単純な俺たちのありふれた恋の話

みーくん

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バレンタイン大作戦

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 今、俺は兄である幸樹こうきの部屋をノックしようとしている。



「兄ちゃん。入っていい?」

「おう直樹、どーした?」



「あのさ、お菓子作りたいんだけど。教えて欲しい。」

「えっ?お前が??あげるの?手作りを??」

「う、うん。だめ?」

「そうかそうかそうかそうか。お前にも彼女ができたのか。」



 彼女じゃないんだけどな・・・。



「うん。教えてくれる?」

「かわいい直樹のお願いを聞かない訳にはいかないだろ!」



 幸樹兄ちゃんは、パティシエを目指している大学2年生。俺の事を凄く可愛がってくれている。兄ちゃんの通っている大学は色んな学科があるらしい。私立だから学費は高いが夢を叶えるために頑張っている自慢の兄ちゃんだ。少し変わっているけど。



「で、どんなのを作りたいんだ?」と聞かれたので、ネットで調べた圭一郎が好きそうなチョコレートケーキを見せた。



「ふむ。これなら初心者の直樹でも作れそうだな。」

「マジで!?」

「いつ練習する?俺は明後日なら時間取れるよ。」

「分かった。それでお願い。」

「よし!材料は俺が揃えてやる!バイト代入ったし。」

「ありがと!兄ちゃん。」



 今度のバレンタインは手作りのお菓子を上げようと計画している。

圭一郎は沢山のチョコを女子からもらって告白されるんだろうと思う。考えただけで落ち込みそうになるけど、もうそれは仕方のない事だ。どれだけ嘆いたところで、圭一郎がモテるという事実は変わらない。



 だからこそ、自分で作った気持ちの詰まったお菓子をあげたい。



 でも、やっぱり告白とかは、俺の知らない見えない所でやってほしい。





あれから咲ちゃんはというと、友也と話している姿をよく見かけるようになった。順調に頑張っているようだ。なんだかんだで友也も話しかけられると嬉しそうにしている。咲ちゃんは、バレンタインにチョコを渡して告白すると言っていた。



 頑張れ、咲ちゃん。





 兄ちゃんと練習をする日、初めて圭一郎の誘いを断った。

俺も本当は一緒に居たかったけど、おいしいお菓子をプレゼントしたいから心を鬼にして断った。



 圭一郎は俺が断った事に驚き少し不安そうにしていたが、ごめん!今日だけはごめん!その代わり最高においしいお菓子を贈るから!





 兄ちゃんは、流石パティシエを目指してるだけあって手際もよく、教え方も上手だ。



 粉の混ぜ方とかバターの融かし具合で、味が左右される事を初めて知った。全部入れて混ぜれば出来るって思ってた。



 焼きあがったケーキを兄ちゃんと食べる。



「兄ちゃん。どう?」

「うん。美味しいな。これならいいんじゃないか?」

「でも、兄ちゃんに結構手伝ってもらったしな。本番に一人で作れるかな。」

「俺が手伝ったのは簡単な所だ。重要な部分は直樹に任せてたから大丈夫だろう。」

「そっか。良かった。」

「直樹。このケーキの上にメッセージを入れる事も出来るぞ。」



 粉の砂糖みたいなやつでメッセージを入れることが出来ると教えてもらった。相手の名前は何だと聞かれたけど、それは流石に答えられない。男の名前を言ったらビックリするだろ?だから、本番は名前を入れているところを誰にも見られてはいけない。



部屋に戻り、工作用紙でメッセージ用の型をこっそり作った。

ケーキの大きさはカップケーキくらいだから、小さな文字の型を作るのにとても苦労してカッターで何回も指を切った。あれって地味に痛いよな。





 バレンタイン前夜、夜飯の片付けが終わったキッチンを独占して作業を開始する。

バターの分量を間違え一度失敗して作り直しにはなったものの、時間は掛かったが何とか完成した。もちろんメッセージもキレイに出来た。



家族にメッセージを見られるわけにはいかないから、用意しておいた箱に入れ綺麗にラッピングした状態で冷蔵庫にしまってある。



 喜んでくれるだろうか。



 明日が楽しみだ。



 圭一郎にいつもの「おやすみ」のメッセージを送って眠りにつく。


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