年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第二章

お家デート-1

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それから三週間後。
日向は無事に都内に引っ越してきて、私も新しい家に引っ越しが完了した。

お互いバタバタしていてあれ以来会えてはいないものの、三日に一度くらいの頻度で夜に電話がかかってくる。

話す内容と言えば仕事のことや引っ越しのことがほとんどだったけれど、疲れた夜に日向の声を聞くとなんだか落ち着いた。
そんな今日は、久しぶりに日向に会う日だった。


"お互い落ち着いたっぽいし、約束通り飲みに行こう"


日向からそうメッセージが送られてきたのが二日前。
二つ返事で了承し、今日はバルで飲むことになっていた。
早めに仕事を終わらせて定時ぴったりに帰りたい。
そう思って気合いを入れて出勤した私に、


「秋野さん、今日の夜空いてる?」


と早々に真山さんが嬉しそうに話しかけてきた。


「今日はちょっと先約がありまして……」

「あ、そうなの?残念」

「何かありました?」

「今日は営業部からお誘いを受けて飲み会の予定なのよ」

「へぇ、そうなんですか」

「浅井くんも来るって言うから、秋野さんも誘おうって思ってたんだけど、先約あるなら仕方ないわね」

「はは……」


真山さんはいまだに浅井さんに私を勧めようとしているらしく、こうやってたまに画策してくる。
この三週間の間にも何度か飲みに誘われたけれど、私の引越しの兼ね合いで結局行けずじまいだったため、落ち着いた頃を見計らってこうして誘ってくれたのだろう。
ありがたいけれど、今日は日向との予定がある。


「秋野さん、今日来る?」


真山さんと話をしていると、後ろから浅井さんも出勤してきた。


「それが、秋野さんは今日先約があるんだって」

「そっかー、残念。じゃあまた今度誘うよ」

「すみません。ありがとうございます」

「気にしないで」


浅井さんは颯爽と私たちの横を通り過ぎ、営業部に入っていく。
今日も爽やかなその後ろ姿を見ながら、私たちも仕事を開始した。
いつもより急いで仕事をこなしていたからか、定時になるまでに「これもお願い!」とどんどん仕事を振られてしまい、デスクには資料の山が出来上がっていく。

断ればいいんだろうけれど、忙しいのはお互い様。

現に、私より他の人たちの方が仕事量は明らかに多そう。
そう思うと頼まれれば引き受けてしまうこんな自分の性格が本当に嫌いだ。
急ぎたい時に限って来客も多いし電話も鳴る。
営業部の事務処理を振られたり、後輩がミスしてしまいその後処理とフォローに追われたり。
結局全部終わる前に定時が来てしまい、残業が確定。


"ごめん、残業になる。先お店入ってて"


そう日向に連絡すると、すぐに


"いや、予約してるわけじゃないからいいよ。会社まで迎えに行く。終わったら連絡ちょうだい"


と返事が来た。

それは申し訳ないと断りを入れようとした時に、


「秋野さん!すみません確認お願いします!」


半泣きの後輩に呼ばれてしまい、咄嗟に


"わかった。ありがとう"


と返事を送って席を立つ。
あまり日向を待たせちゃいけない。急がないと。


「うん、大丈夫。これで送信しちゃって」

「はい。……秋野さん。本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

「ううん。次から気を付ければ大丈夫。私も前に同じミスしたことがあって、真山さんに助けてもらったことあるから」

「そうだったんですか……」

「うん。だから気にしないで」

「ありがとうございます。……でも、秋野さんもご自身のお仕事抱えてますよね。今日予定あったんじゃ……。私代わりますよ!」

「大丈夫だって。それに、今日は疲れたでしょ。飲み会は行く予定だった?」

「いえ、明日早くに予定があるので今日は欠席予定でした」

「そっか。じゃあ今日は早めに帰って家でゆっくり休んで。また月曜日から一緒に頑張ろうね」

「……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます!」

「ふふっ、じゃあお疲れ様。気を付けてね」

「お先に失礼します。お疲れ様です」


涙目で何度もお礼を言う後輩を帰し、一つ息を吐いてからデスクに戻り残っている自分の仕事に集中する。

一時間以内には終わらせたいな……。

そう思いながら黙々と作業していると、


「真山さん、秋野さん、手伝うよ」


後ろから浅井さんが現れた。


「浅井くん! 助かる!」


どうやら外回りから帰ってきたらしく、鞄をデスクに置いてコートを脱いでいる。
フロアには私と真山さんを含め結構な人数が残っており、皆一心不乱に手と足を動かしていた。
営業部もちらほら人が残っているのは見えたけれど、どうやら浅井さんはこちらを手伝ってくれるらしい。
真山さんは浅井さんにポンポンとファイルを渡していて、浅井さんもその量に驚いている。


「秋野さんも、手伝うよ」

「いえ、大丈夫です。真山さんもそうですけど、浅井さんもこれから飲み会でしょう? 私は大丈夫ですから行ってきてください」

「いや、これ絶対元々営業部の仕事もあるでしょ。うちのやつらがごめん。飲み会よりもこっちの方が大事。これ以上秋野さんに丸投げするとか無理だから」

「そうよ。飲み会とかもうどうでもいいわ。間に合えば走って行くから気にしないで。それより秋野さんこそ予定あるんでしょ?」

「はい……」

「それなら尚更分担した方が早いよ。だから貸して、俺やるから」

「……ありがとうございます」

「他にも急ぎの案件あったら俺やるから振って」

「秋野さん、三人でパパッとやって終わらせちゃおう」

「はい!」

浅井さんが手伝ってくれたおかげで、私も真山さんも思っていたよりも早く終えることができた。
自分の要領の悪さと無能具合に呆れてしまうけれど、二人がいてくれて良かった。


「ありがとうございました。おかげで早く終わりました」

「いやいや、元々こっちの案件だったからね。助かったよ。ありがとう」


時計を見ると、待ち合わせ予定の時間から一時間経ってしまっていた。
慌てて日向に


"遅くなってごめん!今終わりました!"


と送り、急いで帰り支度をする。
真山さんは


「二人ともごめん! 私急ぐから先帰る!」


と叫んで走っていく。
どうやら飲み会にまだ間に合うようだ。
疲れたからやけ酒してくると豪語した真山さんを見送り、鞄を持って立ち上がる。
私も早く行こう。


「そういえば秋野さんは予定あったんだよね。本当ごめん」

「いえ、気にしないでください。浅井さんこそ、飲み会行かないんですか?」

「まぁ、そんなに急がなくても顔出すくらいなら間に合うでしょ」

「はは、そうですね」

「うん。エントランスまで一緒に行こうか」

「はい」


荷物を持った浅井さんが私を待ってくれていて、その隣に並ぶ。
エレベーターを待っている間、ふと思い出したように


「予定って、あの彼氏さん?」


と聞いてきた。
"あの"という言葉に棘を感じてしまって思わず笑う。
私が思っている以上に、色んな人に"束縛彼氏"だと認識されていたようだ。


「あぁ……彼とは結構前に別れてて。今日は幼馴染と食事に行くことになってるんです」

「え、別れたの?」

「はい。色々あって」

「そう、だったんだ。大変だったんだね」


浅井さんはそう言いながらもなんだか嬉しそうに見える。
それを横目に不思議に思いながらも、エレベーターに乗ってから早足でエントランスまで向かった。


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