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透明人間10
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尚人side
エリカが同級生らしい男子と歩いていた。
それを見かけた時の、絶望感。
仕事が終わり、退社して電車に乗る。朝は雨が降っていなかったから、傘は置いてきたのだが、最寄り駅に着いたときには土砂降りになっていた。
仕方ないので走って帰ろうとした時。
同級生と楽しそうに話しながらひとつの傘に入って歩いている、エリカを見かけたのだ。
エリカが大人になって、誰かと結婚し、家を出て行く。
いつか別れがくることは解っていたはずなのに。
エリカと一緒にいるのが楽しくて、嬉しくて。
考えないようにしていた。
雨に濡れて家へ帰りついた時には、もう10時を過ぎていた。
さすがにエリカは寝ているだろうと思っていたけれど。
「尚人さん!?」
彼女の声が聞こえた。なんだか久しぶりのような気がして、俺はエリカに抱きついた。
彼女は温かかった。俺はそのまま眠りについた。
気がついたら、空が明るくなっていた。俺は布団に横になっていた。
熱があるようだ。身体が重く、頭も痛い。
ふと横を見た。エリカが座ったまま眠っていた。
「…エリカ」俺は手を伸ばして彼女の手に触れた。
「尚人さん!大丈夫?」彼女はすぐ目を覚ました。
「ああ…お前が寝かせてくれたのか?」
「うん…でもひとりじゃ無理だったから…」
「お、尚人。起きたのか」絋海が部屋のドアを開けて入ってきた。
「…お前も来てたのか」最悪だ、と思いながら俺は起き上がった。
「なんて言種だよ。エリカが泣きながら電話してきたから来てやったのに」紘海は相変わらず笑って言ったが、その目には非難が混じっていた。
エリカを心配させるな、と。
俺はそれに気づいて、激しく後悔した。
「エリカは学校に行った方がいいんじゃないか?」紘海が言った。
「え?でも…」
「行ってくれ…俺なら大丈夫だから」
俺がそう言うと、彼女はしぶしぶ頷いた。
「で、何があった?」
エリカが学校に行ったあと、紘海が言った。
「……」
「ま、大方想像はつくけどな。エリカが誰かと仲良く歩いていたところでも見たんだろ?それが男だったからショックを受けたと」
「……」当たっていたけど悔しいから、俺は何も言わなかった。
「お前な、今からこんなのでどうするよ。エリカだってあと数年したら出て行くんだぞ。これじゃ、お前がエリカを救っているんじゃない。本当に救われているのはーー」
「うるせえな、解ってるよ!」
大声を出した途端、咳が出た。咳き込む俺を見て、紘海は静かに言った。
「馬鹿だな」
そんなこと、充分に解っていた。俺が馬鹿なことも、エリカを救おうと思っていたけれど、本当に救われているのは俺自身だということも、もう充分に解っていた。
エリカが同級生らしい男子と歩いていた。
それを見かけた時の、絶望感。
仕事が終わり、退社して電車に乗る。朝は雨が降っていなかったから、傘は置いてきたのだが、最寄り駅に着いたときには土砂降りになっていた。
仕方ないので走って帰ろうとした時。
同級生と楽しそうに話しながらひとつの傘に入って歩いている、エリカを見かけたのだ。
エリカが大人になって、誰かと結婚し、家を出て行く。
いつか別れがくることは解っていたはずなのに。
エリカと一緒にいるのが楽しくて、嬉しくて。
考えないようにしていた。
雨に濡れて家へ帰りついた時には、もう10時を過ぎていた。
さすがにエリカは寝ているだろうと思っていたけれど。
「尚人さん!?」
彼女の声が聞こえた。なんだか久しぶりのような気がして、俺はエリカに抱きついた。
彼女は温かかった。俺はそのまま眠りについた。
気がついたら、空が明るくなっていた。俺は布団に横になっていた。
熱があるようだ。身体が重く、頭も痛い。
ふと横を見た。エリカが座ったまま眠っていた。
「…エリカ」俺は手を伸ばして彼女の手に触れた。
「尚人さん!大丈夫?」彼女はすぐ目を覚ました。
「ああ…お前が寝かせてくれたのか?」
「うん…でもひとりじゃ無理だったから…」
「お、尚人。起きたのか」絋海が部屋のドアを開けて入ってきた。
「…お前も来てたのか」最悪だ、と思いながら俺は起き上がった。
「なんて言種だよ。エリカが泣きながら電話してきたから来てやったのに」紘海は相変わらず笑って言ったが、その目には非難が混じっていた。
エリカを心配させるな、と。
俺はそれに気づいて、激しく後悔した。
「エリカは学校に行った方がいいんじゃないか?」紘海が言った。
「え?でも…」
「行ってくれ…俺なら大丈夫だから」
俺がそう言うと、彼女はしぶしぶ頷いた。
「で、何があった?」
エリカが学校に行ったあと、紘海が言った。
「……」
「ま、大方想像はつくけどな。エリカが誰かと仲良く歩いていたところでも見たんだろ?それが男だったからショックを受けたと」
「……」当たっていたけど悔しいから、俺は何も言わなかった。
「お前な、今からこんなのでどうするよ。エリカだってあと数年したら出て行くんだぞ。これじゃ、お前がエリカを救っているんじゃない。本当に救われているのはーー」
「うるせえな、解ってるよ!」
大声を出した途端、咳が出た。咳き込む俺を見て、紘海は静かに言った。
「馬鹿だな」
そんなこと、充分に解っていた。俺が馬鹿なことも、エリカを救おうと思っていたけれど、本当に救われているのは俺自身だということも、もう充分に解っていた。
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