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第2章 いつか、あなたに会う日まで
4
ムーアの邸を訪れたわたしを迎え入れてくれたのは、祖父の右腕のアーネストさんだ。
「お嬢さん、お忘れ物でもありましたか?」
そうアーネストさんに尋ねられて、わたしが最近この邸を訪れていたらしい、と分かった。
前回の訪問と日を開けずに来たから、若干戸惑っているようだ。
16歳のわたしが今日の午前中まで何をしていたのか、わからないから本当に心臓に悪い。
これはいつか、オルに会えたら文句を言ってやらねば!と、ささやかな楽しみにしておく。
多忙な祖父は今日も訪問客があるらしく、その合間の休憩時間をわたしに当ててくださるようで、第3応接室で祖父を待つように告げられた。
第3応接室には、2年後の祖父の誕生祝いの集まりで、従兄の小さな息子ウィルが壊した花瓶も無事な姿で飾られている。
お茶をいただきながらそれを見て、改めて自分が時を戻ってきたのだと実感した。
そして、この待ち時間の間に、どう話を進めようかと考えた。
いくら祖父がわたしを可愛がっていたとしても、それは言うことなら何でも聞く様な盲目的な愛情ではない。
祖父なら必ず、その証を求める……
「どうした、ジェリ」
祖父が応接室に入ってきて、立ち上がったわたしを軽く抱擁した。
祖父は語尾を伸ばさずにわたしを呼ぶ。
その理由は『せっかちだから』と母は言っていた。
「次に会えるのは、いつか分かりません、と言ってたのは3日前の話だぞ」
3日前なら入学式に出席してくれた祖父と、ここで食事をしたのね。
「お祖父様がお忙しい身なのは存じ上げています。
お時間を取らせないように、出来るだけ手短に話しますので、お聞きくださいませ」
「大したものだ。
入学して4日目で、話し方が大人びたな。
家を出て寮に入ったら、甘えが減ったか」
家を出て……と言ってくださったのに。
その家に週末に帰りたいので列車の往復チケット代をください、と言ったので、祖父は暫くわたしの顔を何も言わずに見ていた。
これは余計な心配をさせたのに違いない。
「ホームシックでも、寮で苛められて逃げ帰るのでもありません。
クレイトンの現状確認を急ぎたくて、です」
「現状確認とは何だ?」
「従姉のモニカが巧妙に広めている噂です。
領内で彼女はノックスヒルで冷遇されている、と誤解をされるようにわざと周囲に話しています。
その結果、父より彼女こそが爵位を継ぐべきだったと思い込んでいる聖女信者が増えて来ているのは、お祖父様もご存じか、と」
祖父は女性の前では喫煙はしないひとだが、無言でテーブルの上に置かれた葉巻入れの蓋を開け閉めした。
何度かパタパタさせて、やはり吸うのをやめたのか、そこから手を離した。
「お前達家族は、誰も信じないと思っていたがな。
私から見たら、お前達こそが一番の信者だった」
これを言われると、辛い。
その通り、父も母もわたしも。
リアンもクリフォードも。
ノックスヒルの全員がモニカを信じてた……
今もわたし以外は彼女を信じている。
徐々に、ノックスヒルの皆の、クレイトンの領民の、意識を変える。
決してモニカは可哀想な女の子なんかじゃないんだ、と。
「お嬢さん、お忘れ物でもありましたか?」
そうアーネストさんに尋ねられて、わたしが最近この邸を訪れていたらしい、と分かった。
前回の訪問と日を開けずに来たから、若干戸惑っているようだ。
16歳のわたしが今日の午前中まで何をしていたのか、わからないから本当に心臓に悪い。
これはいつか、オルに会えたら文句を言ってやらねば!と、ささやかな楽しみにしておく。
多忙な祖父は今日も訪問客があるらしく、その合間の休憩時間をわたしに当ててくださるようで、第3応接室で祖父を待つように告げられた。
第3応接室には、2年後の祖父の誕生祝いの集まりで、従兄の小さな息子ウィルが壊した花瓶も無事な姿で飾られている。
お茶をいただきながらそれを見て、改めて自分が時を戻ってきたのだと実感した。
そして、この待ち時間の間に、どう話を進めようかと考えた。
いくら祖父がわたしを可愛がっていたとしても、それは言うことなら何でも聞く様な盲目的な愛情ではない。
祖父なら必ず、その証を求める……
「どうした、ジェリ」
祖父が応接室に入ってきて、立ち上がったわたしを軽く抱擁した。
祖父は語尾を伸ばさずにわたしを呼ぶ。
その理由は『せっかちだから』と母は言っていた。
「次に会えるのは、いつか分かりません、と言ってたのは3日前の話だぞ」
3日前なら入学式に出席してくれた祖父と、ここで食事をしたのね。
「お祖父様がお忙しい身なのは存じ上げています。
お時間を取らせないように、出来るだけ手短に話しますので、お聞きくださいませ」
「大したものだ。
入学して4日目で、話し方が大人びたな。
家を出て寮に入ったら、甘えが減ったか」
家を出て……と言ってくださったのに。
その家に週末に帰りたいので列車の往復チケット代をください、と言ったので、祖父は暫くわたしの顔を何も言わずに見ていた。
これは余計な心配をさせたのに違いない。
「ホームシックでも、寮で苛められて逃げ帰るのでもありません。
クレイトンの現状確認を急ぎたくて、です」
「現状確認とは何だ?」
「従姉のモニカが巧妙に広めている噂です。
領内で彼女はノックスヒルで冷遇されている、と誤解をされるようにわざと周囲に話しています。
その結果、父より彼女こそが爵位を継ぐべきだったと思い込んでいる聖女信者が増えて来ているのは、お祖父様もご存じか、と」
祖父は女性の前では喫煙はしないひとだが、無言でテーブルの上に置かれた葉巻入れの蓋を開け閉めした。
何度かパタパタさせて、やはり吸うのをやめたのか、そこから手を離した。
「お前達家族は、誰も信じないと思っていたがな。
私から見たら、お前達こそが一番の信者だった」
これを言われると、辛い。
その通り、父も母もわたしも。
リアンもクリフォードも。
ノックスヒルの全員がモニカを信じてた……
今もわたし以外は彼女を信じている。
徐々に、ノックスヒルの皆の、クレイトンの領民の、意識を変える。
決してモニカは可哀想な女の子なんかじゃないんだ、と。
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