白馬の王子様を探していたら現れたハイスペストーカー男に尽くされてる

チャトラン

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第23話 恋は戦争

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夏の熱気がこもった薄暗い部屋に、水音と二人の荒い息が響いていた。外では相変わらず、しとしと雨が降っている。

「傷、グロいから」

その傷が一番グロい時、誰が治療してやってたと思ってんだ。
そう言いたくなるような言葉を落として、男は服をスルスル剥き、トンとうつ伏せに俺をソファーに押し倒した。
胸元にはお気に入りのふわふわクッション。今は見る影もなく、俺から出るあれこれでビチョビチョのぐちゃぐちゃになっちゃってるけど。

「……ぅ、あ」

「はーー……もうクソかわいい。何これ」

何これ。
それはこっちのセリフである。
なんだこれ。なにこれ。俺、なんでこんなになってんの。
これだけグズグズになっておいて嘘だろって思うけど、なんと、まだ何にも始まってない。それでこのぐちゃぐちゃっぷり。あれ、俺ってこんなキャラだったっけ。

「あ……ん、」

のし掛かるみたいに俺の後ろに覆いかぶさった男の素肌が、汗ばんだ背中に密着する。
大きな手のひらが俺の頭を宥めるように撫でている。指先が耳元をくすぐって、その度に声が出た。

「……ちょ、やだ…あっ」

背骨をなぞるみたいに薄い唇が下に下に降りていく。
尾てい骨がゾクゾク震えて背中がグッと丸くなる。
それを咎めるように、中の指がグッと俺の腹を押し込んでいいところを刺激するからもう堪らない。

「ヒ、あ、そこ……んん~っ」

「ん、ここ、ね」

「ぁ、クソ……や、あぁッ…」

グチュグチュ尻を掻き回されるたびに、腰がへこへこ揺れて。抱えたままのクッションにペニスを擦り付けてしまうのが嫌で、頭を振った。

「……も、いい、ぅ……も、いいから、あぁっ!」

「……もう少し我慢」

「……う、グスッ……ん、」

揺れてしまう尻を男が押さえつけるようにして、指を回す。後ろから、ぐぽ、と聞くに堪えない音がしてグズグズ鼻を鳴らした。男の動きに合わせて中が収縮する。そのたびに中で男の指の形を感じるのが嫌に生々しくて、頭を振るとパタパタ汗が飛び散った。

「こら、……ヤダヤダじゃないでしょ」

だって。だって自分がこんなふうになると思わなかった。
こんなのあんまりだ。

「は、あ、……ああぁ!」

グッと指を奥に押し込まれて、ガクンと頭が反る。

「きれーな顔、ぐちゃぐちゃ」

「あ……!あっ、あ、んぁ」

涙やら涎やらでベチャベチャになった俺の顔を振り向かせた男がぺろりと舐めた。そんな些細な刺激でさえ我慢できなくて、腰がピクと震える。

「あー、……、かわいい……」

「ん、や、……んん」

「うん、気持ちいいね」

うっとりと呟く男の掠れた声に、脳みそがグツグツ弱火で煮込まれているみたいに茹っていった。この夏散々聞いていた声なのに、聞いているだけで身をよじってしまうくらい気持ちが良い。

「あー、……もうぐちゃぐちゃだ…」

「ああ!まえ、……んぁ、まえ、だめ!あ、」

クッションで出来た空間に、手を差し込まれてペニスを扱かれる。

「あ、ああ、い、いく……ん、あ」

ビクンッと体が大きく跳ねた。
それすらも男の体の下で押さえつけられて、あまりの快感にポロと涙が溢れる。

「ぐ……ん、ひぃ……ん…」

首をのけぞらせたまま、必死で呼吸をしていたら、あの冴え冴えとした黒い目で俺を見下ろすようにしていた男が、俺の頬をそっと持ち上げ、口に蓋をするみたいにキスをした。喉の奥にトロトロ流れ込んでくる唾液ですらこの男のものなら気持ちがいい。舌をジュと吸われてまた腰がみっともないくらいに跳ねる。

「…ん、…舌吸われてイッた?やらし……」

「………ん、、ぃ、うるさ……あぁ!」

後ろから指が抜かれる感覚に、つま先がグッと丸くなった。

「……ひ、うぅ」

「ああ、ほら。泣かないで」

男が宥めるみたいに俺の頭を優しく撫でた。リップ音を立てて頸から背中に何度もキスが落とされる。
俺はグズグズ鼻を鳴らしながら、背中に降り注ぐ男のキスを受け入れた。どうかこの間に収まってくれって祈ったけど、散々なぶられ続けたソコの熱が少しも冷めない。くぱりと口を開けて痙攣を続けている。じんじんと腰が疼く。やめろ、やめろ。とどんなに抑えようとしても、発情期の動物みたいにゆっくり腰が上に上がって、男の方に擦り付けるようにして揺れる。

「……、ねえ、シーナはどうして欲しい?」

「……は、……ん、」

尻と太ももの間にぬるりと熱いものが滑り込んできたのがわかって喉が震える。優しくて穏やかで、ちょっと気を抜いたら身も世もなく縋り付いてしまいたくなるような声。きっと悪魔がいたらこんな声だ。

「シーナ。ねえ、シーナ。……俺のこと、欲しがって」

そしたら、全部あげるから。
そんな言葉に頭がビリビリ痺れた。
ねえ、そんなのずるいじゃん。
肩口にある頭が甘えるみたいに擦り付けられる。
ズルリと脚の間を抜き差しされるそれは焼けるみたいに熱くて大きい。じわじわと腰が疼いて。俺は堪らず、肩口にある男の顔を引き寄せて、その綺麗な目を見つめ懇願した。

「欲しい。ねえ、良いから。……ぜんぶ、ぜんぶほしい。ぜんぶちょうだい……ん、あ…」

「シーナ、シーナ、……」











……ってさ、こんな夜過ごしたら、誰だって幸せいっぱいで目覚めるじゃん?
起きたら、どんな話をしよう。
また抱きあってキスをして、それから。
まだここにいてほしいと言ってみよう。

そんなことを思いながら幸せな気持ちで眠った翌日。目を覚ますと男はいなくなっていた。
誰もいなくなったソファーの上で、がらんとした部屋を眺める。
肩から男が使っていたブランケットがずり落ちて、あいつが吸っていたタバコの匂いが香った。

「……、」

誰もこの時の俺の気持ちなんてわからない。

数日後。
扉のポストの中に、質素な茶封筒が入っていた。中には分厚い札束。こんな大金どうしたのか。ああ、そうだ。そういえばあいつ、半グレから金を盗んでボコられたんだっけ。

「……なんだこれ」

これで終わりってこと?
大金を前にして最初に思ったのはそれだけだった。
誰がどう考えても手切れ金じゃんか。これ。
死にかけたところを他人に助けられて。
非日常の中でちょっと気持ちが盛り上がって。
うっかり手を出しちゃった。色々初めてもらっちゃったけど、一夏の火遊びでした。ごめんねって?
何にも知らないガキは、好きだのかわいいだの言われてまんまと本気になったけど。

「……馬鹿じゃん、俺」

結局、俺は家を手放さずに済んだ。
男の置いていった大金のおかげだ。
だけど、がらんとした部屋は無駄に広くて、居心地の悪いくらいに静かで。
帰ってきても、ソファーの上で膝を抱えてテレビを見ている男がいない。顔を上げて、「おかえり」とあの穏やかな声で手をあげてくれる男がいない。
せっかく手放さなくてもよくなった家に、あまり帰らなくなった。
初めて彼氏を作ったりして、そいつの家に入り浸った。
本気になった方の損。そんなことを考えたり、好きでもないやつと付き合うようになったのも、あの男がいなくなった後からだった。

そう。
それでなくても、母親が運命の男なる奴と姿をくらませて恋愛に良い印象を持っていなかったのに。よりにもよってあんな、普通じゃない男に初恋と初体験を捧げてしまったせいで。
俺は見事に恋愛観を拗らせてしまったのだ。







「………う、」

夢現。もはや黒歴史として丁重に鍵をかけ、記憶の奥底に葬られていた記憶が、溢れ出すみたいにして浮かび上がってくる。
車の中で見た横顔が夢の中の包帯まみれの傷だらけの顔と急速に重なった。
瞼が切れて腫れた目と。整った形の唇と。あとは湿布と包帯と絆創膏。
俺が知っている姿とは随分変わっていた。
弱った動物みたいな。放っておけない少し頼りない男が、いつのまにかあんなかっこいい大人の男になっていた。
声も少し低くなって。
だけど、あのサラサラとした綺麗な黒髪と、つるりとした澄んだ黒い瞳。高い身長と、穏やかな喋り方には、確かに覚えがあった。

……ああ、俺は二度も、同じクズ男に恋をしてしまったらしい。

「……俺、バカじゃん!」

ガバッと起き上がった時、俺はいつものソファーに横たわらされていた。
咄嗟に周りを見渡す。
誰もいない。
車の中で眠ってしまった後、ここに寝かされたんだろう。

「あのクズ男……」

あの男、また俺のこと置いてくつもりだ。
頭がぐわわーっと熱くなる。
散々優しくして、仲良くなって。自分を好きになった頃に置いていく。
それも一度じゃない。
忘れた頃にもう一度現れてわざわざ同じこと繰り返しやがった。

「てかなんでアイツヤクザになってんだよ!」

ボフン!とクッションをソファーに投げつける。
話が違うじゃん!
まともな生活送りたくて、腹刺されてまで金持ち逃げしたんじゃなかったのかよ!!
ってか俺のこと捨てといてなんで護衛とかしてんだよ!!!

「ムカつく……マジでムカつく!」

念のため家中の扉という扉を開けて見て回るが、男の姿はない。
男の姿がないことを確認するたびに、かつてないくらいの怒りが湧いてきてドスドス足を踏み鳴らした。
足音がうるさかったんだろう下の階からドン!と天井を突き上げられて「うるせー!!」と叫び返す。八つ当たりだ。

まじでなんのつもりだ。あの男。サイコパス? サイコパスなのか?
あいつの思考回路がまっっったく理解できないが、最早そんなことどうだっていい。
まんまと同じ男好きになって同じ失敗を繰り返そうとしている自分が情けなくもあるが、そんなことも隅に放り投げておく。
捨てた相手にまた気を持たせて弄んでいたにしろ、俺のことを本気で好きだったにしろ、そんなの、もう、関係ないのだ。

ガチャン!
最後に開け放した浴室のドアの向こう。
パチリ、と洗面台の鏡に映った自分と目があった。

「、」

王子様に逃げられてメソメソ可愛く泣けるタイプなら、俺も今頃他の男と幸せになれてたんだろうか。
残念。俺のことをかわいいなんて言う奇妙なやつはこの5年間でたった一人しかいなかった。その言葉も今や本当か嘘か分からないけど。

「………あいつ、俺が欲しがったら全部くれるって言ってたよな」

……ならありがたく全部もらおうじゃん。
ふん!と浴室のドアを無駄に勢いよく閉めて、俺は身支度……いいや戦争準備を始めた。
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