5 / 23
*
直哉という人間
しおりを挟む(……あんなに綺麗な涙は、初めて見た)
暗い夜道、そんなことを思いながら歩く直哉は、歩行者の邪魔にならないような道端に立ち止まり胸に手を当てて目を閉じた。
ドクン、ドクン、ドクン。
そう規則正しくリズムを刻む心臓は、今日も自分自身を確かに生かしてくれている。
少しずつスピードを緩める鼓動の音を聞かないと不安に押しつぶされそうになってしまうのはもうどうしようもないことだ。
マスクをおろして深く呼吸をすると、爽やかな空気が全身に染み渡る気がした。
(……こんな話を信じろって言う方がおかしいよなあ)
自分が優恵に対して、余りに突拍子も無くにわかに信じ難い話をしていることは、もちろん直哉自身が一番理解していた。
それを理解した上で"優恵には信じてほしい"と言っているのだから、頭がおかしい人間だと思われても仕方がないとわかっている。
だけど、それは本心からそう思っているのもまた事実だ。
直哉は鼓動の音に安堵してからそっと目を開き、家までの道のりを再び歩き始めた。
自分では、最近体力がついてきたような気がしていた。
しかし、二日も連続でそれなりの距離を歩くと心拍数が上がり、なんとなく立ち止まって休憩してしまう。
発作が起きてしまうんじゃないかと、無意識に警戒してしまうのだ。
だから正常な鼓動の音を聞くと安心するし、そうしてからじゃないと歩くのが怖くなってしまう。走るのなんてもってのほかだ。
胸にある傷は、これまで直哉が必死に生きてきた証だ。
病院でのほぼ寝たきりの生活から外に出て四年経った今でも、周りの男子高校生と比べて異常に線が細いのは自覚している。
(日焼けしてみたかったとか、思い切り走ってみたいだとか、旅行に行ってみたいだとか、海に入ってみたいだとか。外に出たらやってみたいことなんてたくさんあったのに)
(結局、外の空気がたまらなくおいしいことで全部満足してしまった)
空を見上げると、綺麗な星が瞬いていて
「……すっげ……」
思わず声が漏れた。
昨日、優恵を探しにあの交差点に向かった。
それは直哉にとってはほぼ賭けのようなものだった。
龍臣の命日とは言え、そこに優恵がやってくる保証なんて無い。
だけど、直哉は"きっと優恵は来るはず"というどこか期待に近い思いはあった。
その理由は、この四年間、毎年あの交差点にある電柱に同じお花とお菓子が供えられていたのを知っていたからだ。
今までは時間が合わなかったのか、いつ行ってもすでに供えられた後だった。だから今年は早めに来た。
よくよく考えたら、昼間の目立つ時間に来るよりは朝の登校時間に合わせてサッと置いておく可能性の方が高い。
そう予想して訪れてみると、優恵と出会うことができたのだ。
直哉は、優恵に会って驚いた。
遠目からでもわかる、その美貌。
パッチリとした二重の目元に、薄い唇。
儚げでミステリアスに感じる雰囲気と青味すら感じるほど真っ白な肌は、おそらく龍臣を死なせてしまったという罪悪感とショックと後悔と……様々な感情のせいなのだろう。
直哉も"触れたら折れそう"や"細すぎて心配になる"と今でもよく言われる。
しかし、直哉から見れば優恵の方が心配になる。
少しでも地雷を踏んだら消えていなくなってしまいそうな、そんな脆い印象を受けた。
(龍臣が死んでもなお優恵を心配してる理由がよくわかる気がするよ)
無意識のうちに脳内で心臓に語りかけるけれど、もちろん返事は無い。
次はいつ会えるだろう。そう考えて、
「あ……連絡先聞きそびれた……」
また待ち伏せするしかないか、と困ったように頭を掻くのだった。
10
あなたにおすすめの小説
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
後宮の下賜姫様
四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。
商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。
試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。
クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。
饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。
これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。
リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。
今日から毎日20時更新します。
予約ミスで29話とんでおりましたすみません。
王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~
Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。
閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。
恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。
「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。
――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる