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ご主人は誰?
しおりを挟む体育祭の後から、昼飯を食った後は圭一郎の背中にひっついて昼寝をするのが習慣となった。やっぱり圭一郎の背中は寝心地が良い。温かいしなんか落ち着くんだよな。すぐに眠たくなるし。
「なあ、直樹。圭一郎の背中ってそんなに気持ちいのか?」
「うん。サイコー。」
「俺も圭一郎の背中貸して!」
「だーめ。この背中は俺専用なの。」
「順一、諦めろ。夫婦の仲を引き離すでない。」
「えっ?圭一郎と直君は夫婦じゃなくて、ご主人様と猫でしょ?」
「もちろん、俺が主人で直樹が猫だろ?」
「俺が猫かよ。まぁ~この背中があるならどっちでもいいか。」
「ねえ、猫ってまさか直君って本当にネコ??」
「うっわ!いやらしー。」
「ぶはっ!俺がネコかよ。・・・・圭くん。優しくしてね。」
「ばっか!直樹!俺はお前に突っ込んだりしねーし!俺トイレ行ってくるわ!」
圭一郎がトイレに行ってからも暫くこの下らない話題で盛り上がってた。
男子高校生らしい下品な話をしても笑い合える友達が居るってサイコーだよな。こんな関係がずっと続けば楽しいだろうな。なんて考えていたのに、何故か次の日から圭一郎は俺たちと一緒に昼を過ごさなくなった。可愛い女の子たちがクラスまで迎えに来て、一緒にどこかへ行ってしまう。
あいつがモテるのなんて今に始まった事じゃないし、彼女でも欲しくなったのかもしれない。今までだって彼女が居た時は別々に食ってたんだし。
―――でも、ちょっと寂しいな。昼寝出来ないし。
圭一郎と昼を一緒に過ごさなくなって、何となくポッカリと心に穴が開いたようだった。眠たいのに寝れないし、五人で過ごしてたのに一人減っただけでこんなにも違うもんなんだな。
「あれ?あそこに居るの圭一郎じゃね?」
教室の窓から中庭を覗いていた友也が呟いた。
「急に女子と過ごすようになって、どうしたんだろうな。」
「彼女でも欲しくなったんじゃねーの?」
「でも、毎回違う女子と居るだろ。」
俺は何となく会話に混ざりたくなかった。眠いし。
「直樹。めちゃめちゃ眠そうだな、おい。」
「最近はご主人様がいないから寝れないんでしょ?」
「よし!直樹。俺の背中を貸してやるぞ!」
ここは素直に友也に甘えてしまおう。
「うわっ!普段なつかない猫が素直に甘えてきた!何か可愛いなお前。」
「じゃあ今日はとことんお前になついてやるよ。」
「うわ!後ろから抱きつくなよ!首元スリスリすんなぁ!」
「ははは。友也の顔真っ赤だぁー。」
四人ではしゃぎながらもチラッと見た中庭には既に圭一郎の姿はなくなっていた。
友也の背中にすり寄りながらも、この背中じゃないんだよな。なんて思ってしまっている。
―――この気持ちは何なんだろうな。変なの。
一通りふざけ倒した俺はそろそろ寝るかと目を閉じた時、ガタッと隣から勢いよく椅子が引かれる音がした。
あ。圭一郎。
あれ?圭一郎もう戻ってきたの?彼女は?と健介が聞くと、彼女じゃない、誘われたから行っただけだと答える圭一郎。
なんだよ。誘われたら誰にでもついていくのかよ、お前は。
重たくなっていた瞼をこじ開け頭を上げた俺に、背中が急に軽くなったのを感じた友也が振り返る。
「直樹、寝てなかったのかよ。」
「あー・・・なんか寝れなかった。」
「今日は俺がお前のご主人様だから、もっと甘えていいんだぞ!ほら来い!」
「ん。ありがと。」
と言って再び友也の背中に頭をうずめようとした瞬間、勢いよく腕が引かれて引き離された。
「お前のご主人は俺だろ?こっちへ来い。」
え?圭一郎どうしたの。何言ってんの?
「圭一郎は最近こいつを放っておいただろ。今日は俺がこいつの面倒をみてやるんだよ。」
いやいや、友也もどうした?何やってんだよ二人とも。こんなのいつもの悪ふざけだろ、そんな真剣な顔するなよ。順一と健介も笑ってないで何か言ってよ。
・・・よし、逃げよ。
二人の隙をついて順一の背中に飛びついた。そんな俺をみて健介が爆笑してる。それにつられて皆で笑った。良かった。いつもの雰囲気だ。
心底ホッとしたものの、さっきの圭一郎の真剣な眼差しが忘れられなかった。
それと同時に、圭一郎が戻ってきた嬉しさも感じていた。
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