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第四章
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「二年か……長かったな……」
高台の、景色がよく見えるポイントに立って夕焼けを眺める。
結局あの後、龍雅は「わかった。でも無理だけはしないで」と言って私の頭を撫でてから帰って行った。
弟のように思っていた龍雅が、いつのまにか男の人になっていることに気付いて少し恥ずかしくなる。
そのひどく優しい手の温もりが、まだ頭に残っているような気がした。
その後ろ姿を見送りこの高台へやってきた私は、高台からの景色を眺めながらこの二年間の日々を改めて思い返してみた。
つらかった。苦しかった。何度泣いたかわからない。
だけど、命の尊さを知った。
当たり前の日常がどれほど素晴らしくてありがたいものだったのかを知った。
心が揺さぶられるほどの人の温かさを知った。
苦しくてたまらない中でも、お互いを信じられる人たちがいると知った。
わたしを支えてくれる人たちがいると知った。
温もりと優しさを分け与えてくれる人がいると知った。
それは、生きているからこそ知れたこと。
後遺症を患ったからこそ知れたこと。
わたしにとって、これは何よりも大切な人生の財産だと思う。
「これも、毎日よく続いたなあ」
家から持ってきた、わたしのこれまでの日記を開く。
つい一ヶ月ほど前までのページには毎日"今日も笑顔でおはようが言えた"としか書かれていない。
それが少しして、"今日はおはようが言えなかった"と変わってしまった。
でももう、こうやって毎日日記に文字を綴ることも無くなった。
しばらく何も書けなくなって、最後に書いた日記は、涙で文字が少し滲んでいた。
"もう、大雅に会いに行くのはやめる。わたしのエゴで大雅を苦しめるのはやめる。わたしが大雅を諦めれば、全部解決する。わかってたのに、それができなかった。でも、もう終わりにするから。大雅、ごめんね。今までありがとう"
それを書いた翌日から、大雅の元へおはようを言いに行くのをやめた。
でも習慣づいてしまったからか、全然それに慣れなくて身体が勝手に大雅の家の前で待とうとしたりもする。
その度に"違う、もうダメなんだった"と思い直して泣きそうになりながら学校に行くのだ。
朝は大雅が家を出てからわたしも出ようかと思った。だけど、そうすると奈子ちゃんと大雅が一緒に学校に向かうところを後ろから見ることになる。
それが嫌で、毎朝早めに家を出た。
紫苑が先に登校しているわたしを見てどうしたの!?と心配してくれたのも記憶に新しい。
日記を読みながら、一ページずつゆっくりと別れを告げるように破いていく。周りからの視線なんて全く気にならない。
一つ一つ噛み締めながら、最後のページをゆっくりと破ったあと。
全部の紙を一つのボールのようにぐしゃぐしゃに丸めて、近くにあった自動販売機の横にあるゴミ箱に捨てた。
こうやって大雅のことを忘れて生きていくのが正解なのだろう。
そう思いながら日記を破り捨てたら、なんだかスッキリした気がした。
紫苑と龍雅と透くんにも、ちゃんと謝って改めてお礼をしなくては。
あの三人は特に私を心から心配してくれて、大雅がわたしのことを思い出せるように協力してくれたり見守ってくれたりした。
感謝しても仕切れないくらい、よくしてもらっている。
「……もう、ここに見にくるのも今日が最後だな」
呟く独り言は、誰にも拾われることがないまま地に落ちる。
だんだんと暗くなっていく空には、もうすぐきれいな花火が咲くだろう。
去年、大雅を想って一人で見にきた花火大会。
ここにきたら大雅が"芽衣!"って呼んできてくれるんじゃないかって期待してた。
だけど、そんなこと起こるはずもなくて。
虚しくて、悲しくて、切なくて苦しくて。
とても最後まで見られなくて、途中で帰ってしまった。
でも、今年は最後まで見たい。
もう、大雅とは一緒に観られないであろう綺麗な景色を、目に焼き付けておきたい。
こんなに綺麗だったんだよって。一緒に見れたらどれほど良かっただろうって。
心に刻みこむんだ。
時間が経つごとに思いのほか周りに人も増えてきて、二年前は穴場スポットだったのにと笑いそうになる。
こんな日に、こんなところで一人でいるのはわたしくらいだろう。
どうやらSNSでここから花火が綺麗に見えると噂になったらしく、今年はやけに人が多かった。
時刻は午後八時。
すっかり暗くなったころ、今か今かとその時を待つ周りの人たちの中で、わたしは一人でじっと空を見つめていた。
そして。
ヒュー……と立ち上る小さな光。
それが、ドンッ……!と大きな音と共に弾け、大輪の花を咲かせたとき。
「……さよなら、大雅……」
それを見つめていたわたしの頬に、涙がそっと流れ落ちていったのを感じた。
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