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9.国王の結婚式前に (1)
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フェレルが王宮に残ることに苦言を呈する貴族もあった。
神聖な王宮での痴態、股間を踏まれて泣き叫び失禁し、下半身を露出し善がる品行下劣な王弟。王族の血が一滴も流れていないまがい物。家畜に劣る下等な生き物が王宮にあるのは相応しくない、どこかに幽閉してしまえばいい。
それを言ったのは、フェレルの婚約者であるエジレア・ニーウェルの父、ニーウェル公爵だ。
ヴァルグードは、だるそうに王座にもたれ掛かりながら鼻で笑い蔑む。
「お前などフェレルの代わりにはならない。奴隷として鬱憤晴らしに使う程度だ」
「なっ、奴隷などと私は貴族だ!」
「貴族だろうが、奴隷に落とすのは可能だ」
「あれがエレジアの婿とは認めない!」
「お前のではない。俺の義弟だ」
ニーウェル公爵に、ヴァルグードは段々とイライラしてきた。
「俺の可愛い義弟をうっかり殺してしまわない為には、実験台となる生贄が必要だ。お前と嫡子、義弟の婚約者だけは許してやる。お前の家の者、ニーウェル公爵家に仕えている使用人も含めて、妻も子も嫁も孫も全て差し出せ。
フェレルの為に命を使われるのだ、王家に貢献できて光栄だろう?」
「陛下!」
「王命だ。お前の一族を一人残らず奴隷に落としても構わないが?」
ニーウェル公爵は前王の苛烈さを知っていた。ヴァルグード王は確かにその血を引いている。彼の兄弟たちが辿った末路が過り、顔を青くする。
王命は絶対。
聞かなければ、王に背いた反逆者として処刑され、一族は奴隷に落とされる。
ニーウェル公爵は屋敷に帰ると、使用人の飲水に毒を流し、妻、子を剣で斬り殺した。
父から話を聞いた嫡男も、同じように嫁と孫を殺し、自らも命を断つ。
尊厳を奪われ家畜以下の扱いを受け、地獄の苦しみの末に殺されるくらいなら、人間であるうちに死なせてやりたいという、一家を思う主人の愛であった。
ヴァルグードは分家であるニーウェル公爵の弟に公爵家を継がせ、本家とする。その代わり、前ニーウェル公爵が差し出せなかった者の代わりを差し出せと命令した。
一家が無理心中しようが、ヴァルグードの命令は関係なく、公爵家に義務を負わせる。
兄とは違い小心者の弟は、王に命令された通りに妻子と嫡男の嫁と孫、使用人を差し出した。
フェレルの婚約者であるエレジアは拷問される従兄弟たちを見て、「陛下に従わなかった愚図を当主にして黙っていたのだから当然の報いよ」と嘲笑する。
貴族女は貴族の血を生産するため娼館に払い下げられて国に貢献し、男はヴァルグードの可愛い義弟を殺してしまわないように身代わりになり、目玉を抉られ、股間を潰され、鬱憤晴らしの拷問末に殺された。
貴族の血を引かない使用人女は、ヴァルグードの部下に払い下げられ、嗜虐的な彼らに凌辱された上、拷問され、死んだのだった。
酒の席で、ヴァルグードの部下たちが武勇伝として語り、王に楯突いた者の凄惨な末路は瞬く間に広がる。
ヴァルグード王は暴虐的ではあるが、王太子時代から力をみせ、軍事力を上げ、隣国を従属させて、国力を高め、国王としての実力は確かだ。
それに、ロズス家を取り込んでいるのが大きい。
娼館で女を買って嫡子を産ませた貴族家も少なくない。
誰もヴァルグード王に逆らえる者はなく、王弟フェレルの存在は禁忌として誰も言及しなくなった。
ヴァルグード王が義弟を使った朝は上機嫌だったので、新たな犠牲者が出ないで済むと、貴族たちは皆、ホッとしたくらいだ。
家畜が一匹、国王に飼われていようと貴族たちにはなんの支障もない。
それより、ヴァルグード王の結婚の方が重要だ。
前王バードンの喪が明けるまでは、ヴァルグードの結婚式は延期しようという話もあった。だが、ヴァルグードは予定通りにおし進める。早く結婚し身を固め世継ぎを作った方が、国民は安心するだろうと。
ヴァルグードは、血の繋がった兄弟の中で生き残った弟、ロブソンを呼び出し、こう告げた。
「俺に子が産まれたら、お前が匿っている女に乳母になってもらう」
兄に壊されないよう王宮から逃げ出したロブソンは、なぜ知っているのかと慄いた。
匿っている女とは、隷属させたかつてのアルランテ王国に嫁いだ長女シャーロットのこと。
アルランテ王国の欲にまみれた国王は年老いても王座を譲らず、妃を沢山囲っていた。薬入りの酒が振る舞われたパーティーは、妊娠中であったシャーロットは出席せず、免れたのだ。
気狂いのアルランテ王国の王族に、元々薬漬けにされていた二番目の兄を殺され、報復として残らず処刑した。
その中に、シャーロットの幼い子供があったという。
貴族、王族が薬の影響で恐ろしい妄想に取り憑かれ、殺し合う混乱のさなか逃げ出し、弟ロブソンの元へ逃れたのだ。
ヴァルグードの謀略で好色爺に売られ、我が子を殺された、さぞ恨んでいるに違いない。
「兄上、なぜ姉上を乳母に?」
「俺の弟はフェレルだけだ。この場で処分してしまおうか?」
「ひぃっ! も、申し訳ありません、陛下。私はただの配下でございます、思い上がってしまい、申し訳ありません!」
ジロリと睨むヴァルグードに怯え、足元にひれ伏す。
血の繋がった実の弟をゴミを見るかの如く蔑んだ。
「お前のような塵芥にはわからないでいい。これも、フェレルのお願いを叶えてやる為だ。義兄さんなら、可愛い義弟のおねだりは聞かなければね」
実の弟に向ける侮蔑から一変、頬を染めうっとりと愛おしそうに義弟の名を口にする。
ヴァルグードの狂気の片鱗を目の当たりにし、ぞっとしたロブソンはぶるりと震えた。
神聖な王宮での痴態、股間を踏まれて泣き叫び失禁し、下半身を露出し善がる品行下劣な王弟。王族の血が一滴も流れていないまがい物。家畜に劣る下等な生き物が王宮にあるのは相応しくない、どこかに幽閉してしまえばいい。
それを言ったのは、フェレルの婚約者であるエジレア・ニーウェルの父、ニーウェル公爵だ。
ヴァルグードは、だるそうに王座にもたれ掛かりながら鼻で笑い蔑む。
「お前などフェレルの代わりにはならない。奴隷として鬱憤晴らしに使う程度だ」
「なっ、奴隷などと私は貴族だ!」
「貴族だろうが、奴隷に落とすのは可能だ」
「あれがエレジアの婿とは認めない!」
「お前のではない。俺の義弟だ」
ニーウェル公爵に、ヴァルグードは段々とイライラしてきた。
「俺の可愛い義弟をうっかり殺してしまわない為には、実験台となる生贄が必要だ。お前と嫡子、義弟の婚約者だけは許してやる。お前の家の者、ニーウェル公爵家に仕えている使用人も含めて、妻も子も嫁も孫も全て差し出せ。
フェレルの為に命を使われるのだ、王家に貢献できて光栄だろう?」
「陛下!」
「王命だ。お前の一族を一人残らず奴隷に落としても構わないが?」
ニーウェル公爵は前王の苛烈さを知っていた。ヴァルグード王は確かにその血を引いている。彼の兄弟たちが辿った末路が過り、顔を青くする。
王命は絶対。
聞かなければ、王に背いた反逆者として処刑され、一族は奴隷に落とされる。
ニーウェル公爵は屋敷に帰ると、使用人の飲水に毒を流し、妻、子を剣で斬り殺した。
父から話を聞いた嫡男も、同じように嫁と孫を殺し、自らも命を断つ。
尊厳を奪われ家畜以下の扱いを受け、地獄の苦しみの末に殺されるくらいなら、人間であるうちに死なせてやりたいという、一家を思う主人の愛であった。
ヴァルグードは分家であるニーウェル公爵の弟に公爵家を継がせ、本家とする。その代わり、前ニーウェル公爵が差し出せなかった者の代わりを差し出せと命令した。
一家が無理心中しようが、ヴァルグードの命令は関係なく、公爵家に義務を負わせる。
兄とは違い小心者の弟は、王に命令された通りに妻子と嫡男の嫁と孫、使用人を差し出した。
フェレルの婚約者であるエレジアは拷問される従兄弟たちを見て、「陛下に従わなかった愚図を当主にして黙っていたのだから当然の報いよ」と嘲笑する。
貴族女は貴族の血を生産するため娼館に払い下げられて国に貢献し、男はヴァルグードの可愛い義弟を殺してしまわないように身代わりになり、目玉を抉られ、股間を潰され、鬱憤晴らしの拷問末に殺された。
貴族の血を引かない使用人女は、ヴァルグードの部下に払い下げられ、嗜虐的な彼らに凌辱された上、拷問され、死んだのだった。
酒の席で、ヴァルグードの部下たちが武勇伝として語り、王に楯突いた者の凄惨な末路は瞬く間に広がる。
ヴァルグード王は暴虐的ではあるが、王太子時代から力をみせ、軍事力を上げ、隣国を従属させて、国力を高め、国王としての実力は確かだ。
それに、ロズス家を取り込んでいるのが大きい。
娼館で女を買って嫡子を産ませた貴族家も少なくない。
誰もヴァルグード王に逆らえる者はなく、王弟フェレルの存在は禁忌として誰も言及しなくなった。
ヴァルグード王が義弟を使った朝は上機嫌だったので、新たな犠牲者が出ないで済むと、貴族たちは皆、ホッとしたくらいだ。
家畜が一匹、国王に飼われていようと貴族たちにはなんの支障もない。
それより、ヴァルグード王の結婚の方が重要だ。
前王バードンの喪が明けるまでは、ヴァルグードの結婚式は延期しようという話もあった。だが、ヴァルグードは予定通りにおし進める。早く結婚し身を固め世継ぎを作った方が、国民は安心するだろうと。
ヴァルグードは、血の繋がった兄弟の中で生き残った弟、ロブソンを呼び出し、こう告げた。
「俺に子が産まれたら、お前が匿っている女に乳母になってもらう」
兄に壊されないよう王宮から逃げ出したロブソンは、なぜ知っているのかと慄いた。
匿っている女とは、隷属させたかつてのアルランテ王国に嫁いだ長女シャーロットのこと。
アルランテ王国の欲にまみれた国王は年老いても王座を譲らず、妃を沢山囲っていた。薬入りの酒が振る舞われたパーティーは、妊娠中であったシャーロットは出席せず、免れたのだ。
気狂いのアルランテ王国の王族に、元々薬漬けにされていた二番目の兄を殺され、報復として残らず処刑した。
その中に、シャーロットの幼い子供があったという。
貴族、王族が薬の影響で恐ろしい妄想に取り憑かれ、殺し合う混乱のさなか逃げ出し、弟ロブソンの元へ逃れたのだ。
ヴァルグードの謀略で好色爺に売られ、我が子を殺された、さぞ恨んでいるに違いない。
「兄上、なぜ姉上を乳母に?」
「俺の弟はフェレルだけだ。この場で処分してしまおうか?」
「ひぃっ! も、申し訳ありません、陛下。私はただの配下でございます、思い上がってしまい、申し訳ありません!」
ジロリと睨むヴァルグードに怯え、足元にひれ伏す。
血の繋がった実の弟をゴミを見るかの如く蔑んだ。
「お前のような塵芥にはわからないでいい。これも、フェレルのお願いを叶えてやる為だ。義兄さんなら、可愛い義弟のおねだりは聞かなければね」
実の弟に向ける侮蔑から一変、頬を染めうっとりと愛おしそうに義弟の名を口にする。
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