【第一部完結】魔王暗殺から始まった僕の異世界生活は、思ってたよりブラックでした

水母すい

文字の大きさ
42 / 53
番外編SS

1.死後

しおりを挟む
「魔王がやられただと? ばっ、馬鹿な、殺ったのはどこのどいつだ!!」
 魔王城幹部の一人、ファルべが声を荒らげて私のもとへ向かってくる。その瞳は驚きの色に染まり、大きく揺れ動いていた。
「主犯は人間の少年。手口は武器庫にあった短剣で頸を一刺しだ」
「少年⋯⋯だと? 巫山戯ふざけるな!! 見張りの兵は何をしていた!!」
「見張りもきっちりトドメまで刺されていた。恐らく、こちらの内部事情を事前に下見していたのだろう。あの歳にしては手際が良すぎる――」
「奴は、あのお方を殺した犯人は今どうしている? まさか逃がしてはいないだろうな!? ジェイル、答えろ!!」
 彼の震える手が肩を掴む。
 事態を受け入れ切れていないのか、はたまた不安で誰かに縋ろうとしているのか。
「犯人はその場で私が捕らえた。これは事実だ。私の能力で精神を支配してある。もう余計な動きはとれないだろう」
「⋯⋯そうか」
 声色は安堵で落ち着いていたが、まだどこかやり切れない表情が張り付いている。それもそうか。
 彼――ファルべは、だ。
 ⋯⋯精神面では未だ未熟だったりするが。
「おのれ、絶対に許さん!! 彼奴だけは!!」
「安心しろ。ありったけの手段で拷問して情報を吐かせる。奴に指図した主犯を特定したのち、我々で報復を行う。それでいいな?」
「⋯⋯わかった。それなら納得がいく、あのお方の仇は絶対に私が!」
「ファルべ、あまり気負うな。次に魔王の座を継ぐのはお前だが、今回のようなことは二度とはいかない」
「わかっている。⋯⋯信頼しているぞ、監獄長」
 決意の表情で私の肩を叩いて、ファルべは横を通り過ぎていった。背後で彼の足音が遠のいていく。
 ――そう、
 今回の事態は魔族と人類の戦いの歴史において非常にイレギュラーなものだ。魔族たちが皆心を揺れ動かすのは無理もない。
 確かに、魔王にはその「予兆」はあったように思う。数週間前から彼は重篤な魔力不足と心身の衰弱に陥っていたのだ。犯人はそれをも見越していたとしか言い様がない。

 ⋯⋯と、大方の連中は思っていることであろう。

 魔王の殺害はすべて人間側の仕組んだことであると。
 人間側は魔王の重篤な容態を把握していたと。
 だが実際は違う。
 この城で、誰一人「彼」の存在には気づいていなかった。
 門兵たちが目撃したのも、姫の見張り番を葬り去ったのも、武器庫から短剣とナイフを持ち去ったのもすべて「彼」だということには、気づいていなかった。
 私以外は気づいていない。

 すべてが私の思惑通りに進んでいることも、誰も知らない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

処理中です...