蝉時雨〜雪空の下。夏、さんざんと

鱗。

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雪空の下。夏、さんざんと



朝が来て夜が来て、一日が終わる。生命を無駄にする暴挙。夢に目標に敗れた、敗北者の純然たる日々の摩耗。こんな窮屈な部屋で、朝から晩まで、俺の肌を求める、代わる代わる訪れる生活支援者達優しい女の子達の希望に任せて、なんとも不毛な一日を過ごしてしまった俺は、そのあくる日、初雪と共に氷点下を叩き出した気温の、朔風さくふうが吹き荒ぶ街に繰り出した。

身銭も殆どなく。ただ、カメラとレンズを一台分と、自分自身の身体とを用意して。

カメラとレンズ以外、自分で用意したものはない。下着から何から全て、生活支援者達優しい女の子達の希望にそって用意されたものに身を包んでいた。ブランド品には特別興味はなくとも、キラキラとまばゆいショーウィンドウ越しに見える自分自身を横目に見ると、そこには、有名なファッションブランドとなんらかの契約を結んだ貫禄と落ち着きとを兼ね備えた人間と言われても頷ける男の姿が映り込んでいて。

人の目を誤魔化すのって、こんなにも簡単なのに。カメラ一台で写し撮れる、子供にだって才能を開花させられる作品が、全く世間から評価を受けないのは、自分自身の中身が空っぽだからかしら、なんて干渉に浸った。

カメラを始めたきっかけは、なんだったのかすら、自分の中で明確ではなくなって。

俺の側には、神様がいて、ぴかぴかきらきらしていたその人に、『これが君の生きる道だよ』なんて示された気持ちになれた若かりし日々を生きたのも、今は昔。

俺の側にはもう、幼い俺をそそのかした落伍者らくごしゃの神様はいない。


「………さむ」


冬は嫌いだ。12月の、自分の誕生日が近づく度に、いつも思う。

消えてなくなる前に、どうかどうか、この世に爪痕を残せる様な奇跡の一枚を、残せます様にと。

それが残せれば、俺はきっと、この世に未練など残さずに、この命を明々と燃やし尽くせるのに。

なんて、干渉に浸った最中さなか



イントロダクション。



「なにあれ」


今までの人生の全ては、長い長い序章に過ぎなかったのだと、確信できる存在が。

季節外れの蜃気楼や陽炎の様に、ゆらゆらと。


「ねぇ、君」


雪空の下。
夏、さんざんと。


「この川、底が意外と深いから、飛び降りても簡単には死ねないと思うよ」


蝉時雨せみしぐれの音を聞く。


「……死なない」

「そっか。なら、危ないから、もうちょっとこっち来ようか。知らない人に、警察とか呼ばれちゃうよ」


俺の夏は。


「あのさ、いま暇?」


まだ、始まってもいなかった。


「モデルとか興味ない?」

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