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Chapter3
3-1
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それから何度か哲平と康平の打ち合わせがあり和葉と康平の様子にハラハラしていた哲平だったものの、電話で話し合えるものは電話で済ませたりとなるべく二人を合わせないように気を遣ったからか、そこまで大きな問題も起きずに数週間が経過した。
そして哲平の仕事は一旦終わり、後は康平の出番のためひと段落がついた。
由美がそんな哲平とついでにと和葉を誘い、プチ慰労会と称して仕事終わりに飲みに行くことになっている。
哲平は久し振りの飲みの席にワクワクしながらも和葉もいることでソワソワと落ち着かない雰囲気だった。
和葉は和葉で珍しく楽しみな様子で、三人とも仕事を猛スピードで終わらせた。
「よーし、行こーう!」
由美の声に和葉と哲平が呆れながらも笑ってついていく。
着いたお店は個室の居酒屋で、料理もお酒も美味しくて由美と哲平は上機嫌。和葉も楽しそうな二人を見てにこにこと笑っていた。
「そう言えばさ、和葉ちゃんは哲平の打ち合わせ相手と知り合いなの?」
「えっ……どうしてですか?」
「だって彼、いっつも来る度に和葉ちゃんのこと探してるみたいだったから」
由美の言葉に目を泳がせる和葉。
「……知り合いは知り合いですけど、私嫌われてるんで」
そう言ってお皿に盛られた料理を食べ進めた。
由美はお酒が入ると若干空気が読めなくなるタイプのようで、哲平が話を逸らそうとしても中々その話題から離れてくれない。
「何それー、嫌われてるって?こーんなに可愛い和葉ちゃんを嫌いな男なんているわけ!?あの男一体何様よ!?」
「いや、ちょっ、由美さん!?そういうのいいですから……」
「良くなーい!」
由美はそれからしばらく和葉がどれだけ可愛いかを力説し始めて。
どうにも恥ずかしくて居たたまれなくなった和葉を哲平が慰めたのだった。
その帰り道。
やっぱり由美はタクシーで帰ると言い、哲平に和葉を任せて去って行った。
そのまま送って帰ろうかと思っていたものの明日は土曜日で会社も休み。なんだか勿体無いような気もして。
「もう一軒付き合ってくんない?」
と和葉を誘った。
着いたのはお洒落なバーで。店内はカーテンのようなものがパーテーション代わりになっており、ローテーブルとローソファーがある半個室のようになっていた。
「私、バーなんて初めて来ました。バーってカウンターだけのイメージでしたけど、こういうお店もあるんですね。凄くお洒落」
「俺もたまにしか来ないけど、敷居が高いわけじゃないしここ落ち着くんだ」
通されたソファー席で並んで座る。
「ここはフルーツのジュースも搾りたてで美味しいから、アルコール無理でも大丈夫だよ」
「そうなんですか。じゃあ、このベリーミックスにします」
「おっけ」
注文して、運ばれて来たグラスを持って小さく乾杯をする。一口飲んで、甘酸っぱいベリーの味に思わず顔が綻んだ。
「へぇ。後藤もそんな顔できるんだ」
「なっ、なんですか、そんな顔ってどんな顔ですか」
「ん?かわいー顔」
「なっ!」
ほろ酔い気味だからか、いつもより大分甘い言葉を吐いてくる哲平に、シラフの和葉はタジタジだった。
赤く染まっていく頰を隠すようにジュースをまた一口飲むものの、隣ではにこにこ笑っているのが目に入る。
「(調子狂うなぁ)」
ソファーに背を預けて身を沈めると、間接照明の灯りが柔らかな色合いのカーテンに遮られ、薄暗くてなんだか落ち着いた。
哲平もハイボールの入ったグラスを置いて同じように身を沈める。
「な?落ち着くだろ」
「……はい。素敵なお店ですね」
小さく頷くと、哲平は優しく微笑んだ。
「……彼から、何か聞きましたか?」
突然脈絡無く口を開いた和葉に、哲平は驚いた。
「……その反応、やっぱり聞いちゃったんですね」
「詳しいことは何も聞いてないよ」
「そう、ですか」
「うん」
沈黙。
店内の柔らかなBGMが妙に哲平の心臓の鼓動を早くした。
「知りたいですか?」
「え」
「知りたいですか?どうして私が、彼に恨まれてるか」
「……」
このまま余計な口を挟まずに素直に知りたいと言えば、教えてくれと言えば、和葉は話してくれるのだろうか。
そこまで考えて、哲平は目を伏せてから首を横に振った。
和葉が驚いたような顔をして、哲平を見つめる。
「……話さなくていいから。話したくないことは話さなくていい。だから俺の前では無理して笑うな」
頭にポンと乗った大きな手に、和葉は目を見開いてからフッとその表情を緩め、
「中西さんは、やっぱりずるいです」
ふにゃりと溶けるような笑みを見せた。
和葉の笑顔を見て一気に酔いが覚めて綺麗に固まってしまった哲平の目の前でひらひらと手を動かす。
「……中西さん?大丈夫ですか?え、中西さん?」
「……え、あ、あぁ。大丈夫大丈夫」
あまりの破壊力に哲平の顔は熱を持つ。
理性が働かなかったら危うく押し倒しているところだった。
そんな邪心を酒を飲んで消してしまおうとグラスに残っていたハイボールを飲み干した。
「彼はどんなことを、言っていましたか?」
「……そうだな。昔は仲が良かったとか。でも今は恨んでいるんだ、とか。
……後藤が、【私を許さないで】って言ったとか」
康平との会話を思い出して言うと、和葉はハハッと呆れたように、困ったように笑った。
「昔は仲良くなんて、嘘っぱち。ずっと昔から、私のこと嫌いだったくせに」
自嘲的な笑みを浮かべながらベリーミックスを飲んだ和葉に、哲平は何も言うことができなかった。
だってその言い方は、【私を許さないで】と言ったのは本当だということだから。
バーを出て時計で時間を確認すると既に0時を回っていた。
「こんな時間まで付き合わせてごめん」
「いいえ、一人暮らしなんで特に問題無いです」
「そう言えばそうだったな。もう終電無いしタクシー乗るだろ?乗り場あっちだから行こう」
2人で並んで歩く帰り道はいつも1人で通るより大分早く過ぎていく。
タクシーを拾うため、乗り場までゆっくりと歩いていた。
「今日は楽しかったです。お誘いありがとうございました」
タクシー乗り場で律儀に頭を下げた和葉に、哲平はポンポンと頭を撫でる。
「それは由美にでも言ってやれ。俺の方こそ無理矢理二軒目付き合わせて悪かったな」
「そんなことないです。……あの!……また誘ってください。ベリーミックス、とても美味しかったのでまた飲みたいです」
そう言って顔を綻ばせた和葉を見てその可愛らしさに今すぐ抱きしめたい衝動に駆られ、必死に理性と戦う。
「じゃあまた近いうち行こうか」
「はい。じゃあ、失礼します。おやすみなさい」
「おうお疲れ。おやすみ」
車に乗り込んだ和葉を見送って、哲平も後続車に乗って帰路に着いた。
そして哲平の仕事は一旦終わり、後は康平の出番のためひと段落がついた。
由美がそんな哲平とついでにと和葉を誘い、プチ慰労会と称して仕事終わりに飲みに行くことになっている。
哲平は久し振りの飲みの席にワクワクしながらも和葉もいることでソワソワと落ち着かない雰囲気だった。
和葉は和葉で珍しく楽しみな様子で、三人とも仕事を猛スピードで終わらせた。
「よーし、行こーう!」
由美の声に和葉と哲平が呆れながらも笑ってついていく。
着いたお店は個室の居酒屋で、料理もお酒も美味しくて由美と哲平は上機嫌。和葉も楽しそうな二人を見てにこにこと笑っていた。
「そう言えばさ、和葉ちゃんは哲平の打ち合わせ相手と知り合いなの?」
「えっ……どうしてですか?」
「だって彼、いっつも来る度に和葉ちゃんのこと探してるみたいだったから」
由美の言葉に目を泳がせる和葉。
「……知り合いは知り合いですけど、私嫌われてるんで」
そう言ってお皿に盛られた料理を食べ進めた。
由美はお酒が入ると若干空気が読めなくなるタイプのようで、哲平が話を逸らそうとしても中々その話題から離れてくれない。
「何それー、嫌われてるって?こーんなに可愛い和葉ちゃんを嫌いな男なんているわけ!?あの男一体何様よ!?」
「いや、ちょっ、由美さん!?そういうのいいですから……」
「良くなーい!」
由美はそれからしばらく和葉がどれだけ可愛いかを力説し始めて。
どうにも恥ずかしくて居たたまれなくなった和葉を哲平が慰めたのだった。
その帰り道。
やっぱり由美はタクシーで帰ると言い、哲平に和葉を任せて去って行った。
そのまま送って帰ろうかと思っていたものの明日は土曜日で会社も休み。なんだか勿体無いような気もして。
「もう一軒付き合ってくんない?」
と和葉を誘った。
着いたのはお洒落なバーで。店内はカーテンのようなものがパーテーション代わりになっており、ローテーブルとローソファーがある半個室のようになっていた。
「私、バーなんて初めて来ました。バーってカウンターだけのイメージでしたけど、こういうお店もあるんですね。凄くお洒落」
「俺もたまにしか来ないけど、敷居が高いわけじゃないしここ落ち着くんだ」
通されたソファー席で並んで座る。
「ここはフルーツのジュースも搾りたてで美味しいから、アルコール無理でも大丈夫だよ」
「そうなんですか。じゃあ、このベリーミックスにします」
「おっけ」
注文して、運ばれて来たグラスを持って小さく乾杯をする。一口飲んで、甘酸っぱいベリーの味に思わず顔が綻んだ。
「へぇ。後藤もそんな顔できるんだ」
「なっ、なんですか、そんな顔ってどんな顔ですか」
「ん?かわいー顔」
「なっ!」
ほろ酔い気味だからか、いつもより大分甘い言葉を吐いてくる哲平に、シラフの和葉はタジタジだった。
赤く染まっていく頰を隠すようにジュースをまた一口飲むものの、隣ではにこにこ笑っているのが目に入る。
「(調子狂うなぁ)」
ソファーに背を預けて身を沈めると、間接照明の灯りが柔らかな色合いのカーテンに遮られ、薄暗くてなんだか落ち着いた。
哲平もハイボールの入ったグラスを置いて同じように身を沈める。
「な?落ち着くだろ」
「……はい。素敵なお店ですね」
小さく頷くと、哲平は優しく微笑んだ。
「……彼から、何か聞きましたか?」
突然脈絡無く口を開いた和葉に、哲平は驚いた。
「……その反応、やっぱり聞いちゃったんですね」
「詳しいことは何も聞いてないよ」
「そう、ですか」
「うん」
沈黙。
店内の柔らかなBGMが妙に哲平の心臓の鼓動を早くした。
「知りたいですか?」
「え」
「知りたいですか?どうして私が、彼に恨まれてるか」
「……」
このまま余計な口を挟まずに素直に知りたいと言えば、教えてくれと言えば、和葉は話してくれるのだろうか。
そこまで考えて、哲平は目を伏せてから首を横に振った。
和葉が驚いたような顔をして、哲平を見つめる。
「……話さなくていいから。話したくないことは話さなくていい。だから俺の前では無理して笑うな」
頭にポンと乗った大きな手に、和葉は目を見開いてからフッとその表情を緩め、
「中西さんは、やっぱりずるいです」
ふにゃりと溶けるような笑みを見せた。
和葉の笑顔を見て一気に酔いが覚めて綺麗に固まってしまった哲平の目の前でひらひらと手を動かす。
「……中西さん?大丈夫ですか?え、中西さん?」
「……え、あ、あぁ。大丈夫大丈夫」
あまりの破壊力に哲平の顔は熱を持つ。
理性が働かなかったら危うく押し倒しているところだった。
そんな邪心を酒を飲んで消してしまおうとグラスに残っていたハイボールを飲み干した。
「彼はどんなことを、言っていましたか?」
「……そうだな。昔は仲が良かったとか。でも今は恨んでいるんだ、とか。
……後藤が、【私を許さないで】って言ったとか」
康平との会話を思い出して言うと、和葉はハハッと呆れたように、困ったように笑った。
「昔は仲良くなんて、嘘っぱち。ずっと昔から、私のこと嫌いだったくせに」
自嘲的な笑みを浮かべながらベリーミックスを飲んだ和葉に、哲平は何も言うことができなかった。
だってその言い方は、【私を許さないで】と言ったのは本当だということだから。
バーを出て時計で時間を確認すると既に0時を回っていた。
「こんな時間まで付き合わせてごめん」
「いいえ、一人暮らしなんで特に問題無いです」
「そう言えばそうだったな。もう終電無いしタクシー乗るだろ?乗り場あっちだから行こう」
2人で並んで歩く帰り道はいつも1人で通るより大分早く過ぎていく。
タクシーを拾うため、乗り場までゆっくりと歩いていた。
「今日は楽しかったです。お誘いありがとうございました」
タクシー乗り場で律儀に頭を下げた和葉に、哲平はポンポンと頭を撫でる。
「それは由美にでも言ってやれ。俺の方こそ無理矢理二軒目付き合わせて悪かったな」
「そんなことないです。……あの!……また誘ってください。ベリーミックス、とても美味しかったのでまた飲みたいです」
そう言って顔を綻ばせた和葉を見てその可愛らしさに今すぐ抱きしめたい衝動に駆られ、必死に理性と戦う。
「じゃあまた近いうち行こうか」
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