単純な俺たちのありふれた恋の話

みーくん

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―番外編 3年生― 最後の副会長くん

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 「はぁ~。巻島君すごく頑張っていたな。」

 僕は生徒会の副会長だ。今日は創立記念式典の校内見回りをしている。

 二年生の三学期に、ずっと嫌いだと思っていた巻島君への気持ちが恋だったと気付かされてから、八ヶ月くらい経っただろうか。

 あの時は自分でも自分の感情を持て余しておりイライラしてばかりだったが、それが『嫌い』ではなく『好き』だと気付けば、不思議と気持ちも落ち着いた。常に視界に入ってきて目障りだと思っていたのは、自分が自然と巻島君を目で追い探し求めていたからなのだ。

 あの日、キス未遂を犯してしまった日から巻島君への罪悪感はあったものの気持ちを消す事もできず、苦しんでいるのも確かなのだ。しかも・・・あの野田圭一郎はおそらく・・・。
せめて、卒業までに名前くらいは知って欲しい。欲を言えば、一回でいいから僕の名前を呼んで欲しい。




「それにしても、今日の巻島君の格好。可愛かったな・・・。後でクレープ買いに行ったら野田圭一郎に怒られるだろうか・・・。」

 生徒会室で休憩をしながら、先ほど目に焼き付けた巻島君の笑顔を思い出している。

「失礼します!!匿ってください!」

!!! 巻島君??!!!
どどどどどどうしたんだ?? えっ?巻島君?えっっ?
どどどどどどどうしたらいいの!? 夢?夢なの??

「追いかけられてる!ちょっと隠れさせて!」

はっ!大丈夫なのか?巻島君疲れてるじゃないか。立たせたままで何やってるんだ。休ませてあげなきゃ!!

「生徒会って大変だな。こんな日も遊べないなんて。」

「そんな・・こと・・ないよ。」

ダメだ。緊張して声が上手く出てこない。
可愛い可愛い可愛い。巻島君っ可愛い!
話したい!もっと話したい。
全然大変じゃないよ。僕は今、心から副会長をやって良かったと思ってるんだよ。この瞬間の為に副会長になったのではないかとすら思ってるんだよ。

「休憩だったのに変なのに追いかけられてさ~。」

ナニ!!! 
これは直ぐにでも会長と風紀委員長に連絡して巻島君の警護を強化しなくては!!
電話かけようか!?いや、でもこの場を離れたくない。
折角、巻島君と二人きりなのに!!

「ここで、休んでいいよ。」

よし!これで巻島君を足止めは出来た。もう少しだけ、野田君ごめんね。もう少しだけ同じ空間に居させてほしい。言葉を交わすことを許してほしい。


「わーい!ありがとう。小谷!」

・・・え?・・・
僕の名前・・・え?まさか・・・そんな・・・
・・・知って・・・くれてたの・・・?

 まさか僕の名前を知っているとは思わなくて、しかも呼んでくれるとも思ってなくて。
ついさっき卒業するまでには・・・なんて考えていたのに。

 巻島君はずっと前から僕の事を知ってくれていたんだ。
嬉しい。嬉しい。本当にありがとう。僕を知っていてくれて。

 直ぐに終わるかと思われた夢のような時間は二十分くらい続いた。
巻島君の好きな音楽の事とか、初めてピアスを開けた時の事、休日の過ごし方までプライベートな部分を教えてくれた。
おそらく僕は、家に帰ってすぐにネットで巻島君の好きなアーティストを検索してしまうだろう。

 話をしている巻島君は、ずっと笑顔で僕の目をしっかり見ながら話してくれた。とても誠実な人だった。

 これ以上好きになりたくないのに、好きになったらいけないのに・・・。

 「じゃあ、そろそろ行くね。」と立ち上がった巻島君の腕を思わず掴みそうになったけれど、グッと踏みとどまった。
 
 メモ用紙に何かをサラサラっと書き、僕にくれた。

『クレープ特別割引券 巻島直樹より』

 休憩させてくれたお礼・・・可愛らしく綺麗な顔に似合わず男の子らしい角ばった文字。

 こんな・・・こんなの使えるわけないじゃないか!!

 巻島君が生徒会室を出ていった後、僕は皺が寄らないように綺麗に二つ折りにして生徒手帳にしまった。これは絶対に使えない!どこぞの神社の神様よりもご利益のあるお守りだ。

 絶対に落とさないように、生徒手帳を胸ポケットにしまうと、ほんのりと心が温かくなる。

 もう大丈夫だ。片思いだって何だって。
さっき話した時の僕だけに向けられた笑顔と、このお守りさえあれば。
この先何があっても、僕は前を向いて笑顔で歩いて行ける。

 よし!クレープ買いに行こう!!



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