10 / 11
透明人間10
しおりを挟む
尚人side
エリカが同級生らしい男子と歩いていた。
それを見かけた時の、絶望感。
仕事が終わり、退社して電車に乗る。朝は雨が降っていなかったから、傘は置いてきたのだが、最寄り駅に着いたときには土砂降りになっていた。
仕方ないので走って帰ろうとした時。
同級生と楽しそうに話しながらひとつの傘に入って歩いている、エリカを見かけたのだ。
エリカが大人になって、誰かと結婚し、家を出て行く。
いつか別れがくることは解っていたはずなのに。
エリカと一緒にいるのが楽しくて、嬉しくて。
考えないようにしていた。
雨に濡れて家へ帰りついた時には、もう10時を過ぎていた。
さすがにエリカは寝ているだろうと思っていたけれど。
「尚人さん!?」
彼女の声が聞こえた。なんだか久しぶりのような気がして、俺はエリカに抱きついた。
彼女は温かかった。俺はそのまま眠りについた。
気がついたら、空が明るくなっていた。俺は布団に横になっていた。
熱があるようだ。身体が重く、頭も痛い。
ふと横を見た。エリカが座ったまま眠っていた。
「…エリカ」俺は手を伸ばして彼女の手に触れた。
「尚人さん!大丈夫?」彼女はすぐ目を覚ました。
「ああ…お前が寝かせてくれたのか?」
「うん…でもひとりじゃ無理だったから…」
「お、尚人。起きたのか」絋海が部屋のドアを開けて入ってきた。
「…お前も来てたのか」最悪だ、と思いながら俺は起き上がった。
「なんて言種だよ。エリカが泣きながら電話してきたから来てやったのに」紘海は相変わらず笑って言ったが、その目には非難が混じっていた。
エリカを心配させるな、と。
俺はそれに気づいて、激しく後悔した。
「エリカは学校に行った方がいいんじゃないか?」紘海が言った。
「え?でも…」
「行ってくれ…俺なら大丈夫だから」
俺がそう言うと、彼女はしぶしぶ頷いた。
「で、何があった?」
エリカが学校に行ったあと、紘海が言った。
「……」
「ま、大方想像はつくけどな。エリカが誰かと仲良く歩いていたところでも見たんだろ?それが男だったからショックを受けたと」
「……」当たっていたけど悔しいから、俺は何も言わなかった。
「お前な、今からこんなのでどうするよ。エリカだってあと数年したら出て行くんだぞ。これじゃ、お前がエリカを救っているんじゃない。本当に救われているのはーー」
「うるせえな、解ってるよ!」
大声を出した途端、咳が出た。咳き込む俺を見て、紘海は静かに言った。
「馬鹿だな」
そんなこと、充分に解っていた。俺が馬鹿なことも、エリカを救おうと思っていたけれど、本当に救われているのは俺自身だということも、もう充分に解っていた。
エリカが同級生らしい男子と歩いていた。
それを見かけた時の、絶望感。
仕事が終わり、退社して電車に乗る。朝は雨が降っていなかったから、傘は置いてきたのだが、最寄り駅に着いたときには土砂降りになっていた。
仕方ないので走って帰ろうとした時。
同級生と楽しそうに話しながらひとつの傘に入って歩いている、エリカを見かけたのだ。
エリカが大人になって、誰かと結婚し、家を出て行く。
いつか別れがくることは解っていたはずなのに。
エリカと一緒にいるのが楽しくて、嬉しくて。
考えないようにしていた。
雨に濡れて家へ帰りついた時には、もう10時を過ぎていた。
さすがにエリカは寝ているだろうと思っていたけれど。
「尚人さん!?」
彼女の声が聞こえた。なんだか久しぶりのような気がして、俺はエリカに抱きついた。
彼女は温かかった。俺はそのまま眠りについた。
気がついたら、空が明るくなっていた。俺は布団に横になっていた。
熱があるようだ。身体が重く、頭も痛い。
ふと横を見た。エリカが座ったまま眠っていた。
「…エリカ」俺は手を伸ばして彼女の手に触れた。
「尚人さん!大丈夫?」彼女はすぐ目を覚ました。
「ああ…お前が寝かせてくれたのか?」
「うん…でもひとりじゃ無理だったから…」
「お、尚人。起きたのか」絋海が部屋のドアを開けて入ってきた。
「…お前も来てたのか」最悪だ、と思いながら俺は起き上がった。
「なんて言種だよ。エリカが泣きながら電話してきたから来てやったのに」紘海は相変わらず笑って言ったが、その目には非難が混じっていた。
エリカを心配させるな、と。
俺はそれに気づいて、激しく後悔した。
「エリカは学校に行った方がいいんじゃないか?」紘海が言った。
「え?でも…」
「行ってくれ…俺なら大丈夫だから」
俺がそう言うと、彼女はしぶしぶ頷いた。
「で、何があった?」
エリカが学校に行ったあと、紘海が言った。
「……」
「ま、大方想像はつくけどな。エリカが誰かと仲良く歩いていたところでも見たんだろ?それが男だったからショックを受けたと」
「……」当たっていたけど悔しいから、俺は何も言わなかった。
「お前な、今からこんなのでどうするよ。エリカだってあと数年したら出て行くんだぞ。これじゃ、お前がエリカを救っているんじゃない。本当に救われているのはーー」
「うるせえな、解ってるよ!」
大声を出した途端、咳が出た。咳き込む俺を見て、紘海は静かに言った。
「馬鹿だな」
そんなこと、充分に解っていた。俺が馬鹿なことも、エリカを救おうと思っていたけれど、本当に救われているのは俺自身だということも、もう充分に解っていた。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる