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ー番外編 3年生ー 創立記念イベント
しおりを挟む三年生は受験でピリピリしている中、創立記念の行事が開催されている。簡潔に言えば、学園祭だ。
うちのクラスは『クレープ屋さん』をする。
最初は、メイドカフェが候補になったが他のクラスと被り、委員長がクジでハズレを引いたから第二候補のクレープ屋さんになった。俺は兄ちゃんに習って、作る係になった。
でもさ、こんなの酷いよな・・・。俺、ズボンなんだけど見た目はミニスカートみたいなやつにピンクのポロシャツを着せられて、その上に白のフリフリエプロンさせられてるんだぜ。俺が作るって言ったから断れなかったんだけど・・・これはズルいよな。しかもさ、少し長くなった髪をさ、不衛生だからって可愛いピンで留められてるんだぜ。帽子被るって言ったのに。
これで、クレープ作るのが壊滅的に下手なら良かったんだけど、ほら俺って器用じゃん?メチャメチャ上手いんだよ。味覚的にも視覚的にもさ。そうしたら、逃げられないじゃんか。
他の男子は、自由な格好で呼び込みに行くかレジ係。
売り上げが一番だったクラスにはご褒美があるんだって。だからさ、腹を括ったんだよ!こんな恥ずかしい格好をさせられるなら意地でも一位になるしかないだろ!割に合わないだろ!
というわけで、今もゼロ円スマイルを振り撒きながら何十個目かも分からないクレープを作っている。
今日はシフトも合わないから圭一郎と一緒に回る事も出来ない。どうせ今頃あいつは女の子に囲まれてるんだろ。俺は営業スマイルで頬の筋肉が痙攣しようとしているのに。って言ってもしょうがないんだけど。
「まっきー!お疲れ!休憩行っていいよ。」
「咲ちゃん!マジ疲れる。あとは頼んだ。」
「本当!予想以上のお客さんの数だったもんね。まっきー、休憩でウロウロするときは気をつけてね!まっきーの事を女子だと思ってる人結構いたから!」
「はぁぁ。最悪。でも何か言われても話せば男だって分かるから大丈夫だろ。教えてくれてありがとう。」
―――なんて軽く考えていた事を、とても後悔しています。
今まさに全力で逃げている。名前も知らない他校生から。
名前とメアドを教えろと迫られ、断って逃げたから追いかけられているのだ。
全校舎開放されている今日でも他校生が踏み込めない場所は分かっている。職員室と生徒会室だ。とにかく近い方へ向かった。
「失礼します!!匿ってください!」
俺は急いでドアを閉める。
「・・・巻島君?どうしたの??」
「あっ・・・副会長!ごめん。追いかけられてる!ちょっと隠れさせて!」
「う・・ん・・・。そこのソファに座っていいよ。」
「ありがと!」
生徒会室には副会長がいて、見回りの合間に休憩していたらしい。
「生徒会って大変だな。こんな日も遊べないなんて。」
「そんな・・こと・・ないよ。」
「ふーん。俺、せっかく休憩だったのに変なのに追いかけられてさぁ~。休憩どころじゃねえよな。」
「ま、巻島君。大丈夫だったのか?ここで休んでいいよ。」
「わーい!ありがとう。小谷!」
「・・・え?ぼ、僕の名前・・・知ってるの?」
副会長は、何故かとても驚いた顔をしている。
「は?当たりまえだろ!選挙の時、俺は小谷に投票したんだぞ!」
そういうと、副会長はとても嬉しそうに「ありがとう」と笑顔を見せた。普段あまり表情を崩さない副会長の笑顔は少し幼く見えた。
二十分くらい他愛もない話をして過ごし、休憩させてもらったお礼に『クレープ特別割引券 巻島直樹より』とその場で書き、副会長にプレゼントして生徒会室を出た。
戻っている途中、不意に腕を掴まれ振り向くと圭一郎が居た。安心した。
「やっと直樹に会えた!!一緒に行こう!」
「えっ、一緒に回れるの?やったー!」
二人で回れると思っていなかったから嬉し過ぎて顔が緩みっぱなしだ。
「直樹、その格好すごく可愛いね。」
「俺は嫌だけどな。今はエプロンしてないから少しはマシだけど、あのフリフリは嫌だ。さっき店ではずそうとしたら委員長に怒られたし。」
「エプロンも可愛かったぞ。」
「・・・やめて。もう言うな。」
顔を赤くした俺を圭一郎がからかいながら歩いていると、カメラを持った生徒に声を掛けられる。
「すみません!お二人の写真を一枚撮らせて下さい!お願いします!!」
「え?写真?俺はいいよ。」
「後でもらえるの?」
「はい!!」
「じゃあ、いいよ!」
声を掛けてきたのは広報部の二年生らしい。
ハートとか星が飾り付けられた壁の前に立たされ「もう少しくっついて」とか「顔を寄せて!」とか指示され何枚か撮った。広報部二年は余程満足のいく写真が撮れたのか、何度もお礼を言いながら走ってどこかへ行ってしまった。
その後は休憩が終わって、また何十個ものクレープを作り、ゼロ円スマイルを振り撒き続けた。
副会長もクレープを買いに来てくれたけれど、俺の作った割引券を生徒会室に忘れたから定価で買うと言うので、「俺のおごりね」とスペシャルクレープをプレゼントした。
こうして一日目は終了した。
二日目は少ししかシフトに入ってなかったから、圭一郎と沢山遊べると思っていたのに「お前が居ないと稼ぎが少ない」と言われ、一日目よりも多く働く羽目になった。器用なのが裏目に出た結果だ。俺はこの二日間で一生分の営業スマイルを振り撒いたのではないかと思っている。
そして何より驚いたことがあった。まぁ~・・・驚いたというか、恥ずかしいというか、やめて欲しいというか・・・。
一日目に広報部の二年が撮った圭一郎と二人の写真。
ベストカップル写真コンテストで最優秀賞を獲得した。
何で!!!
おそらく、俺がクレープ屋の格好のままだったから女に間違われたのだろう。
恥ずかし過ぎるじゃないか!!写真を撮った広報部が二年生だったから俺の顔を知らなかったんだ。
忙しくて恥ずかしい創立記念イベントだったけど、圭一郎との楽しい思い出の一つになった。
ところで、例の写真だが・・・。あのまま本人達の手元には渡らず、ポスター大に引き伸ばされて広報部の活動部屋にいつまでも大切に飾られており、後輩達が部活動の一環と称し二人が通う大学に潜入し『ご本人見学会』を定期的に開催しているなんて、俺たちは知らない。
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