単純な俺たちのありふれた恋の話

みーくん

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―番外編 3年生― 体育祭

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 春になり、俺たちも三年生になった。
今年は、学校の創立五十周年かなんかの記念式典があるため、体育祭が5月に開催される。

 

 昨年の体育祭は体調不良で殆どの時間を意識が無いまま保健室で過ごしたが、今日は大丈夫だ!だってまだ五月だから冷房もかけていなかったし、最後の体育祭は絶対に楽しみたかったから何日も前から体調には気をつけていたのだ。

 圭一郎と一緒に参加できる最後の体育祭だから。

 とはいえ、天気が良ければ汗もかくし暑いから競技のない今は圭一郎と二人で木陰で見学している。

「圭一郎。今何の競技?」
「ん~。借り物競争やってる。」
「あー。一年の競技か。まだ休憩できるな。」
「うん。まだ直樹とイチャイチャできる。」
「チューでもするか?」
「っ!!!」
「おい!圭一郎。冗談だよ。抱きついてくるな!暑い!」

 抱きついてきた圭一郎を必死に引きはがそうとした時、『キャー―――』と女子たちの黄色い声援が響き渡った。

「うおっ!なに?なんの歓声??」

 急に聞こえた沢山の悲鳴にビクッとなった俺を笑いながら圭一郎が声援の原因を探す。

「あっ、アレかも。ほら見える?今、借り物競争の列に並んでる背の高い一年の子。」
「ん??あーあいつか!誰あれ。」
「バスケ部の期待の一年らしいよ。クラスの女子が、一年に王子が居るって騒いでただろ?」
「えっ!!圭一郎以上の王子なんているの!?」
「っ!!!」
「だーかーらー!抱きつくな!暑い!!」

 俺にとっての王子は圭一郎しか居ないに決まってるだろ。マジでこいつ三年になってから益々かっこよくなったんだよ。大人になったっていうか・・・何だろうな。

 なんて、圭一郎に見惚れてたから気付かなかったんだ・・・。
その一年の王子が目の前に立っているなんて。

「巻島先輩!僕と来てください!」
「・・・・は?」

と言った時には、急に体がフワッと浮き上がり隣に居たはずの圭一郎の顔が下に見えた。

!!!抱っこされてる!!しかも姫抱っこ!?

「えっ?なになになになに?!?!?」
「すみません。これで行きます!」
「えっ誰だれダレ?!」

 圭一郎に助けを求めるように手を伸ばしたけど、ギリギリで届かなかった。

 周りからは、先ほどとは比べ物にならない程の悲鳴と、何故か男どもの野太いブーイングで会場が大騒ぎになっていた。

なになになになに?これどんな状況?!あれ?こいつさっき騒がれてた一年か。そーか借り物競争なんだな。でも何で俺?お題が『巻島直樹』か?それとも『女顔の男』とか?・・・まあでもしょうがねえか、そういう競技だもんな。圭一郎以外に抱っこされるのは不本意だけど、これは競技だ。戦いだ。

「お前、俺を連れていくからには一位をとれよ?」

 そう言って、一年王子が走りやすいように首に腕を回してしがみ付く。もう一度顔を見上げると真っ赤な顔をした爽やかイケメンだった。

え?熱中症?大丈夫かこいつ・・・

 ダントツ一位でゴールテープを切る。
司会役で放送委員の井上が近づいてきて、お題の紙を一年王子から受け取り、王子を見守っていた応援席へと呼び掛ける。

「さぁ~!バスケ部期待の星の王子が三年の姫をお姫様抱っこで連れてきました!お題は何でしょうか!!」

 大声で発表されたお題に、黄色い声援やら悲鳴やら野太いブーイングが、雲一つない青空に響き渡る。



『 付き合いたい(又は抱きたい)人 』



・・・・・は?
いやいや、おかしいだろ。何だこのお題は。まてまて『付き合いたい』はまだいい。いや良くないけど。『抱きたい』って何だよ。高校生には卑猥すぎるお題だろコレ。先生よく許したな!

・・・このお題だからか。何で俺を選んだか分かったぞ。こいつがもしも一人の女子を選んだりしたら大変な騒ぎになるもんな!その点、俺は三年だ、三年に文句を言ってくる奴はそうそう居ない。悲しいけど女顔だしな。そこで、俺を連れていけば女子同士の争いも起こらず、なんなら笑いもとれるだろう。良い判断だったな、一年王子!

俺は、この場が盛り上がるなら笑いのネタにされても大丈夫だぞっ!

 そんな事を考えていると、少し落ち着いてきた悲鳴が再び響く。
今度は何だよ!と思いながらキョロキョロと見回すと、ふっと体が浮き上がる。

え?既視感?

 今度は、圭一郎にお姫様抱っこをされ連れ戻されていた。

「あっ!野田先輩!巻島先輩を連れて行かないでください!」」

「だめだよ。直樹は俺のだもん。」

!!!もんって言った!!
いつもカッコいい奴とは思っていたけど、初めて『可愛い』と思ってしまった。

「今は僕に返してください!」
「嫌だ!」
「返して!!」

 何故か低レベルな言い争いに発展している二人の王子(おまけに俺)を、先ほどまで悲鳴を上げていた生徒たちが見守っている。

すると放送委員の井上が突如、マイクを通して話し出す。

「俺も直樹なら、アリ寄りのアリかも・・・。」

 シーンとしている中でスピーカーを通して聞こえた声が、やけに真面目なトーンだったから逆に大爆笑を誘った。

流石、放送部。色々な場面の切り抜け方を熟知しているなと驚いた。

 その後は、井上が「俺も姫抱っこしてみたい」と言い出したが、身長が俺と2センチしか変わらないのに無理だろと更に笑いが起こり、大盛り上がりで幕を閉じた。




 この一連の騒動は『一年の王子と三年の王子が一人の姫を巡って争った』と噂され、何年も後まで語り継がれた事。そして翌年以降は借り物競争という競技名が『姫奪還戦』という可笑しな名前に変わった事を、俺たちは知らない。

しかも、『姫奪還戦』で告白をすると幸せになれる。というジンクス付きで。


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