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第二話 くたばれ、青春。夏を前にして。
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頭を使うとカロリーを消費するらしい。だから、受験勉強の為にと折角摂取したカロリーを、人志との会話の最後に胸に沸いた疑問を解消する為に消費した僕は、そのマイナス分を埋め合わせる為に、実家近くのコンビニを利用する事にした。甘い物は特別好きではないけれど、この場合は致し方ない。ゼリー飲料やカロリーバーだと、何だか物々しいし、あんな風に気遣って話の水を向けてくれた人志にも申し訳ない感じがする。だから、手軽に手に入るコンビニスイーツで済ませようと思ったのだけど。
「あー、……」
スイーツ棚にある在庫の中に、目ぼしい存在は見当たらず。僕は仕方なく、その隣にあるパンのコーナーに足を向けた。この際、甘いクリーム状のものが柔らかいパン生地に包まれている、スイーツに半ば分類される様な物なら何でもいい。だいぶ内容を断定してるけど、そこは気にせず、ふらふらと覚束無い足取りで進んで行く。すると、そこには僕以外の先客がいて。丁度良く僕のお腹と頭が所望しているクリームパンの最後の在庫を手に取っていた。
「……ぁ、」
「……え?」
しまった、落胆が声に乗ってしまった。しかも、間違いなく、目の前にいるその人に、間の抜けた僕の落胆を聞かれてしまった。だからこその、反応。だからこその、この場に漂う気不味い空気。この人は何も悪くないのに、このままだと、もしかしたら罪悪感を抱かせてしまうかもしれない。素通りせず、敢えて声を上げてしまったのなら、差し出がましい印象があったとしても、取り敢えずのフォローはするべきだと思う。だから、頭を軽く下げて陳謝し、『大丈夫。そのパンは貴方が先に手に取ったのだから、間違いなく貴方の物ですよ。お気になさらず』と、態度で示そうとした。ただ、僕なりの精一杯のその気遣いは、態度として示されるその前に、その場にて空転した。
「………燈、さん?」
自分の名前が、敬称を付けた格好で、聞いた事のまるで無い声で、曖昧に再生される。発した側である向こうも、まだ僕が僕たらしめている存在であると、確信を得ていない様な不確かさがあった。驚きと、僅かな緊張が、お互いの間に生じる。突然の出来事に、物の見事に思考も行動も固めてしまった僕は、ただ只管に、目の前にいるその人の、一挙一動に注視した。そして、その人が次の反応を返してくれる事を、無言のまま待ち続けた。
「………」
「………」
ただ、沈黙するという手段を、お互いに選び取るかもしれないという可能性は、全く考えていなかったな。はっきり言って誤算ではあるのだけど、僕の名前がその人の口から再生された以上、このままお互いに固まったままでいる訳にもいかない。恐らく顔見知りであるだろう知り合いを忘れるというアクシデントくらい、コミュニケーション能力の塊みたいな人志がいなくても乗り切れるようにならなくちゃ。これから先の未来で、進学したい志望校がお互いに違うから、尚更に。
えっと、名前に『さん』まで付けて丁寧に呼んでくれた事実を鑑みるに、この人は、僕より年下なのかな。幼少中高の、何処の段階で知り合った方かしら。
背の高さは、僕と変わらないか、僕より少し高いくらい。何かスポーツや格闘技関係を習っていると言われたら納得してしまう、ガッチリとした身体付き。そして、その上にちょこんと乗っかる、大粒の団栗みたいに、まんまるで大きな目が印象的な小さな顔。そんじょそこらのアイドルも裸足で逃げ出す様な、一度見たら忘れられないその顔は、ギリシア彫刻みたいに整っている顔立ちをした人志とは、また性質の異なる物だった。こんなにもハッキリとした顔立ちをしている子を、いくら何でも忘れたりはしないだろうと、誰しもが同じ感想を抱くだろう。だけど、申し訳ない事に、今の僕の置かれている状況は、正しくそれだった。
記憶の網に、まるで引っ掛からない。十人が十人、100点満点を付ける様な美貌を兼ね備えた彼にとって、僕みたいな人間はきっと、異質な存在だろう。本当に、ごめんなさい。だけど、全く見覚えが無いんです。とはいえ、記憶にないまでも、愛称を付けて僕の名前を呼んでくれた顔見知りに対して、愚かしくも罪深い知ったか振りもしたくないので、出来ればもう少し情報を頂けたら嬉しく思います。それを手掛かりにして、貴方に関する情報を、自分の記憶の中から引っ張り出しますので。でも、それもだいぶと、小狡いな。
「あの、もしかして、俺のこと分からないとか……ですか?」
うわぁん!直球で来られてしまった!その通りです、申し訳ない!!そうなんです、本当の本当に、貴方の事が分からないんです……
「えと、その……」
こうなってしまった以上は、素直に、正直に、白状するしかない。年上だろう立場上、情け無いにも程があるけど。事実は事実だもの、仕方ないよね。さっき別れたばかりだから、今はもう介錯人の人志がいない。ともなれば、最初から最後まで、全て自分で片を付けるしかない。
「ごめんなさい。僕、とても頑張ってみたんだけど、どうしても君のこと思い出せないや。申し訳ないんだけど、良かったら名前だけでも教えてくれる?」
謙虚さは美徳だと、教えてくれたのは僕の母だった。だけど、こんな状況下にあっては、それだって相手を傷付けてしまう棘となる。知ったかぶりは、自分の首を絞めるからと、自分の性分に素直になってみたけれど。結局は、それも下らないプライドのなり損ないに過ぎないのだ。恥を知れ、清瀬 燈。
「霧峰 誠也です。昔、同じ道場にいた事がありましたよね?隣町に直ぐに引っ越してしまったから、一緒に竹刀を振るった経験は少ないですけど……」
「きりみね、せいや……?」
霧峰 誠也と言ったら、僕の中で記憶の中にある人物は、一人しかいない。だとしたら、だいぶと古い記憶にある人物だけど、それでも良く覚えている。愛らしく魅力的なソプラノの持ち主で、その声にも見合った愛らしい顔立ちで、ちっちゃくて泣き虫で、竹刀を振るより竹刀に振り回されていた様な、そんな子供だった。あのちびっ子が、無事に大成功を遂げた変声期を経て、こんな好青年さながらの美男子に成長していただなんて。時間って凄い。本人の努力も間違いなく凄い。それに比べて僕は、内面も身長も、あの頃から見てみると、ろくすっぽ成長していない。いやはや、これは由々しき事態ですね……帰りたい。
「引っ越した後も、地方試合や県大会で活躍ぶりを拝見していたので、一方的に長い付き合いみたいな気持ちになってしまって、つい昔みたいに接してしまいました、すみません……ていうか、いきなりこんな話されても、戸惑いますよね」
はは、と照れた様な、気まずそうな苦笑を浮かべて、自分の頬を掻いた誠也は、あからさまでは無いにせよ、態度に落胆を滲ませていた。そんな風に、離れてしまってからも僕の事を見守ったり気にかけてくれていた後輩を、こうまですっかり認識出来ないでいただなんて。自分自身が恥ずかしくてならない。今の自分とこの子とを見比べて、早く帰りたいとか考えてしまった自分が、とても情け無い。
「ごめんね、気を遣わせてしまって。でも、嬉しいよ。僕なんかの事、ずっと覚えていてくれて」
「そんな……なんか、だなんて言わないで下さい。いつだって、燈さんは俺の憧れだったんですから」
あぁ、しまった。自分で自分の墓穴を掘ってしまった。過去は過去として取り扱って欲しい僕にとって、この話題は鬼門でしかないのに。これではまるで話を振ってしまったも同然じゃないか。
「引退試合、見てました。俺は、あの結果に納得していません。間違いなく、相手より先に貴方の打突が通っていた」
ほら、やっぱり、こうなる。何度目だよ、このお約束のパターンは。もういい加減、学習しろって、僕。
「……結果は結果だよ。それ以上でも以下でもない。だけど僕は、あの結果に不満は持っていないし、剣道に対しての後腐れも感じていない。だから、無闇に同情なんてする必要はないよ」
僕自身の話をしていても、この話題が出る度に、周りの人が気落ちしたり、残念そうにしたり、同情したりする。きっと、僕の感情や感想や物事の本質なんて、そこには必要ないんだと思う。不遇の天才だなんて、よく言ったものだ。大事な場面を任されて、誰の目にも明らかに優位な場面を任せられながら、おいそれと勝ちを拾いにいけない駄馬を指して言う台詞かしら。きっと、良くも悪くも、目立ち過ぎたんだろうな、僕は。
「ごめん。そのクリームパン、やっぱり僕が買ってもいい?」
八つ当たりだろ、こんなもの。でも、他にどうしろって言うんだ、こんな気持ち。
今直ぐに甘いものが欲しい、ただそれだけ。
それだけの為に、ここに来たんだよ。
「残念ですが、これは俺が先に手に入れたので、俺が買います。それで、これは提案なんですが、近くに公園があるので、そこで半分こにしませんか?」
少しでいいから、ちょっと黙ってくれないかな、天才君。申し訳ないけれど、今の僕は糖分が不足していて、普段よりも一層苛立ちやすくなっているから、僕みたいな石を投げれば当たる様な存在に、これ以上関わろうとしないで欲しいんだ。
なんて、僕の代わりに言ってくれる人は、いないかしら。
霧峰 誠也。忘れもしない、その名前。嫌でも耳にした、その栄光。自分には絶対に成し得ない、その栄華。だからこそ、これまでずっと、極力視界に入れない様に過ごしてきた。僕がずっと目を掛けてきた、たたらを踏みながら竹刀にぶんぶん振り回されていた、ちいちゃな誠也と同一人物だと思わない様に、必死になって情報と現実から目と耳を塞いできた。
凡人は、そうする事によって自分の身を守るのだ。でなければ、自分自身が潰れてしまう。
自分自身に掛ける、期待に。選ばれし者となれなかった、現実を前に。誰かの敗戦を糧にして花咲けなかった、無念と挫折に。
「いいよ」
くたばれ、青春。夏を前にして。
頭を使うとカロリーを消費するらしい。だから、受験勉強の為にと折角摂取したカロリーを、人志との会話の最後に胸に沸いた疑問を解消する為に消費した僕は、そのマイナス分を埋め合わせる為に、実家近くのコンビニを利用する事にした。甘い物は特別好きではないけれど、この場合は致し方ない。ゼリー飲料やカロリーバーだと、何だか物々しいし、あんな風に気遣って話の水を向けてくれた人志にも申し訳ない感じがする。だから、手軽に手に入るコンビニスイーツで済ませようと思ったのだけど。
「あー、……」
スイーツ棚にある在庫の中に、目ぼしい存在は見当たらず。僕は仕方なく、その隣にあるパンのコーナーに足を向けた。この際、甘いクリーム状のものが柔らかいパン生地に包まれている、スイーツに半ば分類される様な物なら何でもいい。だいぶ内容を断定してるけど、そこは気にせず、ふらふらと覚束無い足取りで進んで行く。すると、そこには僕以外の先客がいて。丁度良く僕のお腹と頭が所望しているクリームパンの最後の在庫を手に取っていた。
「……ぁ、」
「……え?」
しまった、落胆が声に乗ってしまった。しかも、間違いなく、目の前にいるその人に、間の抜けた僕の落胆を聞かれてしまった。だからこその、反応。だからこその、この場に漂う気不味い空気。この人は何も悪くないのに、このままだと、もしかしたら罪悪感を抱かせてしまうかもしれない。素通りせず、敢えて声を上げてしまったのなら、差し出がましい印象があったとしても、取り敢えずのフォローはするべきだと思う。だから、頭を軽く下げて陳謝し、『大丈夫。そのパンは貴方が先に手に取ったのだから、間違いなく貴方の物ですよ。お気になさらず』と、態度で示そうとした。ただ、僕なりの精一杯のその気遣いは、態度として示されるその前に、その場にて空転した。
「………燈、さん?」
自分の名前が、敬称を付けた格好で、聞いた事のまるで無い声で、曖昧に再生される。発した側である向こうも、まだ僕が僕たらしめている存在であると、確信を得ていない様な不確かさがあった。驚きと、僅かな緊張が、お互いの間に生じる。突然の出来事に、物の見事に思考も行動も固めてしまった僕は、ただ只管に、目の前にいるその人の、一挙一動に注視した。そして、その人が次の反応を返してくれる事を、無言のまま待ち続けた。
「………」
「………」
ただ、沈黙するという手段を、お互いに選び取るかもしれないという可能性は、全く考えていなかったな。はっきり言って誤算ではあるのだけど、僕の名前がその人の口から再生された以上、このままお互いに固まったままでいる訳にもいかない。恐らく顔見知りであるだろう知り合いを忘れるというアクシデントくらい、コミュニケーション能力の塊みたいな人志がいなくても乗り切れるようにならなくちゃ。これから先の未来で、進学したい志望校がお互いに違うから、尚更に。
えっと、名前に『さん』まで付けて丁寧に呼んでくれた事実を鑑みるに、この人は、僕より年下なのかな。幼少中高の、何処の段階で知り合った方かしら。
背の高さは、僕と変わらないか、僕より少し高いくらい。何かスポーツや格闘技関係を習っていると言われたら納得してしまう、ガッチリとした身体付き。そして、その上にちょこんと乗っかる、大粒の団栗みたいに、まんまるで大きな目が印象的な小さな顔。そんじょそこらのアイドルも裸足で逃げ出す様な、一度見たら忘れられないその顔は、ギリシア彫刻みたいに整っている顔立ちをした人志とは、また性質の異なる物だった。こんなにもハッキリとした顔立ちをしている子を、いくら何でも忘れたりはしないだろうと、誰しもが同じ感想を抱くだろう。だけど、申し訳ない事に、今の僕の置かれている状況は、正しくそれだった。
記憶の網に、まるで引っ掛からない。十人が十人、100点満点を付ける様な美貌を兼ね備えた彼にとって、僕みたいな人間はきっと、異質な存在だろう。本当に、ごめんなさい。だけど、全く見覚えが無いんです。とはいえ、記憶にないまでも、愛称を付けて僕の名前を呼んでくれた顔見知りに対して、愚かしくも罪深い知ったか振りもしたくないので、出来ればもう少し情報を頂けたら嬉しく思います。それを手掛かりにして、貴方に関する情報を、自分の記憶の中から引っ張り出しますので。でも、それもだいぶと、小狡いな。
「あの、もしかして、俺のこと分からないとか……ですか?」
うわぁん!直球で来られてしまった!その通りです、申し訳ない!!そうなんです、本当の本当に、貴方の事が分からないんです……
「えと、その……」
こうなってしまった以上は、素直に、正直に、白状するしかない。年上だろう立場上、情け無いにも程があるけど。事実は事実だもの、仕方ないよね。さっき別れたばかりだから、今はもう介錯人の人志がいない。ともなれば、最初から最後まで、全て自分で片を付けるしかない。
「ごめんなさい。僕、とても頑張ってみたんだけど、どうしても君のこと思い出せないや。申し訳ないんだけど、良かったら名前だけでも教えてくれる?」
謙虚さは美徳だと、教えてくれたのは僕の母だった。だけど、こんな状況下にあっては、それだって相手を傷付けてしまう棘となる。知ったかぶりは、自分の首を絞めるからと、自分の性分に素直になってみたけれど。結局は、それも下らないプライドのなり損ないに過ぎないのだ。恥を知れ、清瀬 燈。
「霧峰 誠也です。昔、同じ道場にいた事がありましたよね?隣町に直ぐに引っ越してしまったから、一緒に竹刀を振るった経験は少ないですけど……」
「きりみね、せいや……?」
霧峰 誠也と言ったら、僕の中で記憶の中にある人物は、一人しかいない。だとしたら、だいぶと古い記憶にある人物だけど、それでも良く覚えている。愛らしく魅力的なソプラノの持ち主で、その声にも見合った愛らしい顔立ちで、ちっちゃくて泣き虫で、竹刀を振るより竹刀に振り回されていた様な、そんな子供だった。あのちびっ子が、無事に大成功を遂げた変声期を経て、こんな好青年さながらの美男子に成長していただなんて。時間って凄い。本人の努力も間違いなく凄い。それに比べて僕は、内面も身長も、あの頃から見てみると、ろくすっぽ成長していない。いやはや、これは由々しき事態ですね……帰りたい。
「引っ越した後も、地方試合や県大会で活躍ぶりを拝見していたので、一方的に長い付き合いみたいな気持ちになってしまって、つい昔みたいに接してしまいました、すみません……ていうか、いきなりこんな話されても、戸惑いますよね」
はは、と照れた様な、気まずそうな苦笑を浮かべて、自分の頬を掻いた誠也は、あからさまでは無いにせよ、態度に落胆を滲ませていた。そんな風に、離れてしまってからも僕の事を見守ったり気にかけてくれていた後輩を、こうまですっかり認識出来ないでいただなんて。自分自身が恥ずかしくてならない。今の自分とこの子とを見比べて、早く帰りたいとか考えてしまった自分が、とても情け無い。
「ごめんね、気を遣わせてしまって。でも、嬉しいよ。僕なんかの事、ずっと覚えていてくれて」
「そんな……なんか、だなんて言わないで下さい。いつだって、燈さんは俺の憧れだったんですから」
あぁ、しまった。自分で自分の墓穴を掘ってしまった。過去は過去として取り扱って欲しい僕にとって、この話題は鬼門でしかないのに。これではまるで話を振ってしまったも同然じゃないか。
「引退試合、見てました。俺は、あの結果に納得していません。間違いなく、相手より先に貴方の打突が通っていた」
ほら、やっぱり、こうなる。何度目だよ、このお約束のパターンは。もういい加減、学習しろって、僕。
「……結果は結果だよ。それ以上でも以下でもない。だけど僕は、あの結果に不満は持っていないし、剣道に対しての後腐れも感じていない。だから、無闇に同情なんてする必要はないよ」
僕自身の話をしていても、この話題が出る度に、周りの人が気落ちしたり、残念そうにしたり、同情したりする。きっと、僕の感情や感想や物事の本質なんて、そこには必要ないんだと思う。不遇の天才だなんて、よく言ったものだ。大事な場面を任されて、誰の目にも明らかに優位な場面を任せられながら、おいそれと勝ちを拾いにいけない駄馬を指して言う台詞かしら。きっと、良くも悪くも、目立ち過ぎたんだろうな、僕は。
「ごめん。そのクリームパン、やっぱり僕が買ってもいい?」
八つ当たりだろ、こんなもの。でも、他にどうしろって言うんだ、こんな気持ち。
今直ぐに甘いものが欲しい、ただそれだけ。
それだけの為に、ここに来たんだよ。
「残念ですが、これは俺が先に手に入れたので、俺が買います。それで、これは提案なんですが、近くに公園があるので、そこで半分こにしませんか?」
少しでいいから、ちょっと黙ってくれないかな、天才君。申し訳ないけれど、今の僕は糖分が不足していて、普段よりも一層苛立ちやすくなっているから、僕みたいな石を投げれば当たる様な存在に、これ以上関わろうとしないで欲しいんだ。
なんて、僕の代わりに言ってくれる人は、いないかしら。
霧峰 誠也。忘れもしない、その名前。嫌でも耳にした、その栄光。自分には絶対に成し得ない、その栄華。だからこそ、これまでずっと、極力視界に入れない様に過ごしてきた。僕がずっと目を掛けてきた、たたらを踏みながら竹刀にぶんぶん振り回されていた、ちいちゃな誠也と同一人物だと思わない様に、必死になって情報と現実から目と耳を塞いできた。
凡人は、そうする事によって自分の身を守るのだ。でなければ、自分自身が潰れてしまう。
自分自身に掛ける、期待に。選ばれし者となれなかった、現実を前に。誰かの敗戦を糧にして花咲けなかった、無念と挫折に。
「いいよ」
くたばれ、青春。夏を前にして。
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