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おまけの副会長の綺麗な涙
しおりを挟む生徒会副会長である僕は、今日も放課後の校内見回りをしている。
二年の教室を見回っていると、ある教室で一人生徒が窓にもたれて眠っているのが見えた。
ーーー僕の嫌いな巻島直樹だ。
しかし、
僕は思わず見入ってしまった。
その寝顔はとても綺麗で、神秘的というのはこういう事を言うのだろうと思ってしまったからだ。
何かの力で引き寄せられるように、気が付いた時には巻島直樹の前に立っていた。
綺麗だ。
雪のように白い肌。頬は桃色に染まり、茶色の髪には日が当たりキラキラとしている。
なんて神秘的なんだ。
「はぁ」と吐息を漏らすそこに目をやれば、赤くふっくらとした、小さな唇が薄く開いている。
それは無意識だった。
「何してるんだ!!」
その怒声に我に返った時には、僕の唇と巻島直樹のそれは、あと数センチの所まで近付いていた。
僕は何をしようとしていたんだ。
驚き、急いで距離を取る。
声の方を向けば、野田圭一郎が怒りの表情で僕を睨んでいる。
僕は本当に何をしようとしていた?
訳が分からず立ち尽くす僕は
野田圭一郎に腕を引っ張られ廊下に出る。
「お前、直樹に何しようとしてたんだよ!」
「・・・分からない。」
「はっ?何だそれ!キスしようとしてただろーが!」
・・・え?
「お前、直樹の事が好きなのか?」
その、野田圭一郎の言葉の意味が分からなかった。
だって僕は・・・
「違う!僕はあいつの事が嫌いだ!」
「・・・お前、何言ってるんだ?」
「前から巻島直樹が嫌いだ。」
「は?なら何でキスしようとしてたんだよ!」
本当に分からない。違う。違う。違う!
「お前・・・本当に分かってないのか?」
分かってないって何がだ?
僕は野田圭一郎の言葉にますます困惑する。
「直樹の・・・どんな所が嫌いなのか教えて。」
野田圭一郎が、先程よりも少し落ち着いた声で問いかけてくる。僕は素直に答える。
「みんなに優しい所が嫌いだ。いつも僕の視界に入り込んでくる。巻島直樹は僕の名前も知らない。僕はいつもいつもあいつの事を考えてしまうのに!あいつを見ると心臓が痛いほどにイライラする。」
「お前・・・それって・・・」
野田圭一郎が何かを言いたそうに僕を見つめる。
なんなんだよ。
「お前はいつから直樹の事が『嫌い』なんだよ。・・・もういい!直樹に近づくな!触れようとするな!次、直樹に何かしようとしたら絶対に許さないからな!」
そう言って、野田圭一郎は教室へと入って行った。
何だよ。何なんだよ。意味が分からない。今起こった事の全ての意味が分からない。
僕はいつから巻島直樹の事を嫌いになったんだ?会長があいつの話をするようになってからか。
・・・あ、あの時だ。
僕が生徒会の副会長に当選した時、廊下ですれ違った巻島直樹が満面の笑みで「おめでとう」と声を掛けてきた。
その瞬間だ。
混乱した頭を抱え、もう一度教室を覗くと
とても愛おしそうに目の前の人を見つめ、最愛の微笑みを浮かべ、大切な宝物に触れるように巻島直樹の髪を撫でている野田圭一郎の姿があった。
その二人の姿はまるで・・・映画のワンシーンのような
僕なんかが決して入り込んではいけないような・・・
誰にも入り込む隙なんて一ミリもないほどの・・・
自分の頬が涙で濡れているのに気が付き、乱暴に拭い走って生徒会室に戻った。
やっぱり・・・
僕の心には無作法に入り込んでくるくせに
自分の心には決して入り込む隙を与えない。
そんな巻島直樹が
本当は好きだ。
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