絶対的支配者である暴虐王太子の義弟は愛玩の檻の中

椎葉たき

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エピローグ

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 王弟フェレル・ウェンカの首が落ちた。
 断頭台の刃がフェレルの首を切り鮮やかな水色の髪が地に落ち血に染まった瞬間、群衆の怒号が喧しくビリビリと空気を震わせ歓喜に湧く。

 王弟でありながら国王ヴァルグード・ウェンカの男妾であり、地位を利用して好き勝手していたという。

 しかし実際、あれは生贄だ。

 春の空に似た鮮やかな水色の髪と稲穂が揺れる黄金の大地に似た色の瞳を持つフェレルは、豊穣の加護がある血筋。

 フェレルの母は田舎でひっそりと暮らしていたところ、先代国王バードンに見つかり夫を殺され召し上げられた。

 母と同じ色を受け継いだ幼児は、王の独断で養子として王家に加えられ、母の腹の中にも夫との子があり、女児ならば王太子の婚約者にすると生まれる前より決められた。

 己の境遇を知らず、純粋無垢にニコニコと笑い、義兄に懐く二歳の男児。柔らかそうな真っ白な肌に、整った顔立ち、キラキラした髪と澄んだ瞳の義弟に、当時十四歳だったヴァルグードは魅入られた。

「アレが欲しい」
 犬猫を欲しがるように国王バードンにねだる。

「生きていれば国に豊穣の加護がある。殺してはならないが、権力を持たせてはならない。王宮の外には決して出すな」

 母親は女児の出産後、生まれたばかりの赤子も、連れていた男児とも引き離され、国王との初夜のあと気が狂って自殺したとされていた。
 豊穣の加護を独占したいバードンは、この血筋を奪われてなるものかと王宮の中に隠したがった。

「あの女の初夜、後宮に酷い鳥の鳴き声が響いていましたね。父上は早急過ぎたのです。時間を掛け、従順になるよう調教し逆らう意思を持たぬよう躾けてみせます」

「そこまで言うのなら、お前にやろう。未来の王として、王家に従うようあの血筋を教育しろ」

「ありがとうございます、父上。名前は決めあります。あれはフェレル、今からフェレルは俺のものだ」

 男児には父母から貰った名前があったが、ヴァルグードはそれすら奪い、己のものに名前を付けた。この瞬間から、自由を奪われ命も体もヴァルグードの玩具になった。

 ヴァルグードにとって人は自分の思うままにできる物でしかない。
 金髪碧眼の天使のような美男子だが、中身は人の皮を被った悪魔だった。

 フェレル付きの侍女ダージはロズス家の長女で、ロズス家は違法薬物の栽培をしていた。連座で一族全て死罪の筈が、ヴァルグードが黙認する代わりに忠誠を誓い、嫡男であるバギンスは側近に登用された。
 ロズス家が作る、高揚感をもたらし効果が切れれば恐ろしい幻覚を見せ一度使えば抜け出せなくなる悪魔の薬は、ヴァルグードの命令によって隣国に撒かれ、傀儡にして国を乗っ取り国土を広げた。
 その薬は自国をも蝕み、貴族も国民も中毒にし、ヴァルグードは意のままに操れるようになったと、意に介さなかった。

 フェレルの妻であるエジレアは、愛人のニコラスと関係を持ち、十三歳で出産した。夫婦以外に関係を持つ姦通罪は死罪。愛する人を人質にとられ、ヴァルグードに従って、かたちばかりの夫を差し出した。

 アルバート・ダルゴッドは騎士団長であることを笠に着て、気に入らない団員を暴行して殺し、破落戸の仕業としてスラム街に捨て、騎士団の予算を着服するやりたい放題の男だ。そこに目をつけられて、ヴァルグードに召し上げられ、フェレルの専属護衛騎士となった。ヴァルグードがフェレルからの執着が欲しいというから、そのように差し出した。

 ヴァルグードの従者、べラド・ザッガスは正妃付きだった。前国王が攫ってきた女――フェレルの母に嫉妬し、自殺に見せかけて殺すようベラドに命令した。
 前国王バードンに知られ逆鱗に触れ、褥を共にしたとき元正妃は殴り殺された。
 世間では、正妃は病、側妃の死因は自殺となっているが、ベラドが側妃を殺したと知られれば、気性の荒いバードンのこと、一族諸共消されると、ヴァルグードの庇護下に入る代わりに忠誠を誓い、主人が欲しいままにフェレルを差し出した。

 侍女と側近のロズス家は薬をばら撒いた元凶として一族連座で首を落とされた。

 婚前に交際し子がありながら王族と結婚したエジレアと、その愛人ニコラス、二人の間に会った子供二人も、王家を謀った罪で連座で首を落とされた。

 私利私欲で騎士団をいいようにして悪行を尽くしたアルバート・ダルゴッドの首が落とされた。

 元王妃殺しで従者は首を落とされた。

 フェレルの妹であり、ヴァルグードの正妃イザベラが産まされた十九人の子供の内の長男、十九歳の王太子の告発により、実父であるヴァルグードを中心に断罪された。
 
 王妃イザベラは多産の末、二十人目を妊娠中に股から大量の血を流して死んだ。

 十九歳の息子に王座を追われたヴァルグードは、怒号の中、堂々とした足取りで断頭台に向かう。罪人であ自分こそが支配者であると、不遜な態度は王座に座っていた姿と変わらない。

 民衆など目に入ってはおらず、地に落とされた哀れな義弟の首をうっとりと満足そうに眺めていた。

「言い残したいことはあるか」
 執行人が訪ねたが、ヴァルグードは下賤の者に言葉をかけてやる価値はないと鼻で笑った。

 実の息子の意思で、ヴァルグードの首が落とされた。

 悪魔に絡め取られ、自分の身の可愛さにフェレルを生贄として差し出した者たちは皆、その悪魔に引きずられて処刑され、悪魔の配下として冥界に連れて行かれたのだった。
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