いつかまた、キミと笑い合いたいから。

青花美来

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第四章

30 大雅side

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紫苑と透に背中を押されて走り出したものの、芽衣がどこにいるかなんてはっきりとはわからなかった。

花火はもうすでに上がり始めていて、ドンという音と共に辺りが明るくなったり暗くなったりで視界が安定しない。皆その場で足を止めて空を見つめたりスマートフォンのカメラを構えたりしている。

そんな花火には目もくれずに真っ直ぐ走っているのは多分俺だけで。

芽衣、芽衣。今まで本当にごめん。すぐに行くから。

だから頼む。

もう少しだけ、そこにいてくれ。どうしても今聞いてもらいたいことがあるんだ。

汗を滲ませながらもとにかく前に進む。

しかし芽衣がいるのは町外れの高台ということしか知らない。それがどこなのか、二年前のあの日にちゃんと芽衣に聞いておくべきだった。

ひとまず俺と芽衣が事故にあったコンビニの前を目指して走った。

その途中、


「兄ちゃん!」


龍雅の声が聞こえて思わず足を止める。


「兄ちゃん、どこ行くんだよ」

「龍雅……」


龍雅に殴られて以来、まともに顔を合わせていなかった俺たち。

数日ぶりの龍雅は、泣いたのか少し目が赤くなっていた。


「お前、泣いたのか?」

「うるっせぇよ。兄ちゃんには関係ねぇだろ。それよりどこ行くんだよ」

「……芽衣に、会いに行く」


答えると、龍雅は目を見開いて、それから頭を掻いた。


「ほんっと……なんでお前らは二人ともそうやってすれ違うんだよ……」

「どういう意味だ?」

「……さっき、芽衣に会ってきた」

「どこで!」

「兄ちゃんたちの事故現場。……芽衣、今にも泣きそうなのに堪えてた。自分の気持ちに、けじめつけてくるって言ってた」

「自分の気持ちに……けじめ」

「多分、二年前に兄ちゃんと行くはずだったところに行ってるんだと思う。……追いかけるつもりか?」

「あぁ」

「芽衣は、自分のことを兄ちゃんにとっての邪魔者だって言った。兄ちゃんの前から消えるって言ってた。泣きそうなのに、笑ってそう言ってた」

「っ……」

「どうしても芽衣のところに行きたいなら、それ相応の覚悟をしろ。生半可な気持ちじゃ、芽衣がもっと傷付くだけだ」

「……わかってる」


龍雅が、俺を行かせたくないのをひしひしと感じる。

また俺が芽衣を傷付けると思っているのだろう。当たり前だ。

でも、それでも、俺は行かなきゃいけない。


「龍雅、俺を本気で殴ってくれてありがとう。俺に怒鳴りつけてくれてありがとう。おかげで目が覚めた。覚悟ができたんだ。今度こそ、俺が芽衣を支えたいんだ」


真っ直ぐに龍雅を見つめて言うと、龍雅はしばらく見つめ返した後に諦めたようにフッと笑う。


「……あー、馬鹿馬鹿しい。なんだよ、二人揃って俺にお礼なんて言うなよ。本当、お前ら似た者同士すぎるんだよ……」

「龍雅」

「行けよ。まだ間に合うはずだから。早く行かないと、花火大会が終わっちまう。そうしたら、もう本当に終わりだ」

「……龍雅、ありがとう!」

「っ……帰ってきたらアイス一ヶ月分奢らせるからな!芽衣のこと泣かせたら許さねぇからな!」


龍雅の声を背中に浴び、片手で返事をして走り出す。


「アイス一ヶ月分じゃ足りねぇくらいだよ……」


思わず笑いが込み上げてしまったのは、龍雅はやっぱり龍雅だと思ったからかもしれない。

龍雅が、昔から芽衣に対して幼馴染以上の感情を持っていることは気付いていた。

だけど、俺も芽衣に対して同じ気持ちを持っていたから、譲る気なんてさらさら無かった。

だけど、この二年間で龍雅は頼れるかっこいい男になった。俺なんか、比べるにも値しないくらいだ。

だけど自分の気持ちを押し殺して俺の背中を押してくれた龍雅。

もしかしたら、まだ俺にも望みがあるのかもしれない。

ありがとう。ありがとう、龍雅。

どんな結果になろうとも、落ち着いたら食べきれないほどのアイスを買ってやるよ。

だから、また昔みたいに芽衣と三人でアイスを食べような。

心の中でもう一度龍雅にお礼を告げて、俺は今度こそ芽衣を探しに事故現場に向けて走って行った。

数分後、そこに着いて辺りを見回したもののやはり芽衣の姿は無い。

にしても人が多いな……。

事故現場を見ると二年前のことを思い出して吐きそうにもなるけれど、今はそれどころじゃない。

どこだ。その高台はどこだ……?

高台って言うからには、山の方か?

それならあっちの方か……?でも向こうは暗いし、一体どこなんだ?

ダメだ、人が多すぎるし辺りが暗いからよく見えない。

花火が上がった一瞬の光を頼りに高台を探すのは困難だった。

そうしている間に、どこからか俺を呼ぶ声がした。


「──あれ?大雅くん?」

「……奈子?」


今日はよく人に会う。早く行きたいのに、もどかしさが募る。


「どうしたのー?今日は用事があったんじゃないの?」


綺麗な花柄の浴衣に身を包んだ奈子は、女友達と一緒に花火を見にきたのか、コンビニから飲み物を買って出てきたところらしい。

思わず足を止めてしまった俺の元へ駆け寄ってきた奈子は、心配そうに俺を見つめてきた。

浴衣に合わせた髪飾りがきらきらと光を反射させていて、一段と派手なその姿に圧倒されてしまう。


「まぁ、な」

「用事は終わったの?」

「いや、まだ」

「……そっかあ」


そういえば先週奈子に花火大会に一緒に行こうと誘われたけど、全然興味が無くて"用事があるから"って言って行くのを断っていたんだっけ。


「奈子は、花火?」

「うん」


もしかしたら高台のことを知っているだろうか。

そう思って聞こうとした時、奈子が口を開いた。


「向こうにある高台で花火が綺麗に見えるって噂になってるから行こうと思ってたんだけど、すっごい混んでたからやめたの」

「え?」

「二年くらい前までは全然人もいなくて穴場だったらしいんだけど、誰かがSNSに花火の動画投稿したら一気に有名になっちゃったんだって。まぁ、わたしたちもその動画見て知って来たんだけどね」


人多過ぎてすごかったよねー、なんて友達と笑い合っている奈子の肩を掴み、


「それっ……その高台って、どこだ!?」


驚く奈子に詰め寄る。


「え……大雅くん?」

「それ、どうやって行けばいい!?」

「え、なんで……」

「いいから早く!」

「っ……えっと……この道を真っ直ぐ行って、三つ目の信号を曲がった先に入り口があるけど……」


指差された方向は山に続く道で、その先は街灯も無くて真っ暗だ。

教えてもらわなければそこにそんな高台への道があるなんて気が付かないだろう。

言われてみれば、確かに向こうの方はさらに人が多いように見えた。


「さんきゅっ……」

「ちょっと大雅くん!?」


向こうに芽衣がいるはずだ。急がないと。

衝動的にそのまま走り出しそうになった俺の服をぎゅっと掴んだ奈子。


「どうしたの?高台に何か用事?」


焦ったような声色に、俺ははやる気持ちを抑えて深呼吸をした。


「……人を、探してるんだ」

「人?……でもすごい混んでたから見つけるのは大変だと思うよ。今はやめといた方がいいんじゃ……」

「──今じゃなきゃダメなんだよ!」

「っ!……大雅くん、どうしたの?」


俺が声を荒げると、肩を跳ねさせて驚いた奈子。


「ごめんっ……でも、どうしても今じゃなきゃダメなんだ。これ以上、後悔したくないんだ」


ごめん、奈子。そんな顔をさせたいわけじゃない。奈子を怯えさせたいわけじゃないんだ。違うんだよ。

でもごめん。俺が今求めてるのは奈子じゃない。今までもこれから先も、芽衣だけなんだ。

覚悟を決めたんだ。今度こそ、俺が芽衣を支えるんだって。

わかってくれとは言わない。だけど、今すぐその手を離してほしい。


「……奈子、俺はやっぱりお前の気持ちには応えられない。ずっと昔から好きな人がいるんだ。ごめん。勝手ににすればいいって野放しにしてたけど、俺と付き合ってるとか変な噂流すのはもうやめてくれ。正直迷惑だから。じゃあ、俺もう行くから」

「大雅くん……!?ちょっと待って!?」


呼び止める奈子の悲痛な声を振り切り、俺は高台に向けてまた走り出した。
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