単純な俺たちのありふれた恋の話

みーくん

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俺だって怒る事はある

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 圭一郎の最後の委員会の日、早く終わらないかと待っている。



 勢いよくドアが開いたから、圭一郎かと思い笑顔で振り向くと、そこに立っていたのは名前の知らない女子だった。



この子、よく圭一郎に絡んでいる子だ。



「巻島君。ちょっと時間いい?」



 もうすぐ圭一郎が帰ってくるから断りたかった。だって圭一郎が来てしまったら、この子は絡んでいくだろ。最悪一緒に帰りたいとか言い出すかもしれない。そうなると、モヤモヤして自分の気持ちが面倒臭い事になると分かっている。



 俺が断ろうかと考えているうちに、その子は、ズカズカと教室に入ってきて俺の横の壁にもたれ掛かる。



「ねえ。あのさー。いつも圭一郎君と一緒に居るよね?少しは遠慮してほしいんだけど!」



なんだよそれ。何でそんな事言われないといけないんだ。

 俺が、無言を貫いているのにお構いなしに話を続ける。



「圭一郎君も迷惑してるんじゃない?巻島君のせいで彼女ができないんだと思う!もっと圭一郎君の事を考えてあげてよ!!」



 ・・・なんだこいつ。・・・もうこいつ呼ばわりでいいよな。これは。

何故お前が圭一郎の気持ちを理解したつもりになって代弁してるんだよ。なにも知らないくせに。



「そんなの。圭一郎が決める事だろ。・・・えっと、名前は知らないけど。君は圭一郎の事好きなの?」

「そうよ。圭一郎君とイイ感じなのに巻島君が邪魔してるんでしょ!?」



はぁぁぁぁぁ?イイ感じ????初耳なんだけど。

だいたい、付き合い始めてからずっと俺といるんだよ。

どこで勘違いしたんだ?こいつ。



「イイ感じなら、圭一郎だって俺といないでそっちを選ぶだろ。」

「圭一郎君は優しいから巻島君と一緒にいるんじゃない。とにかく!圭一郎君を返して欲しいの!」



カッチーーーーーン。と来るよね。ここまで言われたら。

どんな勘違い女なんだよ。俺だって怒るよ。怒っちゃっていいよな??

返してってなんだよ!本人に告る勇気もないくせに。 



「あのさー。さっきから何を言いたいか分かんねーけどさ。」



 いつもより低い声が出て自分でも驚いたけど、気にしている余裕もない。

今の俺は、頭に血が上ってるから。



「圭一郎に、直接告る勇気もねーくせに・・・。」



 そいつがもたれ掛かっている壁に思い切り右手をつく。ちょうど顔の横らへんに。

そして目を細め鋭く睨みつける。



「圭一郎を返してほしかったら・・・奪い取ってみろよ。」



 そういうと、そいつは目を見開き固まった。

次の瞬間に顔を真っ赤に染めて「かべ・・・どん・・・」と呟いていた。



何て言ったのか聞こえず意味は分からなかったけど、俺は少し冷静さを取り戻し再び距離を取ってその子と向き合う。



「俺は、圭一郎が他の奴と過ごしたいならそれに従うし、俺と居たいって言うなら一緒にいるよ。そういうことは、ちゃんと本人に言いなよ。俺に言われても困るから。俺も圭一郎も自分で選んで一緒にいるんだ。周りに文句を言われる筋合いはないと思うよ。」



 冷静にそう伝えると、小さな声で恥ずかしそうに「ごめんね。」と謝ってくれた。

謝ってくれたなら、もういいだろう。



「俺も言い過ぎたかも。ごめんね。」

「ううん。ごめんね。私が悪かったの。帰るね。ごめんね。」



 その子は相変わらず赤い顔のまま教室から出て行った。俺は座って窓に頭を預ける。



はぁ~・・・疲れる。女の子たちには俺が圭一郎の恋路を邪魔してるように見えるんだな。

何か、それもヘコむな・・・。あーーー気持ちが沈むわ。

いつかは、堂々と「圭一郎は俺の彼氏だ」って言える日は来るのかな。

ははっ。そんなの夢みたいだな。







いつの間にか寝てしまっていたようで誰かに頭を撫でられている感触に目が覚める。



「・・・んん・・・?」

「あっ、直樹。起きた??」



 大好きな笑顔があった。寝ている間ずっと俺の頭を撫でていたようだ。



「あっごめん!いっぱい寝てた?」

「いや、大丈夫だよ。直樹の寝顔が可愛くてずっと見てた。」

「・・・・。」

「直樹、顔赤い。可愛い。もう、一人の時に無防備に教室でなんて寝るなよ。今日はギリギリ間に合ったけど。」

「うん?うん。ごめん。気を付けるよ。」



 帰り道で、さっき教室であった出来事を話すと「直樹にそんな嫌な思いをさせて誰だよ!」と心底腹を立てた。



 だから俺はニヤッと笑い、わざと言ってやった。



「でも、その子。圭一郎とイイ感じだって言ってたぜ?いつイイ感じになったんだよ?」



 困ったような顔で

「そんなイジワル言わないで。直樹しか好きじゃないに決まってんだろ。」と必死に訴えてくる圭一郎が心の底から愛おしく感じ、「冗談だよ」と言って力いっぱい抱きしめる。



 まさか俺が外でそんな行動をとると思っていなかった圭一郎は、目を大きく見開いたのち破顔した。



「なおきぃぃぃぃ。すきだぁぁぁぁぁ。」

「っおい!そんなデカイ声で叫ぶな!バカッ!!」



 結局のところ、どんなに嫌な事があっても圭一郎の言葉や行動一つで、嫌な事なんて無かったかのように吹き飛んでしまうんだ。



 圭一郎は俺の『精神安定剤』だな。と思い自分で笑ってしまう。

そして、圭一郎にとっての俺もそうあって欲しいと思った。



ま~、俺の言葉や行動に一喜一憂している圭一郎も、きっとそう思ってくれてるんだろうな。







次の日学校へ行くと、

「『直樹の本気の壁ドンは破壊力が半端ない』って噂になってるけど、お前何かした?」

と、友也に聞かれたが、心当たりもないから「知らない」と答えた。



噂って、本当に根拠のないものばかりで困るよな。



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