【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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7 リデル

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 今日から1週間、父が勤める医療部は騎士団の演習に同行していたから、デイヴもエラも本邸には居ない。
 それ故、少しでも馴染みのある自分が指名されたのだろう、とリデルは思った。

 

 至急と言われて、取る物も取り敢えず、馬車に飛び乗った。

 何よりジェレマイア様が倒れられた、と聞かされたのだ。
 彼の様子を確認したかった。


 ジェレマイア様が苦しんでおられるのなら。
 痛みを我慢していらっしゃるのなら。

 それを少しでも楽にして差し上げたい。




 リデルとジェレマイアの間には、どうにもならない身分の壁が高く立ちはだかっていて、彼女の想いはどうしたって叶わない。


 それは5年以上も前の話で、ジェレマイアには婚約者以上に愛した男爵令嬢も居たし、ジェレミーへの想いを断ち切ったリデルの方にもクラークという恋人が出来た。

 幼かった頃はいつも手を繋いでいたけれど、もうふたりとも大人になったのだ。
 今ならお互いの立場に相応しい、新しい関係を築くことも出来るだろう。

 そう、今なら「ジェレマイア様、お加減はいかがですか?」と看護士の顔をして、会えるだろう。



 己が手にしていたものを、全て失った彼が。


 ジェレミーが苦しんでいるのなら。
 痛みを我慢しているのなら。



  ◇◇◇



 邸の馬車寄せには、本邸の家令リーブスが立っていた。

 彼はリデルが出入りしていた頃と寸分違わぬ表情で、彼女を迎え入れた。

 その頃とは何かひとつ違うとすれば、それは馬車を降りるリデルに手を差し出した事だろうか。
 リーブスは大人の女性として、リデルを扱ってくれたのだ。


 だがお互いに挨拶もそこそこに、早口でジェレマイアの様子を聞かされた。
 

「手短に説明する。
 今朝朝食を戻されてから、倒れると言うか、お腹を押さえてうずくまられたので、ベッドにお運びした」

「毎食きちんと、お食事は召し上がられていたのですか?」

「……領地に戻られてからずっと、食欲が奮わず、お召し上がりになられる量も減っていた。
 王都で謹慎されていた間も、あまり食事は摂られていない、と申し送りがあったので、カーターからは栄養薬が処方されていたんだが」


 これまでの説明を聞きながら、彼の案内で2階に向かうが、昔行き慣れたジェレミーの私室の前を通り過ぎ、案内されたのは、客室だった。

 知らなかった。
 父から聞いていなかった。
 ジェレマイアが奪われたのは、次期領主の地位だけではなく、住み慣れた部屋もだったなんて。


「リゼル・カーターを連れて参りました」


 動揺するリゼルを横目に、リーブスが良く通る声を張り、客室の扉をノックすれば、暫くして。
 掠れた声が返事をした。


「……入れ」




 外は晴天なのにカーテンは閉められていて、部屋の中は薄暗かった。
 伯爵家本邸の客室の調度品は豪華なはずだが、物悲しく見えた。

 そしてベッドには、上体を起こそうとする彼が居て。
 無理をさせまいと、慌ててリーブスが彼に駆け寄った。
 


 ……どうして、今ならもう大丈夫だと思えたのだろう。


 リデルはあの日、シーナ・ワトリーに言われた言葉を思い出した。
 


  ◇◇◇
 
 

「ずっとリィが手を握ってくれるなら」なんて子供のくせに、この先大人になっても側に居てもいい、みたいに言ってくれていたのに、ジェレミーは貴族のご令嬢と婚約した。


 彼とは結婚の約束などしていない。
 それ故、嘘つきなんて責められない。
 けれど、彼が婚約した事を父から聞かされた時、リデルの心は壊れた。
 だから、意地を張った。


 もう会わないと決めて、
「大丈夫、ひとりで留守番出来る」と父の職場に付いていくのは止めた。


 ジェレミーといつもおしゃべりをした本邸の庭園の片隅のベンチ。
 婚約する前と変わらずに、訓練後にそこへジェレミーは来てくれていたようだが、リデルは行くのを止めた。


 ジェレミーが王都へ出発する日も、見送らなかった。


 それでも、帰省で戻ってきた時に出会うこともあって、
「リィ、久しぶりだね、元気だった?」と変わらずに、彼は笑顔で声をかけてくる。

 
 あきらめるために接触しないでおこうとするリデルの葛藤にも気付かない、鈍感で無神経なジェレマイアの言動は、嬉しさよりも切なさがつのったので、父には
「もう若様には会いたくない」と宣言した。


 決して結ばれることの無い初恋相手を想い続けるのは、相手に知られてしまうと負担になり、優しい若様を苦しめる事になる……なんて、それは全部言い訳だった。


 会いたくて会いたくて……でも、会ってはいけないひと。 

 そのひとが今、目の前に居て、リデルに手を伸ばしている。


「……リィ……君が来てくれるなんて……
 ……やっと、会えた」  


 ジェレマイアが横たわるベッドの脇には、リーブスだって居るのに。


 伸ばされた彼の手を握ると、この世界にはお互いしか居ないような気になった。



 リデルは思い出していた。

 
 クラークから別れを告げられた日。

 彼の隣に座っていたシーナ・ワトリーが言った言葉。

 
「会えばね、やっぱり戻るでしょう?」 


 彼女の言う通り、会ってしまえば。

 やはり、気持ちは戻ってしまうのだ。

 

 今なら大丈夫なんて、もう誤魔化せない。

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