【第一部完結】魔王暗殺から始まった僕の異世界生活は、思ってたよりブラックでした

水母すい

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二人旅編

10.異世界一人旅(仮)

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 めでたしめでたし⋯⋯なんて終われるか。
 まだ資金を入手しただけだろうが。
「またおいでねー」
「ありがとうございます」
 まあ何はともあれ、それなりの金になって良かった。
「次は服屋⋯⋯ いやその前に」
 猛烈に腹が減っている。騎士団の人達と遭遇してから、もう何も食べていない。
 ちなみに言い忘れていたが、魔王城に潜伏していたときは城の食材をこっそり盗み出して食べていた。割と高そうな飯を食っていたから味に文句はなかったのだけど。
「腹が減っては戦は出来ぬ、だ」
『さっきは空腹の割に動けていたではないか』
「気にするな」
 久々にちゃんとしたご飯が食べたいだけだ。
 ⋯⋯ということで、僕は町の飲食店に立ち寄り、無難にピザトーストっぽいものを頼んだ。
 ちなみにピザトーストは480エルド。
 だいたい一枚一円くらいの価値らしい。
「冒険者っぽい人たちもいるな⋯⋯」
『歯応えのなさそうな雑魚ばかりだな。皆殺しにしてやりたいぐらいだ』
「見た目的には僕の方が雑魚っぽいけどな」
 彼らを見ていて思ったが、剣とか弓は普通に見えるところに装備していても大丈夫みたいだ。
 銃刀法なんてクソ喰らえということか。
「お待たせいたしました、ピザトーストになります」
 テラス席に座っていた僕のもとに、やはりやたら美味しそうなピザトーストは届いた。
 トマトソースとバジル、チーズがこれでもかというほどにトーストに乗っかっている。大きさの割に胃に溜まりそうなボリュームだ。
「いただきます」
 一口かじる。思ったよりトマトの酸味が強く、甘ったるい感じはしない。溶けたチーズもとろとろでよく舌に絡みつく。トーストもよく焼けていて、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「美味いな~」
 脳内で色々食レポしても、口から出るのはこの一言だけだ。いつの間にアサシン思考になってしまったのだろう。
「久々に人道的な食事ができた~」
『貴様、今度会ったら食費を要求してやろう』
「一銭も払うかよ」
 魔族に素直に借金を返済する馬鹿がどこにいる。
 トースト一枚とは思えないほどのエネルギーを蓄え、僕は食器を返却して街道に戻った。
「さてと、本題に戻るか⋯⋯」
 魔王城に奴隷を運ぶ奴隷商をころしに行く。たくさんの人を犠牲にしておきながら呑気に暮らしている悪人は、人間であろうと許せない。
 早速情報収集から始めようと思ったが、やっぱりまずは⋯⋯
「服屋だ服屋」
『寄り道が多いな』
「だまれ」
 いつの間にかジェイルが自分の脳に馴染んでいる。これは結構まずいんじゃないか?
「服って言ってもな⋯⋯」
 現実世界よりもずっと在庫と種類が少ない。まあ、この世界の人々があまり何着も服を持っていないからだろう。
 そして僕はそっち系のセンスが全くもってない。
「何をお探しですか?」
「あー、この服に似合う上着みたいなのあります?」
「それでしたら⋯⋯」
 もう一からコーディネートするのはめんどくさい。夜は半袖だと寒い(普通に死ぬ)から、上着だけでも買っておきたい。
「こちらはどうでしょうか?」
 店員が持ってきたのは、深緑色のローブだった。
 試しに試着してみると、意外と中に質素なシャツを着込んでいても様になる。
「ほえー。なんか強そうに見える」
『その発言が既に弱者だな』
 いかにも異世界って感じだ。厨二っぽいけど。
「これ、買っていきます」
「ありがとうございます! そのまま着ていきますか?」
「はい」
 ローブ一着で3750エルド。
 ⋯⋯値段設定がリアル。
「店員さん、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「はい、なんでしょう?」
「この辺で、奴隷を扱ってる商人っていたりしますか?」
 勢いで聞いてしまったが、さすがに怪しまれるかもしれない。
「奴隷商のことでしょうか? それならこの町にも何人かいますね。格安って悪名高い連中ばかりですよ」
「そうですか⋯⋯」
 確かに、奴隷の商売なら売り手は人間でも全然成り立つ。それなのにあの量の人々を魔王城に差し出すということは、それなりに見返りがあるからだろうか?
「お客様、もしかして奴隷の購入を希望されてたり⋯⋯」
「しませんよ。ただちょっと聞いてみただけです。それじゃあ」
「ありがとうございました!」
 店員さんの表情からして、やはり奴隷の売買には世間は否定的らしい。
 まあそりゃあそうか。人身売買なんてどの時代もやってみるもんじゃない。
「魔王城に運ぶってなったら、人目はさけるよな⋯⋯」
 再び街道に戻り、ぶらぶらと道を練り歩く。
 時間はだいたい昼過ぎくらいか。異世界とは言っても街並みは中世ヨーロッパそのものだし、人々の暮らしは当時と変わらない。
 本当にこれが転生ものだったらどんなに良かったことだろうか。
「はぁ⋯⋯ ちょっと地道すぎるな」
 手がかりが無いわけではないが、あまりにも煩わしい課程は僕の苦手分野だ。なるべく手っ取り早く済ませたい。
 異世界に一人、人脈はほぼない。
 なにか手は⋯⋯
「⋯⋯子供?」
 いや僕も子供ですけど。そういうことじゃなく。
 建物の間の路地に、痩せこけた少年が一人横たわっていた。いわゆる孤児だろう。道行く人は彼を無視して進んでいく。
 立ち止まって様子を見ていたが、やがて路地の奥からやって来た小太りの男に連れ去られた。
 彼はもう抵抗する力もないのか、腕を引っ張られて引き摺られていく。
「(追ってみるか⋯⋯)」
 こういうときにも、このスキルは役に立つ。
 〈隠密ステルス〉を発動し、路地を進んでいく。路地は朽ち果てた家具や積み上げられた木箱などが散乱していた。
 人が一人やっと通れるくらいの細い路地をついていき、そこを抜けると住宅街を抜けてまたあの森のすぐ前に出た。
 そこにあったのは、大きめの馬車が二台。そのすぐ側で聴こえる声は、どれも口調が強く荒々しい。
「(! あの子だ⋯⋯)」
 さっきの少年も、その馬車の二台に乱雑に放り込まれる。
「(奴隷商か⋯⋯)」
 僕はあの馬車には見覚えがあった。まさしく魔王城に発着していたそれだ。
『奇妙な巡り合わせというのもあるものだな』
「(ほんとだよ)」
『それで? 貴様はどうするんだ? このままその短剣で一刺しか?』
「⋯⋯」
 奴らがもっと根本的に救いようのないクズ人間であれば、僕はきっと躊躇わなかっただろう。けど当然状況は違う。
 ――殺人鬼でもない僕は、まだ彼らを殺せない。
「(だったら、今すべきなのは⋯⋯)」
 考えあぐねた末に、僕は〈隠密ステルス〉を解除した。
「あの、すみません」
「ああ?」

「僕を護衛として雇ってはいただけませんか?」
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