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第二話 幼馴染の慰め
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体のいい断り文句だったのか……いや、あれは本気の言葉だった。俺の態度が色の付いた物だと分かっていながら、彼は、城田 由衣さんは俺を振ったんだ。だとしたら、格好が悪いにも程がある。彼女がいるというのもカモフラージュだとバレて、その上できちんと振られたのだから。
あの人は、男から迫られる度にあんな風に受け流していたんだろうか。だとしたら、もうあの店には行けそうにないな。畜生、いいオンナだと思ってたのに。あの人の俺の中にある価値は、誰の手にも染まっていなさそうな所にもあったのに。先にお手付きされていただなんて、してやられたな。あの人、そんな気配、微塵も感じさせなかったけど、実は相当な手練れだったりするんだろうか。確かめたい気もするけれど、これ以上の深入りはしない方が賢明かもしれない。でもまぁ、本格的に嵌る前で良かった。関係性だって、あの店以外にはないのだし、あの店に足を運ばなければ、今後一切関わる事もない。
「なんか、荒れてる?……っていうか、荒んでる?」
「意味同じじゃないですか、それ」
「何か、後の方がダメージ大きそうだし、根深いイメージがあるんだよね」
会員制クラブだなんて言っても、結局の所、猥雑な空気はどこに行っても変わらない。親に付き合って一緒に飲みに来た、幼馴染兼腐れ縁の俺達二人は、煌びやかな美女達に囲まれて良い気分になっている親友同士の親達に関する興味など元よりなく、乾き物を口にしながら時折シャンパンで口を湿らせていた。どれだけ飲んでも酔える気がしない。それは隣にいる拓人さんも同様で、とは言え彼は俺とは違い下戸の部類に属する為、オレンジを三玉使って作ったジュースをちびちびと口にしていた。
「彼女に振られたお前の慰安もあるんだから、多少はおっさん共に混じらないと」
「知りませんよ。俺を出汁にして飲む口実をこじつけただけでしょ。自分達の方が子供みたいに盛り上がって……はっきり言って付き合いきれません」
「やっぱり、荒んでる~」
なんで面白そう、というか、若干はしゃいでるんだ、この人は。俺が女性関係で揉めたり、つるんでたオンナと別れたりする度に、いつもこんな態度を取ってくる。悪趣味にも程があるのに、いまいち邪険に扱えない。何故なら、俺が自分の心の内を話せるのはこの人だけだからだ。幼い頃から、拓人さんは俺にとって一番身近な相談相手だった。だから、今更になって突き放す気にもなれず、随分と長い期間、この人と俺は腐れ縁の関係性を続けている。
冬の間利用している別荘の、俺の父の私室の一つとして使用している部屋にある本格的なモノレールに見入っていた彼に、俺はゲイなんだと告白した時も、特別態度を変えたりせず、いつも通りに接してくれた。内心はどうだか知れなかったが、それだってもう10年位は前の話になってしまうので、はっきり言って時効の域に差し掛かっている。今更、あの時のアレはショックだったと言われた所で責任の取りようがないし、寧ろこっちが信じられない。
「そんなに本気だったの、カノジョ」
ほら、こんな話振ってくる時点で、手の施し様がない。父達がいるこの場で話しても何ら問題がない言葉選び。飲んでも居ない癖に、絡み酒かよ。昔からいちいち、俺の恋愛事情に首突っ込んで。ゴシップ好きは変わらないな。
「……可愛いには、可愛かったですよ」
「ふぅん」
「でも、男がいたんです。まぁ、それなら仕方ないかなって」
「それで諦めるお前じゃないじゃん。あれだろ、その相手がお前じゃ絶対に敵わない様な、ナイスミドルとかだったんだろ」
ミドルという年齢では無いにしろ、的確に的を得た話を展開していく拓人さんに、思わず舌打ちをする。しかし、間違っている指摘ではなかったので、ダンマリを決め込むしかなく。俺は無言でシャンパンを一口含んだ。
「難しいね、恋愛って。良い奴は、みんな相手いるもんね」
自分もそんな経験がある、と言わんばかりの態度に、思わず傾斜の一途を辿っていた自分の機嫌の事など忘れて視線を隣に移す。すると、オレンジジュースで作られた氷をグラスの中で崩し、シャーベット状にした物を口にしながら、拓人さんはVIP席から望める、下界にあるホールを照らす煌びやかなシャンデリアを瞳に映し込んだ。
「人のモノだから良いのかなって、手が届かないから良く見えるのかなって、ずっと思ってたけど。いざ目の前にあっても、どうしようも無いなら、それってもう、自分の問題だよね」
体のいい断り文句だったのか……いや、あれは本気の言葉だった。俺の態度が色の付いた物だと分かっていながら、彼は、城田 由衣さんは俺を振ったんだ。だとしたら、格好が悪いにも程がある。彼女がいるというのもカモフラージュだとバレて、その上できちんと振られたのだから。
あの人は、男から迫られる度にあんな風に受け流していたんだろうか。だとしたら、もうあの店には行けそうにないな。畜生、いいオンナだと思ってたのに。あの人の俺の中にある価値は、誰の手にも染まっていなさそうな所にもあったのに。先にお手付きされていただなんて、してやられたな。あの人、そんな気配、微塵も感じさせなかったけど、実は相当な手練れだったりするんだろうか。確かめたい気もするけれど、これ以上の深入りはしない方が賢明かもしれない。でもまぁ、本格的に嵌る前で良かった。関係性だって、あの店以外にはないのだし、あの店に足を運ばなければ、今後一切関わる事もない。
「なんか、荒れてる?……っていうか、荒んでる?」
「意味同じじゃないですか、それ」
「何か、後の方がダメージ大きそうだし、根深いイメージがあるんだよね」
会員制クラブだなんて言っても、結局の所、猥雑な空気はどこに行っても変わらない。親に付き合って一緒に飲みに来た、幼馴染兼腐れ縁の俺達二人は、煌びやかな美女達に囲まれて良い気分になっている親友同士の親達に関する興味など元よりなく、乾き物を口にしながら時折シャンパンで口を湿らせていた。どれだけ飲んでも酔える気がしない。それは隣にいる拓人さんも同様で、とは言え彼は俺とは違い下戸の部類に属する為、オレンジを三玉使って作ったジュースをちびちびと口にしていた。
「彼女に振られたお前の慰安もあるんだから、多少はおっさん共に混じらないと」
「知りませんよ。俺を出汁にして飲む口実をこじつけただけでしょ。自分達の方が子供みたいに盛り上がって……はっきり言って付き合いきれません」
「やっぱり、荒んでる~」
なんで面白そう、というか、若干はしゃいでるんだ、この人は。俺が女性関係で揉めたり、つるんでたオンナと別れたりする度に、いつもこんな態度を取ってくる。悪趣味にも程があるのに、いまいち邪険に扱えない。何故なら、俺が自分の心の内を話せるのはこの人だけだからだ。幼い頃から、拓人さんは俺にとって一番身近な相談相手だった。だから、今更になって突き放す気にもなれず、随分と長い期間、この人と俺は腐れ縁の関係性を続けている。
冬の間利用している別荘の、俺の父の私室の一つとして使用している部屋にある本格的なモノレールに見入っていた彼に、俺はゲイなんだと告白した時も、特別態度を変えたりせず、いつも通りに接してくれた。内心はどうだか知れなかったが、それだってもう10年位は前の話になってしまうので、はっきり言って時効の域に差し掛かっている。今更、あの時のアレはショックだったと言われた所で責任の取りようがないし、寧ろこっちが信じられない。
「そんなに本気だったの、カノジョ」
ほら、こんな話振ってくる時点で、手の施し様がない。父達がいるこの場で話しても何ら問題がない言葉選び。飲んでも居ない癖に、絡み酒かよ。昔からいちいち、俺の恋愛事情に首突っ込んで。ゴシップ好きは変わらないな。
「……可愛いには、可愛かったですよ」
「ふぅん」
「でも、男がいたんです。まぁ、それなら仕方ないかなって」
「それで諦めるお前じゃないじゃん。あれだろ、その相手がお前じゃ絶対に敵わない様な、ナイスミドルとかだったんだろ」
ミドルという年齢では無いにしろ、的確に的を得た話を展開していく拓人さんに、思わず舌打ちをする。しかし、間違っている指摘ではなかったので、ダンマリを決め込むしかなく。俺は無言でシャンパンを一口含んだ。
「難しいね、恋愛って。良い奴は、みんな相手いるもんね」
自分もそんな経験がある、と言わんばかりの態度に、思わず傾斜の一途を辿っていた自分の機嫌の事など忘れて視線を隣に移す。すると、オレンジジュースで作られた氷をグラスの中で崩し、シャーベット状にした物を口にしながら、拓人さんはVIP席から望める、下界にあるホールを照らす煌びやかなシャンデリアを瞳に映し込んだ。
「人のモノだから良いのかなって、手が届かないから良く見えるのかなって、ずっと思ってたけど。いざ目の前にあっても、どうしようも無いなら、それってもう、自分の問題だよね」
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