【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

文字の大きさ
37 / 48

37 リデル

しおりを挟む
 ジェレマイアからプロポーズされた翌日からの3日間。
 仕事帰りのリデルを、毎日彼は家の近くまで送ってくれた。 
 そして、無事に彼女が家の中に入るのを見届けてから、背中を向けて本邸へ帰っていく。


 ふたりが幼馴染みから新たな関係となった事を、まだデイヴには伝えていない。
 見つからないようにと注意しながらの、切なくて短すぎるデートはふたりで決めた事だったが、早く堂々と会いたかった。


 ジェレマイアは自分の評判が悪くなったので、一緒にいるリデルまでもが悪く言われぬように、と会う時は髪まで赤く染めた。
 リデルが何と言われようとも平気だと訴えても、彼は頑なにフードを被り続けた。
 

 ところが、今日ジェレマイアからデイヴに挨拶したい、と言われて、リデルの心は弾んだ。 
 これまで父には何も隠し事をしなかったリデルには、たった4日だが、罪悪感に苛まれる日々だった。
 大っぴらに出来ないのは変わりないが、これでもう父にだけは嘘をつかずに済む。


 巷でよく聞く、娘の恋人が挨拶に来た時の父親の、笑えて、少し寂しい、それでいて幸せなエピソードが思い浮かんだ。
 リデルはジェレマイアに知られないように、そっと安堵の息をついた。



「あぁ、お帰り。
 今日は一緒に、か」

 デイヴはまるで、リデルがジェレマイアと待ち合わせをして送って貰っていた事を知っていたかのように、驚きもせずにふたりを迎え入れ、ジェレマイアの髪が赤く変わっている事にも触れなかった。


「今日は、って……」

 リデルが思わず口ごもったのを引き取り、ジェレマイアが頭を下げた。


「デイヴ、挨拶に来るのが遅くなってすまない」

「……構いません、そろそろいらっしゃるだろうとは思っていましたから。
 健診をしろ、と命じられたのでね」

「あぁ、今週末だから……」


 デイヴとジェレマイアの会話は続くが、その感じはリデルには想定外だった。
 ジェレマイアと一緒に帰宅した自分に、デイヴは怒るか喜ぶか、そのどちらかだろうと思っていた。
 
 
 そのどちらでもない、変に静かな雰囲気に困惑しながら、リデルはふたりにお茶を入れようと、キッチンの方へ行こうとしたが、その腕を掴んだのはジェレマイアだった。


「ごめん、リィ、時間があまり無い。
 君も一緒に話を聞いて欲しいんだ」

「……分かった」

 さっきデイヴが口にした『今週末の健診』という単語も実は気になっていて、時間が無いと言われた事で、もしや……と嫌な予感に襲われる。
 ジェレマイアはもしかしたら、病にかかって……

 
 さっきからひとりで、ぐるぐると思考を巡らす娘の様子を、デイヴがなんとも痛々しい表情で見ているのだが。
 どうしても現在のリデルは父よりも恋人の方ばかりを気にしていて、デイヴがどんな思いを抱えているのか想像もしていなかった。


 ジェレマイアに促され、リデルがテーブルについた途端。
 改めてもう一度、ジェレマイアはデイヴに頭を下げた。


「先日、リデルさんに求婚しました。
 彼女には受けて貰えました。
 貴方にはこれまで、色々助けていただいていたし、今回の事についても、尋ねてくださっていたのに、何も話さずにいて、申し訳ありませんでした。
 それなのに、お願いをする時だけ会いに来るのは、自分勝手な事だと分かっています。
 どうか、リデルさんを娶らせてください。
 お願いします」


 デイヴは本邸の使用人であるのに、こんなにへりくだって挨拶をするジェレマイアに、リデルは驚いた。
 次期領主の地位から外されたとは言え、ジェレマイアは主家のひとり息子だ。
 本人は家を捨てる、と言っているが、今はまだご領主様の嫡子である事に変わりはないのに、デイヴはその挨拶を普通に聞いて、難しい顔をしている。


「リデルとジェレマイア様の事は、3日前に馭者として送ってきたでしょう。
 あの日から気付いていました。
 白いビオラも貴方からだと分かりましたし。
 それに、あの醜聞も何かしらの事情があっての事だろう、と私なりに理解もしていました。
 貴方は昔からリデルに一途だった。
 それを何年も真摯に伝えてくださっていたのに、応えなかった私に頭を下げる必要はありません」

「父さん……ごめんなさい」

 デイヴには全てを気付かれていたのに、上手く誤魔化せていると思っていた自分が恥ずかしくて、情けなく思うリデルは顔を伏せた。
 今は父の顔を見られなかった。


「デイヴ、ありがとうございます」

 隣に座るジェレマイアが緊張を解いて、安心したように大きく息を吐いたが、次のデイヴの言葉に、また彼は身体を強ばらせた。


「御礼など要らないし、いつもような言葉に戻してくれませんか。
 リデルと違って、私と貴方との関係はまだ変わっていませんよ。
 それと、リデルを任せるのは、また別の話だ。
 貴方は貴族で、リデルは平民です。
 どうしたって、娘は正妻にはなれない。
 貴方は娘に、愛人にするから3年待て、と仰るのか?」

 3年、とデイヴが口にしたのは、ジェレマイアがリデルを愛人として娶りたいと申し込んでいる、と誤解しているからだ。
 それは違う、彼はもう家を捨て、平民になると決めている。
 それを伝えようと身を乗り出したリデルを、ジェレマイアが止めた。
 彼はデイヴの言い分を、ひとまず聞くと決めたようだ。


「それに、リデルは知っているか?
 ジェレマイア様には遠縁のご令嬢との縁談が進んでいる。
 今週末には、その御方の診察を、俺は命じられている。
 そのまま御ふたりは顔合わせをして、婚約となるだろう。
 この事態を、貴方はどうリデルに話したのか、私に説明をして貰えますか?」  

 それを聞いたリデルの様子が変わる。
 やはり縁談の事はまだ聞かされてはいなかったのだ、とデイヴは都合が悪い事を黙っていたジェレマイアを睨んだ。
 彼の事もデイヴは息子のように思っているが、それでもリデルを泣かすことは許さない。

 しかし、事実を突きつけられて、ショックを受けたと思ったリデルが昂然と顔を上げ、デイヴと視線を合わせて話し出した。


「待って、父さん、これだけは言わせて。
 確かにジェレミーから、縁談があるって聞いてなかった。
 でも、これからは何も隠さないと約束してくれたの。
 だから彼にはそうする理由があって、わたしに話せる時機を待っていたんだと思う」

「お前、こいつを庇うのか?」

 リデルの言葉は、デイヴには意外だったのだろう。


「庇うんじゃない、信じているだけ。
 ジェレミーはこれまで、わたしを騙したり、誤魔化したりしていない。
 だから、何かあるから黙っていたと信じてる。
 父さんは、嘘をついていたわたしを、責めなかった。
 理由がある、と信じてくれていたんでしょう?
 それと同じ」


 自分はずるい言い方をしている、とリデルにも分かっていた。

「信じてくれた父さんと同じ」と言われてしまえば、デイヴはもう何も言えなくなると分かってて口にした。
 案の定、言われてしまったデイヴは、そこで黙ってしまったが、今度はジェレマイアがリデルに頭を下げた。


「俺は……リィにそんな風に信じて貰えているとは思いもしなかった。
 君に縁談の話をしたら、身を引かれてしまうと思った。
 それが嫌で怖くて、デイヴも居るこの場でついでのように話そうとしてた。
 こんなに臆病者で、弱い俺にはがっかりしたと……」


 リデルは、掌でジェレマイアの口を塞いだ。
 デイヴの前だが、もう構いはしなかった。


「これ以上強くなろうとしないで。
 貴方のその弱いところを、わたしは補いたい。
 貴方は全力でわたしを幸せにする努力を続ける、と言ってくれたけど。
 ふたりが幸せになるのは、一方の努力だけじゃ無理だと思うから」

 
 そのふたりの姿を見、ふたりの言葉を聞いたデイヴはため息をついた。
 もうこの子達は、大人になった。
 ふたりで幸せになる、そのための努力をすると言うのなら、親はそれを信じて願うしかない。


「……リデル、お前が納得しているんなら、いい。
 だからもう頼むから、親の目の前で、お互いへの愛を語るのは勘弁してくれ」

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

処理中です...