〜空蝉〜高校最後の夏。空っぽになってしまった僕に、力尽くで寄り添ってくれた君

鱗。

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第一話 恋がしたい。

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大学受験を前にした、高校生最後の夏。だとするならば、受験生の僕がやる事はただ一つ、勉強を置いて、他に無いのだけれど。僕の目の前にいて、広げた参考書の上に、ダブルチーズバーガーのセットで付いてきたフライドポテトの食べかすをばら撒いて油染みを付けても平然としている同い年のその子は、どうやら、その大前提に当て嵌まらないらしい。


「恋がしたい」


いきなりというか、予備動作すらなく。相変わらずだなぁ、この子は。


「高校生最後の夏だよ?制服でデートするなら、今しかない訳よ?あとは全部コスプレになっちゃうんだよ?」

「まぁ、そうだね」

「潤いが欲しい……」


相手くらい、すぐに見つかるじゃない、お前なら。その顔ぶら下げて、今いるファストフード店がある並びを歩いて帰ってくるだけで、いくらでも。でも、そんな風にして出会った人との間で、この子の……高須 人志の望む様な恋愛が出来るかは、また別問題。ロマンチストであり、現実主義。出会い方一つを取っても、理想が高いとも言い換えられる。そう考えてみると、この子も大変だなぁ。ただ、恋愛に対して持つ価値観が、量より質という考え方には、わりと好感が持てる。僕も、同じ様な価値観の持ち主だから。


「お前は、誰かアテないの?」


と言っても、僕にその話を振るのは、ちょっとね。会話にもある程度のセンスは必要だよ、君。


「いまは、こっち優先」


シャープペンシルのキャップ部分で、参考書とノートが重なっている小さなツリーを突くと、人志は頬杖を付いて端正な顔をその上に置き、僕の顔をジッと見つめた。この瞳に見つめられる度に、いつも思う。僕は、この子以上に瑞々しく透き通った瞳を持つ人間を見た事がない、と。


「お前の場合、いっつもそうじゃん。そんなんで、いつ一息つくの?」

「だから、受験が終わったらだよ」

「その後は、資格の勉強がー、就活がー、とか言って逃げ回ってる姿の想像しかつかないんだけど」


あぁ、確かに。その可能性は捨て切れないな、僕の場合。でもさ、見返りがあるかどうかも分からない恋愛に時間や労力を使うくらいなら、やればやるだけ自分の糧になる勉強を優先したくなる気持ちも、価値観としてあるわけですよ。分かって欲しいとかは無いけれど。きっと、話が平行線に終わるだけだろうから。


「恋愛でしか得られない経験って、やっぱどうしたってあるじゃん。俺さ、お前にもっと豊かな人生を歩んで欲しいんだよね」


……誰目線なのかな。いくら小学生からの付き合いだからって、人一人の人生に口出しし過ぎではないですかね。こと恋愛に際して、潤い云々を感じるかも人それぞれだし。恋愛にうつつを抜かすより、勉強している方が心穏やかに過ごせる人だっているでしょうよ。


心配なのは、分かるけれども。僕が仮に、一生独身であるのを貫いたとして、人志自身のデメリットになる可能性は少ないのではなかろうか。お互いに結婚して、家族ぐるみの付き合いをしたいというならば、別だけど。僕は特別、家庭を持ちたいと思った事はないし、これからも、きっとその考え方は変わらないと思う。だけど、これから先にある未来を、今ある価値観で簡単に断定して、この子の今ある気遣いを無碍にはしたくない。この子なりに、僕の事を慮ってくれているのだと思うから。さてさて、どう返したものかな。


「心配してくれて、ありがとう。だけど、焦ったり無理したりして作った関係性は、相手にも自分にも失礼だと思うから……自然な出会いに期待するよ」


自然な流れの中にあって、君とこうして出会えた様に。いつの日か、この人と付き合いたい、生涯を共に歩みたいと思える人が現れるかも知れない。その時が来る日を、ただ待って、じっと待って。待ち続けている間におじいちゃんになったとしても、君なら僕の隣で笑ってくれるでしょう、人志。


「仕方ないやつ」


その台詞、大概自分にも当て嵌まるから、気を付けなよ。お節介なタイプじゃ無いのに、僕の事になると前のめりになる癖、そろそろ直せばいいのに。あと、ストロー噛んじゃう癖も一緒にさ。


もしも君に彼女が出来たなら、僕のかわりに注意してって言わなくちゃなぁ。ただ、それって、とても豊かな発想の筈なのに、何故だろう。


正直なところ、とてもつまらない、と感じてしまうのは。
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