年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来

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第四章

嫉妬-1



新郎新婦が中座している間、私は一人、トイレに向かっていた。
振袖だとトイレに行くのも本当に大変。
着崩れしていないか鏡でチェックしてから出ると、日向の姿が見えて声をかけようとした。


「──ひな」


しかし。


「ねぇ、それが元カノに対する態度?久しぶりに会ったのにさすがに冷たすぎない?」


日向の目の前にいた和歌さんに気が付き、慌てて口を塞いで死角に隠れた。


……私、何隠れてんの……。


でも。


"それが元カノに対する態度?"


そんな言葉を聞いて自然と身体が動いてしまったんだから仕方ない。
そっと二人の方を見ると、何やら揉めているようだった。


「だから──って言ってる──」

「でも──ちょっとくらい──いいじゃん──」

「まだ──にも──それに──」


あぁ、ダメだ。ここからじゃよく聞こえない。
そもそも、こんな風に隠れて聞こうだなんて間違ってる。
やめたやめた。早く会場に戻らないと。
だけど、そのためには二人の前を通らないといけない。
どうしよう……。
しばらく頭を悩ませていたけれど、ずっとここにいるわけにもいかないため意を決して会場に戻ろうと身体を翻す。


──しかし。


「……え……?」


内容はわからないけれど、二人はつい先ほどまで揉めていたはずなのに。
ふと視界に入った日向は、何故だか和歌さんを抱きしめるように腰を支えていた。

その光景が絵に描いたように綺麗で、私は呆然と立ちすくんでしまう。


「日向……?」


漏れ出た声に、日向はパッとこちらを見て目を見開く。


「夕姫……」


そして、慌てて和歌さんから手を離し私の方へ走ってきた。


「夕姫、いつから……」

「……」

「夕姫?」


私の肩に手を置こうとした日向から、一歩後ろに下がる。


「ご、めん。邪魔して。……私、先戻るね……」

「夕姫!」


日向が止める声を振り切り、私は足早にその場を立ち去る。
すれ違う時も和歌さんの顔を見られなくて、下を向いたまま逃げるように会場に戻った。


「トイレ混んでたの?」

「……うん。でも間に合って良かった」


お母さんに返事をして席に座る。
そのすぐ後に私を追いかけるかのように日向が急いで戻ってきたようだけれど、タイミング良く新郎新婦の入場のために照明が暗くなったおかげで話しかけてはこなかった。
今話しかけられても、まともに返事をできる自信がなかった。
自分の中で渦巻くドロドロとした黒い気持ち。
それが、嫉妬だということには自分でも気が付いていた。
お兄ちゃんと美春さんがキャンドルサービスにやってきてくれた時も、


「ユウ、楽しんでるか?」


そう声をかけてくれたお兄ちゃんに無理矢理笑顔を作って頷くことしかできなかった。
こんなの、お兄ちゃんにも美春さんにも失礼だ。

今は日向と和歌さんのことは気にしないで、この披露宴を楽しむことだけ考えよう。
そう頭の中で切り替えて、日向のことは視界に入らないようにして披露宴に集中した。


そして無事に披露宴が終わると、私は一人、タクシーで実家に戻ることにした。


「お母さん、ごめん。ちょっとお酒飲みすぎたみたい」

「あら、大丈夫?お父さんもお母さんもまだ帰れないんだけど……」

「大丈夫。ちょっと休んだらよくなると思うから。タクシーで先帰ってるね」

「わかったわ。気を付けてね」


そんなやりとりをしたのが十五分ほど前。
日向は私を探していたようだけど、どうやら二次会のために友人に捕まったらしくいつのまにか姿を消していた。
その間に私はタクシーに乗り込み、実家の住所を伝える。


「ふぅ……」


着慣れない振袖のせいか、気分が沈んでいるせいか。肩が凝ってしまって首を数回回す。
ため息をついて車窓から外を眺めると、夕焼けを過ぎた空は暗くなり始めていた。
流れゆく雲を見つめていると、スマホが震えて視線を下げる。
画面を見ると、日向からのメッセージだった。


"夕姫、今どこにいる?"


それを見て、少し悩んでから


"先帰ってる。二次会楽しんで"


と返事をした。
すぐに既読が付いたかと思うと、間を置かずに電話がかかってくる。
手の中で何度も震えるスマホ。
だけと今はタクシーの中だし、今電話に出たら感情を抑えられなくなりそうで。
そのまま出ずに画面を見つめていると、一度切れて再び震え出す。


「お客様、気にせず出ていただいて構いませんよ」


タクシーの運転手さんがそう言ってくれるけれど、


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


そう答えて鞄にしまった。


実家に戻ると、すぐに自室で振袖を脱いで部屋着に着替える。
昔お母さんに教えてもらった畳み方を思い出し、どうにか振袖を片付けることができた。
髪の毛だけ解いて、メイクはそのままでベッドに寝転ぶ。
目を閉じると、日向が和歌さんを抱き寄せている光景が浮かんでしまう。
わかってる。何か予期せぬことがあって、日向が和歌さんを支えただけだって。
わかってるのに、嫉妬心は消えてくれない。
それは多分、和歌さんが日向の元カノだという事実がそうしているのだと思う。
ただの知り合いだとか、学生時代の友人だとか、そのくらいなら気にしていなかった。
だけど、元カノが相手なら話は違う。
今も、もしかしたら二人で一緒にいるのかもしれない。


「……やだなあ……」


自分で逃げてきたくせに、黒い感情が湧き出てくる。
心の狭い自分が、大嫌いだ。
そのままどれくらい時間が経過したのだろうか。
玄関が開く音が聞こえて、両親が帰ってきたのかと思って起き上がる。
部屋の時計を見ると、帰ってきてからまだ一時間くらいしか経っていないようだった。
思ってたより早く帰れたのかな。
立ちあがろうとしたけれど、くらりと眩暈がしてベッドに逆戻り。
お酒を飲みすぎたと適当に言って帰ってきたけれど、あながち間違いではなかったようだ。

天井を仰ぎ見ながら目を閉じていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「……はい」


お母さんが様子を見に来たのかな。そう思って返事をすると、無言で扉が開いた音がした。



「お母さん、まだちょっと休みたい──」

「──夕姫」


お母さんだと思って話しかけたら、どうやら違ったらしく肩が跳ねた。
驚いて目を開けると、そこには私を見てホッとしたように座り込んだ日向がいた。


「……日向? なんで……」

「はぁー……マジで焦った。無事でよかった」

「え……?」


日向の言葉の意味がわからなくて、ゆっくり身体を起こした。
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