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番外編SS
1.死後
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「魔王がやられただと? ばっ、馬鹿な、殺ったのはどこのどいつだ!!」
魔王城幹部の一人、ファルべが声を荒らげて私のもとへ向かってくる。その瞳は驚きの色に染まり、大きく揺れ動いていた。
「主犯は人間の少年。手口は武器庫にあった短剣で頸を一刺しだ」
「少年⋯⋯だと? 巫山戯るな!! 見張りの兵は何をしていた!!」
「見張りもきっちりトドメまで刺されていた。恐らく、こちらの内部事情を事前に下見していたのだろう。あの歳にしては手際が良すぎる――」
「奴は、あのお方を殺した犯人は今どうしている? まさか逃がしてはいないだろうな!? ジェイル、答えろ!!」
彼の震える手が肩を掴む。
事態を受け入れ切れていないのか、はたまた不安で誰かに縋ろうとしているのか。
「犯人はその場で私が捕らえた。これは事実だ。私の能力で精神を支配してある。もう余計な動きはとれないだろう」
「⋯⋯そうか」
声色は安堵で落ち着いていたが、まだどこかやり切れない表情が張り付いている。それもそうか。
彼――ファルべは、次の魔王になる男だ。
⋯⋯精神面では未だ未熟だったりするが。
「おのれ、絶対に許さん!! 彼奴だけは!!」
「安心しろ。ありったけの手段で拷問して情報を吐かせる。奴に指図した主犯を特定したのち、我々で報復を行う。それでいいな?」
「⋯⋯わかった。それなら納得がいく、あのお方の仇は絶対に私が!」
「ファルべ、あまり気負うな。次に魔王の座を継ぐのはお前だが、今回のようなことは二度とはいかない」
「わかっている。⋯⋯信頼しているぞ、監獄長」
決意の表情で私の肩を叩いて、ファルべは横を通り過ぎていった。背後で彼の足音が遠のいていく。
――そう、二度とは起きない。
今回の事態は魔族と人類の戦いの歴史において非常にイレギュラーなものだ。魔族たちが皆心を揺れ動かすのは無理もない。
確かに、魔王にはその「予兆」はあったように思う。数週間前から彼は重篤な魔力不足と心身の衰弱に陥っていたのだ。犯人はそれをも見越していたとしか言い様がない。
⋯⋯と、大方の連中は思っていることであろう。
魔王の殺害はすべて人間側の仕組んだことであると。
人間側は魔王の重篤な容態を把握していたと。
だが実際は違う。
この城で、誰一人「彼」の存在には気づいていなかった。
門兵たちが目撃したのも、姫の見張り番を葬り去ったのも、武器庫から短剣とナイフを持ち去ったのもすべて「彼」だということには、気づいていなかった。
私以外は気づいていない。
すべてが私の思惑通りに進んでいることも、誰も知らない。
魔王城幹部の一人、ファルべが声を荒らげて私のもとへ向かってくる。その瞳は驚きの色に染まり、大きく揺れ動いていた。
「主犯は人間の少年。手口は武器庫にあった短剣で頸を一刺しだ」
「少年⋯⋯だと? 巫山戯るな!! 見張りの兵は何をしていた!!」
「見張りもきっちりトドメまで刺されていた。恐らく、こちらの内部事情を事前に下見していたのだろう。あの歳にしては手際が良すぎる――」
「奴は、あのお方を殺した犯人は今どうしている? まさか逃がしてはいないだろうな!? ジェイル、答えろ!!」
彼の震える手が肩を掴む。
事態を受け入れ切れていないのか、はたまた不安で誰かに縋ろうとしているのか。
「犯人はその場で私が捕らえた。これは事実だ。私の能力で精神を支配してある。もう余計な動きはとれないだろう」
「⋯⋯そうか」
声色は安堵で落ち着いていたが、まだどこかやり切れない表情が張り付いている。それもそうか。
彼――ファルべは、次の魔王になる男だ。
⋯⋯精神面では未だ未熟だったりするが。
「おのれ、絶対に許さん!! 彼奴だけは!!」
「安心しろ。ありったけの手段で拷問して情報を吐かせる。奴に指図した主犯を特定したのち、我々で報復を行う。それでいいな?」
「⋯⋯わかった。それなら納得がいく、あのお方の仇は絶対に私が!」
「ファルべ、あまり気負うな。次に魔王の座を継ぐのはお前だが、今回のようなことは二度とはいかない」
「わかっている。⋯⋯信頼しているぞ、監獄長」
決意の表情で私の肩を叩いて、ファルべは横を通り過ぎていった。背後で彼の足音が遠のいていく。
――そう、二度とは起きない。
今回の事態は魔族と人類の戦いの歴史において非常にイレギュラーなものだ。魔族たちが皆心を揺れ動かすのは無理もない。
確かに、魔王にはその「予兆」はあったように思う。数週間前から彼は重篤な魔力不足と心身の衰弱に陥っていたのだ。犯人はそれをも見越していたとしか言い様がない。
⋯⋯と、大方の連中は思っていることであろう。
魔王の殺害はすべて人間側の仕組んだことであると。
人間側は魔王の重篤な容態を把握していたと。
だが実際は違う。
この城で、誰一人「彼」の存在には気づいていなかった。
門兵たちが目撃したのも、姫の見張り番を葬り去ったのも、武器庫から短剣とナイフを持ち去ったのもすべて「彼」だということには、気づいていなかった。
私以外は気づいていない。
すべてが私の思惑通りに進んでいることも、誰も知らない。
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