白馬の王子様を探していたら現れたハイスペストーカー男に尽くされてる

チャトラン

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第11話 暗い車とゲームの答え

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「……は、」

さっきの騒ぎが嘘みたいに静かになった外階段に一人、ポツンと取り残される。犬の散歩中らしいおばさんが、裸足のままポカンと突っ立っている俺を訝しげにガン見して行ったけど、今はそれどころじゃない。
俺の頭の中は混乱に次ぐ混乱で、大騒ぎになっていた。

……え、待ってくれ。さっきの、マジでストーカーさん?
あの感じ、仕事中っぽくなかった?
あの人、わざわざ仕事中に助けに来てくれたの?
てか、てっきり脂の乗ったオッサンだと思ってたのに、俺と大して歳変わんない感じだったじゃん。
何あの見るからにオーダーメイドなスーツ。
何あの高そうな靴。
なんであんな人が俺なんかのストーカーしてんの。



その時だ。
微かに聞きなれた音がして、俺はグルグルこねくり回していた思考を全部放り捨てた。部屋の中に飛び込むように戻って、ホーム画面に表示された通知を連打する。

『シーナ。さっきはごめん。仕事が詰まってて。行くのも遅くなったし。とにかく、もう全部大丈夫だから』

うわ、うわ。やっぱり、本当にストーカーさんじゃん。
見慣れたメッセージ画面の中のストーカーさんがさっきの話をしてようやく、さっきの男がこの人だったのだと実感が湧いて、謎の感動みたいなのが込み上げてくる。
てか、やっぱり仕事中だったんじゃん。

《いや、俺よりストーカーさんでしょ》

『俺?何が?』

"何が?"じゃないんだよ。

《なんであんな奴らに喧嘩売っちゃうわけ?》

そんでなんで圧勝できちゃったの?

《まじで、本当に、大丈夫だった? てか、今も大丈夫? アイツら車の中で暴れたりしてない?》

『……はー、ちょっと待って。シーナに心配される喜びを噛み締めてる。あー』

ダメだ話が通じない。カッコいいストーカーさんからいつものストーカーさんに戻ってしまった。
俺が言うのもなんだけど、呑気すぎるだろ。思わず額を押さえて、ため息を吐く。

《手以外に怪我は?》

『ないよ』

《……格闘技でもやってたの?》

『ちょっとだけ。シーナを守れる強い男になりたくて』

そっとスマホから目を離す。
……待ってくれ。ちょっと理解が追いつかない。"俺を守れる強い男になりたくて"? そのためにわざわざ格闘技を習ったってこと?
いや、それも大概意味が分からないけど、つまり、格闘技をそこそこ修めちゃうぐらいの長い期間、俺のストーカーやってたってことにならないか?
……いやいや、まさか。いくらなんでもそれは冗談でしょ。

《……ストーカーさんの仕事が分かった。格闘家だ》

『俺、格闘家に見えた?』

いや、スーツ着込んだモデルみたいなスタイルの格闘家って全然イメージないけど。

《だって超強かったじゃん》

『……見てたの?』

《後ろ姿だけ。大男のこと蹴り飛ばしてた》

『シーナに褒められるなら体鍛えててよかった。格闘家じゃないけど嬉しい。やった』

格闘家じゃないんだ。じゃあ本当に俺のストーカーしながら格闘技一つ修めちゃったのか。この人相手に今更だけど、そんなストーカー聞いたことないな。店長が聞いたらなんて言うかな。

ポピン。
俺が遠い目をして店長が大騒ぎする様子を思い浮かべていると、一件の写真が送られてきた。
骨張った白い手の甲に絆創膏が貼られている写真だ。

『使いたくなかったけどシーナが絶対使えって言うから。泣きながら使った』

これまたバカなメッセージを無視して、まじまじ写真を見つめる。チンピラを殴ったせいだろうか。骨の膨らみに合わせて、手の甲が切れていた。

いや俺さ、あれこれ聞く前にまずお礼だろ。
写真を見ながら思う。
なんでこの人がこんなに俺に色々してくれるのか分かんないけどさ、俺のせいで怪我させてんじゃん。
ストーカーさん来てくれなかったら、あのバカたちも俺も何してたか分からないし。

《……怪我させてごめん。ありがと、本当に助かった》

《あと、ストーカーさんマジでかっこよかった》

思ったことそのままにメッセージを送ると、いつもなら速攻で帰ってくるストーカーさんの返事が、既読だけつけてピタリと止まった。

『……そういうこと、あんまり言わないでもらえる』

《ごめんそんなにキモかった?思ったこと言っただけなんだけど》

『キモいわけない。そうじゃないけど』

《なに?》

『嬉しすぎて俺が死ぬ』



「……は、?」

え、なに、この人、今俺に褒められて照れてんの?
大男蹴り飛ばすような、カッコいいあの男が?
俺の「カッコよかった」だけで?

「ぶ、」

つい数十秒前まで責任を感じて落ち込んでたのに、今は笑ってる。
いやだって、カッコよかったって言われて照れるとか小学生みたいじゃん。
全然似合わないっていうか、逆に似合うっていうか。
どんな顔で照れてるのか超見たい。
しまったな、やっぱりさっき顔見ておくんだったな。

『……とにかく、シーナに怪我がなくて良かった』

なにそれ。わざと? 次に照れるのは俺の番って?
喉の奥からグッと湧き上がってくる気恥ずかしさに俯く。
いやいや、大人の男二人で何やってんのこれ。おかしいでしょ。
ふふ、と肩を揺らして笑う。

……あーあ、今更になってオセロの負けが悔しくなってきた。
せっかくこの人のことを知るチャンスだったのに。
もうこんなチャンス、巡ってこないだろ。
この人めちゃくちゃガード固いし。
あんなところを見た後じゃ、余計に知りたくなってくるじゃん。

「……ん?」

俺が熱くなった頬をパタパタ扇ぎながら、ちょっとでも情報がないかなと、ついさっき見た後ろ姿を脳内でリピート再生していると、あるところで映像がピタリと止まった。
あれ、待てよ。

「なんか車の窓、ガチガチのフルスモークじゃなかった……?」

あれ?あんな黒い窓って法律でどうなんだっけ。ダメなんじゃなかったっけ。……そもそも一般人があんなフルスモークの車に乗る? それこそカタギじゃない仕事の人くらいしか………、あれ?

盗聴器、監視カメラ、信じられないくらいの情報網とか、異常に強い腕っ節、運転手付きの外車、フルスモーク。

俺の頭の中で一つの仮説が出来上がる。

「……もしかして。本当にもしかしてなんだけど。ストーカーさんの職業ってさ……、"ヤ"から始まったりする?」

いや、まさか。
ポピンと、俺の呟きにスマホが返事をした。

『あー、バレちゃった』
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