ここのサキには

環流 虹向

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一は私の数日分の服を持って音己の家に行っている。

けど、私のストーカーは目の前で楽しげにななみんとお話をしていて、朝と夜で人格が変わるんじゃないかと錯覚してしまうほど。

だから私はゆきさんをななみんにお任せしたいけれど、ゆきさんがそれを許してくれない。

七海「ゆきさんってイラストレーターしてるんですね。」

ゆき「そうそう。顔似合わずこんな絵描きます。」

と、ゆきさんはあの日したように自分の絵を紙ナフキンに描き、ななみんに見せる。

七海「ほぇー…、すっげぇーや。俺もこんな風に絵描けたらよかったな。」

ゆき「ななみが描いた絵も見てみたい。」

そう言って、ゆきさんはななみんにペンを渡すとまた私に話を振ってくる。

ゆき「今日は良く晴れてたから久しぶりに布団干しちゃいました。大掃除も少し進んでお風呂場のカビは1匹もいないです。」

ゆきさんはいつ帰ったのかは分からない。

けど、確実に私のマンション前にはいて私を監視していたことに変わりない。

ゆき「太陽の香りがする布団で寝るのって気持ちいいですよね。今度晴れた日によかった家来ます?」

雅紀「自分のお布団でやりますよー。次のドリンク何かいります?」

私はなんとなくお断りして、その場をやり過ごそうとするとななみんがゆきさんをじっと見てとても前衛的なヒトデマンを描いていた手を止める。

七海「…ゆきさんってどっちの人?」

ゆき「どっち?」

雅紀「ななみん…、それやめて。」

七海「お客さんって知らないの?」

と、ななみんは私の顔を見て首を傾げる。

雅紀「…知ってる人と知らない人どっちもいる。自分からは言ってない。」

七海「そうなんだ。ごめん。」

ゆき「なんの話?」

ゆきさんは私のことをもっと知りたいと目を輝かせるけれど、きっとまたああなる。

けど、悪化する前に思い切って言ってもいいのかも。

雅紀「私が男だって話。だけど、好きなのは男だって話。」

私がそう言うと、ゆきさんの瞬きが止まり息も止まったのか体がピクリとも動かない。

七海「え?男が好きなのは初耳ー。俺はタイプ?」

雅紀「…イケメンとは思うけど、私は儚げで血管が見えちゃうほど肌が透き通ってる人が好き。」

七海「それは儚げ…」

ゆき「男?」

と、ゆきさんは時間を取り戻したかのように一度深呼吸をして、そう私に聞いてきた。

雅紀「そう。男だよ。本当の名前は雅紀。」

私がそう教えると、ゆきさんはおもむろに立ち上がり氷が入ってるだけのグラスを掴んだ。

ゆき「男が男を誘ってんじゃねーよ!!」

そう言って、ゆきさんはグラスの中に入っていた氷を私に浴びせて、乱暴に1万円札を投げて店を出て行った。

七海「…え。なんであんなキレてたの?」

と、ななみんや他のお客さんと話していた従業員が私のおでこから出た血を紙ナフキンで拭い、手当してくれる。

雅紀「なんか勝手に好かれること多くて…。あの人、家まで来るストーカーだから追い払ったの。」

七海「え?警察行く?」

雅紀「めんどくさい人にはこれ以上時間は割きたくないから。…警察はそんなに頼りにならないし。」

七海「それは思っても言っちゃダメね。真面目に仕事してる人もいるから。」

そう言ってななみんは私の服についた水滴を取ると、おでこにキスをしてきた。

七海「雅紀だって自分のこと、嫌な風に言われたら傷つくでしょ?だからそんなことにならないように自分から気をつけてこ。」

雅紀「うん…。ごめん…。」

七海「謝らなくていいよ。謝るべきなのは一方的に暴言吐いたあいつだから。」

と、ななみんは自分のスニーカーの紐を締め始める。

雅紀「…何してるの?」

七海「あいつ、ぶちのめしてくる!ミキさん、タイムカードの休憩入れといてー。」

雅紀「待って!大丈夫だから!」

七海「俺がイラつくの!だから雅紀は関係ないよ!」

ななみんはそのまま店を飛び出し、今日あった30分の休憩が終わる頃に戻ってくると服が少し埃っぽくなっていて口の端から少し血が出ていた。

七海「あぁー…、久しぶりにスッキリしたぁ…。」

と、ななみんは流し場で顔を洗うと、水も滴る良い男という言葉がぴったりな横顔を私に見せる。

雅紀「怪我…」

七海「あいつに出禁ってこと伝えたから。俺の救世主を侮辱した罪は重いんだ。」

そう言ってななみんはまた営業に戻ったけど、私はそんなななみんが少し怖いとも好きとも感じて自分の感情が分からなくなってしまった。


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