【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi

文字の大きさ
13 / 37

13 そこはわたしの場所◆◆アイリス

しおりを挟む
 侯爵家の馬車に同乗させて貰い、出迎えた家令にいつものように温室にお茶の用意をするようにとセーラ様が命じると、家令が耳元で何かを報告していた。 

 それを聞いてセーラ様が忌々しそうに舌打ちをされた。
 わたしの前でこんなに不機嫌な顔をされたのは初めてだったが、母は見慣れているのか、表情は少しも変わらない。


「連れてきてるのですって」


 その言葉で。
 誰が来ているのかわかってしまった。
 シンシアだ。
 観劇帰りにキャメロンがシンシアを、この邸に初めて連れてきたんだ……



「私達は失礼しましょう」

 母はそう言ったが、セーラ様は頷かれなかった。


「貴女達はわたくしのお客様よ。
 どうして遠慮しなくてはいけないの」

「……でも」


 言い募ろうとした母を抑えて、セーラ様がわたしの腕を取った。


「アイリス、わたくしのエスコートでよろしければ、ようこそ侯爵邸へ」


 わたしの顔を見て微笑んでくださったので、わたしも遠慮しないことにした。
 この御方は侯爵家の女主人。
 わたしはこの御方に招かれたのだから、遠慮することはない。


 そう思おうとしていたのに。
 


 温室まで続く庭園に彼等が居た。
 何かを熱心に話している笑顔のキャメロンと。
 それを聞いて微笑んでいるオースティンお兄様に挟まれて、楽しそうなシンシアが居た。
 


 ずっとあの場所に居たのは、わたしだった。
 幼い頃からキャメロンが冗談を言って笑わせてくれて。
 それを聞いてお兄様が微笑んで。
 お兄様とキャメロンと、わたし。

 その3人だけの、大切な場所に。
 どうして、シンシアが居るの?


 わたしが貴女を紹介してあげたのに。
 田舎者で、王都でのお付き合いの仕方も知らない貴女と仲良くしてあげたのに。
 どうして、貴女がその場に居るのよ。
 そこはわたしの場所よ?
 わたしから奪うつもり?
 キャメロンの笑顔も、お兄様の優しさも?
 あの3人だけの思い出も?



 最初にわたし達に気付いたシンシアが立ち上がり。
 それに素早く反応して、彼女の椅子を引いたのはお兄様。
 少し遅れたけれどキャメロンも立ち上がって、シンシアをエスコートして、セーラ様に挨拶に来た。


「奥様がご不在でしたのに、お邪魔をして申し訳ございません。
 エリック・カーライル・ハミルトンが娘、シンシア・ローズと申します」



     ◇◇◇



「完璧ね、完璧なご令嬢だわ」


 カップをソーサーに戻しながら、母が感心したように言う。
 温室でお茶をしているのはわたし達3人だけ。


 セーラ様に挨拶をしたシンシアは、直ぐに暇を告げた。
 キャメロンはシンシアを送りに行き、お兄様はご友人と約束があると出掛けられた。



「そうかしら?普通だわ」

「いいえ、アイリスにはあのカーテシーは無理だもの」


 わたしの母親なのに。
 何故シンシアと比べて、わたしを貶めるの!
 ……確かに、シンシアがセーラ様に礼を取ったカーテシーは完璧だった。
 わたしにはとてもじゃないが、あんな真似は出来ない。
 だけど今時、社交にあんなカーテシーは必要ないの。
 何年前の挨拶よ、本当にシンシアってやることが古すぎる。


「アイリスはいいのよ、今風で可愛いじゃないの。
 だけどあの子はダメね、キャムには相応しくない。
 母親だから分かるの。
 キャムはアイリスからの紹介だから、あの娘と付き合ってるだけよ」

「セーラ、お願いだから、ややこしくなることは口にしないで」

「わたくしは前々から言ってるでしょう。
 アイリスを本当の娘にしたいと。
 ねぇアイリスはどうして、あんな子をキャムに紹介したの?
 わたくしはキャムには貴女がお似合いだと思っていたのに」


 ……だって、キャムとわたしはそんな……単なる幼馴染みで。
 それにわたしはお兄様が好きだった。
 いつも優しかったお兄様のことが好きで……

 あの日、冷たくされるまでは。
  

しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

愛を乞うても

豆狸
恋愛
愛を乞うても、どんなに乞うても、私は愛されることはありませんでした。 父にも母にも婚約者にも、そして生まれて初めて恋した人にも。 だから、私は──

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

処理中です...