜日で夜にはあんまり客が入らない日。

だから今このブースにいるのは俺とツツミさんの彼女さんだけで、静かに流れる聞き慣れてきた洋楽と彼女さんの服が擦れる音しか聞こえない。

俺は持っていた牛乳をソファーに置き、1本だけ手に取り口に含もうとすると彼女さんがそれを止める。

「まだいい。」

一「…分かりました。」

俺は牛乳を置いて、彼女さんの隣に座るが何も話さず5分ほど沈黙が流れる。

この人は一体何をしたくて俺を指名したんだ…?

この間ばったり出会って本当にツツミさんの彼女さんとは分かったけど、口止めにしに来たのか?

そんなことしなくたってあの場で話そうとした素振りなんか一切見せてなかったはずだし、話すメリットがない。

「今度…」

俺がぐるぐると考え事をしていると、彼女さんが口を開いた。

「今度、デートしに行かない?」

その言葉に俺はレオさんの教えてもらったことを思い出し、鳥肌を立てる。

一「…いえ、お客さんとは行ってはいけない決まりがあるので。」

「決まりがなかったら行くの?」

一「俺は仕事とプライベートしっかり分ける派の人間なので、どうだったとしても行かないです。」

押してきそうだからきっぱり断ってみた。

けど、彼女さんは俺の言葉に怯むことなく聞いてくる。

「でも、私たちプライベートで会った仲でしょ?」

一「あれは会ったというか鉢合わせというか…。」

「シンくんの友達は私の友達。」

一「いや、名前も…」

「ユミ。これで友達。」

だいぶ強引な女だな。
こんな女のどこがいいんだ。

ユミ「けんくんの1時間、5万で買うからデートして。」

一「…デートって何するんですか?」

ユミ「ごはん食べたり、お買い物したり、おしゃべりしたり、色々。」

一「ホテル行ったりしますか?」

ユミ「行かない。」

そう言うと、ユミさんは自分1人で牛乳を1本手に取り飲み始める。

分からない。

あんなにたくさんの女の表情を読み取って上手くやってきた俺がこの女の顔が読み取れない。
あの無表情が多い海坂先生の顔さえ読み取れたのに、なんでこの女はそこまで感情を表さない?

俺はどうにか魂胆を知る術がないか考え、時間稼ぎに俺とどんなことをしたいか聞いたり、ツツミさんとはどんなデートをしてるのか揺さぶりをかけるも全く表情崩さず、目線も一定のままでまるでロボットと話してるようだ。

俺はその雰囲気に恐怖心と嫌悪感を感じ丁重に断ると、また俺がシフトに入ってる時に時間を買いデートOKしてくれるまで通うと言われた。

そんなことしても俺は折れる気は無いが向こうも折れる気がないらしい。

俺はやることやったユミさんを見送り、部屋を片付ける。

2時間、2人だけの空間を過ごしただけでこんなにも疲れる人がいただろうか?

俺はあの人とは絶対デートには行かないし、さっさと金を作って辞めることを決意した。




→ Don't Blame Me
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