年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

文字の大きさ
24 / 33
第三章

お断りと報告

しおりを挟む

*****


「浅井さん、おはようございます」

「……秋野さん、おはよう。ごめんね、待ったでしょ」

「いえ、私もついさっき着きましたので」


翌朝、いつもより早めに家を出た私は、出勤前に駅前で浅井さんと待ち合わせをしていた。
昨日、日向が帰った後に浅井さんに


"お話ししたいことがあります"


と連絡したところ、朝出勤前に少し話そうと言ってくれたのだ。


「昨日のことだよね?」

「はい……」

「ここじゃ人が多いし、ちょっと場所移動しようか」


ありがたい提案に頷き、浅井さんの一歩後ろを歩いてカフェへ進む。
案内されたテーブル席でコーヒーを注文した。


「それで、聞かせてくれる?」

「はい。あの、昨日のお話なんですけど」

「うん」

「こんなこと、私が言える立場ではないと思うんですけど。私を口説く……というお話。申し訳ないんですけどお断りさせていただきたいと……思いまして……」


自分で言っておいてなんてことを言っているんだろうと恐れ多くなり語尾が縮こまる。


「……昨日、あの後彼氏でもできた?」

「え!?」

「お、当たり?」

「どうして……」

「いやぁ、そうじゃなきゃ昨日の今日でそんな深刻な顔で断りに来ないでしょ。秋野さん、真面目だから何日も考え込むタイプだと思うし」

「……よくご存知で……」

「結構秋野さんのこと、見てたからね。それに、秋野さんの気持ちが俺に向いてないことくらいわかってたから、昨日のはほぼ負け確定の賭けみたいなものだったし。当たればラッキーみたいな? だから、そんなに気にしなくていいよ。まぁ、昨日の今日で振られるとは思ってなかったけど」


面白そうに笑う浅井さんの本心がわからない。
まさかこんなあっさりとわかってくれるとは。
なんだかあれほど悩んで身構えていた自分が滑稽に見えて、拍子抜けしてしまう。


「そもそもあんなにキス拒絶されたの初めてだったし、あの時点で無理だなと思ったよ」

「あ、えっと……なんかすみません」

「いやいや、謝るのは俺の方だよね。好きでもない男から迫られて怖かったでしょ。ごめんね。もう絶対しないって約束するから」

「はぁ」

「だから、また仕事仲間としてよろしくしてもいい?」

「……はい」

「ありがとう」


浅井さんから差し出された手を軽く握って握手をする。

多分、私が必要以上に気にしないように明るく振る舞ってくれてるのだと思う。
そんな気遣いが申し訳ないと思うけれど、ここで私が謝るのは違う。
素直にその気持ちを受け取るのが正解だろう。
浅井さんは


「これくらいかっこつけさせてよ」


と言ってコーヒー代を払ってくれて、丁重にお礼を告げてそのまま一緒に会社まで行く。
途中で真山さんにも遭遇し、三人でわいわい言いながら出勤した。



「え!? ちょっと待って!? 何それどうなってんの!?私聞いてないんだけど!?」


フロアに向かう間、浅井さんが


「秋野さん、昨日彼氏できたらしいよ」


なんて言ったものだから、真山さんがものすごい勢いで私に詰め寄ってきた。
浅井さん、なんでこんなタイミングでバラすの!?
そう思ったけれど、


「昨日の今日で振られたせめてもの仕返し。じゃ、報告頑張ってー」


そんなことを私に耳打ちしながら浅井さんは楽しそうに私たちを置いて先に歩いていく。


「ちょっと秋野さん!? 聞いてないわよ!? あの幼馴染と!? ちょっと秋野さん!」


真山さんはそんなことにも気付かずに私の肩を思い切り揺さぶる。


「は、はい、そうです。でも真山さん、その話は後にしましょう? ね? ランチの時にちゃんと話しますから」

「いーや待てない! 今聞く! まだ始業まで時間あるから今聞くわ!」

「ちょっと、真山さ……揺らさないで……」


ぐわんぐわん頭を揺らされて酔いそうになりながら、真山さんに拉致られる。
そのまま昨日のことをほぼ吐かされたのは言うまでもない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上エリートは溺愛がお好き

藤谷藍
恋愛
(旧題:強引社長とフラチな溺愛関係!? ー密通スキャンダルなんてお断り、ですー) 素顔は物凄く若く見えるベイビーフェイスの杉野紗奈は、メガネをかけて化粧をすると有能秘書に早変わり。いわゆる化粧映えのする顔で会社ではバリバリの仕事人間だが、家ではノンビリドライブが趣味の紗奈。妹の身替りとして出席した飲み会で、取引会社の羽泉に偶然会ってしまい、ドッキリ焦るが、化粧をしてない紗奈に彼は全然気付いてないっ! ホッとする紗奈だが、次に会社で偶然出会った不愛想の塊の彼から、何故か挨拶されて挙句にデートまで・・・ 元彼との経験から強引なイケメンは苦手だった紗奈。でも何故か、羽泉からのグイグイ来るアプローチには嫌悪感がわかないし、「もっと、俺に関心を持て!」と迫られ、そんな彼が可愛く見えてしまい・・・ そして、羽泉は実はトンデモなくOOたっぷりなイケメンで・・・ 過去の恋の痛手から、一目惚れしたことに気付いていない、そんな紗奈のシンデレラストーリーです。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

処理中です...